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(3)正当防衛としてのDoS攻撃

 ブロッキングに代わる技術的な海賊版対策として「アクセス集中方式」を提案する――。日本IT団体連盟 政策委員会の別所直哉委員長は2018年8月10日、検討会議にこのような資料を提出し、勉強会でも紹介された。

 アクセス集中方式とは、端的にいえば海賊版サイトにDoS(Denial of Service)攻撃を仕掛け、サイトをダウンさせる、またはつながりにくくする対策だ。

 同連盟はブロッキング方式と比べた利点として、コンテンツの権利者がインターネット接続事業者(ISP)に頼らずに自らコストと法的リスクを負担し、今すぐに実施可能である点を挙げる。このほか、他ユーザーへの権利侵害がない、無関係なサイトへの悪影響がない、海賊版サイト運営者が攻撃を回避するには一定のコストがかかる、などの利点があるとする。

 一般にDoS攻撃はサイバー攻撃の一手段であり、業務妨害罪などの違法行為に問われる可能性がある。この点について同連盟は、「麻薬販売サイトの運営を妨げても偽計業務妨害罪に該当しない」という考え方に照らせば業務妨害罪には当たらない、仮に当たるとしても著作権侵害に対する正当防衛行為として違法性を阻却できる可能性があると主張する。ただし、最終的判断は裁判所によるという。

 ただし「憲法等」「技術」などの各グループの討議では、サイバー攻撃の一手段であるDoS攻撃を許容する提案に否定的な意見が目立った。

(4)DNSブロックキングによるアクセス遮断

 日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の前村昌紀委員は勉強会で、ISOC(Internet Society、IETFの上位団体)が作成した「コンテンツブロッキングに対するISOCの展望」と題する資料の私訳版を紹介。ISPによるブロッキングについては、幾重にも回避策があって効果が薄い、過剰ブロッキングなどの副次的な悪影響がある、費用対効果も悪いなどの問題点を指摘した。

 前村委員は回避策の一例として、Firefoxの開発版を挙げた。システムのDNS指定に従わずにDNS over HTTPS(DoH)でFirefox指定のDNSを参照する方針に向かっているとする。「これが実施されるとISPやキャリアでブロッキングしても意味が無い。このことが端的に、ブロッキングの回避が非常にたやすいことを示している」(前村委員)。

 カドカワ社長の川上量生委員は、ISOCの資料について「DNSブロッキングについて、この資料に書いてある議論は参考にならない」と反論した。具体的には、コスト面では既に児童ポルノで実現したブロッキング機能にリストを上乗せすれば済む点、過剰ブロッキングについては「漫画村はほぼ全てが違法コンテンツであり、あてはまらない」(川上氏)点を挙げた。

 DoHやパブリックDNSなど外部DNSを参照する回避策について、川上氏は「クラウドフレアやグーグルがDNSを運用するとすれば、両社にもブロッキングを要請するべきだ」と主張した。「グーグルがパブリックDNSを立ち上げたのは言論統制への対抗策であり、著作権侵害を許す大義名分があるとは思えない」(川上委員)。

 仮に、ブロッキング申請を受け付けない外部DNSをFirefoxなどのブラウザーがデフォルトで参照し、「ブロッキング対象の海賊版サイトを閲覧できるブラウザー」として喧伝されるようになれば、「Firefoxにもクレームを入れるなど、何らかの責任を問える」(川上委員)とした。仮に行為が止まらないにせよ、影響力のある事業者に責任を問い続けることが重要だと主張した。

 専用スマホアプリが登場して誰でもDNSブロッキングを回避できるようになるのでは、との意見に対しては「現状、違法な音楽配信アプリについてグーグルなどは配信を止めている。全てのユーザーが回避アプリを使えるようになるとは思えない」と反論。真に回避すべきは、漫画村のように、著作権侵害サービスが広く知れ渡り、万人が使うような状況だとした。

 個別討議で「憲法・手続法等」グループからは、DNSブロッキングについて「ハイブリッド的な方法も検討できるのでは」との提案があった。

 ユーザーが海賊版サイトに接続した際、まずISPが「海賊版サイトに接続しようとしています」などの警告画面を表示する。それでもサイトを見たいユーザーは画面内のリンクを通じてサイトを閲覧できる。

 警告画面を出す時点で「通信の秘密」を侵害している点はDNSブロッキングと同じだが、ユーザーに選択肢を与えていることから、約款変更の包括同意などで実施できるのでは、との主張である。

 次回の第5回検討会議は2018年8月下旬に開催される。