いらっしゃいませ。
当協会にようこそお越しくださいました。
私は営業のカステラと申します。どうぞよろしくお願いいたします。
当協会は皆様の良きパートナーとして親切丁寧をモットーに営業しております。
どうぞお楽になさって下さい。こちらへお掛けくださいませ。
お茶は何にいたしますか。コーヒーでよろしいですか。
はい、あったかい方ね。いえいいんですよ。私も頂きますから、ははは。
どうぞくつろいで下さいね。お気を楽になさって下さい。
まずそうですね。私共の活動について若干ご説明いたします。
パンフレットをごらんになったんですか。テレビですか。
ああインターネットでごらんになったのですか。それなら話は早い。
御存じの通り、この方面の法律の整備ができましたのはごく最近のことでして
まだ充分にみなさんが理解しているとはいえない状況ですけど、
かいつまんで説明いたしますと、当協会の目的は、幸せな死のお手伝いというところです。
もちろん生と死の尊厳につきましては、これはもう私のようなカルイ人間が、ひとことふたことで言い表すことなど、とてもできません。
それは、皆様がもうすでに家族の方々や、お医者様や、神様仏様や、ご先祖さまと相談されて、充分にお考えになった上で導きだされた、すばらしい結論です。
でも、その結論を下すことと、その結論を実施することは、違うんですねえ。
せっかく出した結論を実行するまえに、どんなにたくさんの悩める方々が、さまざまな障害にぶつかって挫折されたことか。その結果、死を迎えることもできず、前よりもまして悲惨になった人生があることを私は知っています。それは取り返しのつかないことさえもあるのです。
それは個人だけでなく、社会としての損失なのです。この健常者への安楽死の容認というものを、国家が認識したということが時代というものですな。
死の判定を行う機関とは完全に独立しております私ども第三者の機関が、徹底的に法律的問題、財産問題、残された家族の問題をフォローしながら遂行することが、それで必要となるわけです。
私共は、ビジネスとして安楽死を扱っておりますが、その為に死の尊厳が損なわれるということは全くありません。私どもはきわめて正確にそれを実行するための、最高の技術とスタッフを揃えております。それは世界各地の協会がビジネスに徹し切磋琢磨するからこそ、競争原理によって可能になったことです。私どもはあなたさまが、ここまで葛藤されてきた重荷をすっかり取り除いて、本来の死ぬ権利をのびのびと行使することを可能にするための機関なのです。
生と死を商品として扱うのはこのように、特殊な背景によって設立された当協会だけにゆるされた行為なのです。ご安心いただけましたでしょうか。
さてここからは現実的なお話となりますが。
今日はアンケートをお持ちになっていますか。ああ、そうですか。それでは私の問いに答えていただければ結構です。なに簡単ですよ。たった10項目で終わりです。
まず、あなたはいま死にたいですか。
あははは当たり前ですよね。では○。
じつは、指定の時期に死にたいとおっしゃる方が、たまにいらっしゃるのですよ。そういう人は大抵犯罪を犯す腹積もりがあるらしいんですな。
こういう方がいらっしゃったときには、警察に連絡することになっております。こわいですね。
二つ目ですが保険は全て解約して頂きます。
御存じの通り、私どもは生命保険協会ともタイアップしておりまして
これは生命保険の趣旨からしてもっともなことだと思いますね。
よろしいですね。これも○。
いえ、たまに入っていらっしゃらない方がみえましてね。
保険に入っていない人は安楽死もできないご時世ですな。
三つ目に健康診断書は持ってこられましたか。ああ、お見せ下さい。
うんうん立派なものです。眼球と腎臓と心臓は健康そのものですな。
これは引く手あまたです。血液がちょっと問題がありますね、でも
精製すれば充分薬品素材として使用可能です。
いま丁度貴方の体質に合致する薬指と小指の引き合いがきています。
よかった緊急で送付することができます。社会のお役に立てますよ。
ああ、私どもは臓器銀行や製薬会社とも友好関係にありますんでね。
これも○と。
四つ目にこれは特に大事なことですが、ご家族の了解です。
おやまだ取ってないようですね。そうですか。
そのフォローももちろん当協会はお手の物です。あなたの物理的精神的苦痛を細かく記述いたしました報告書を作成いたします。なにこれは結局お役所が必要なんですな。そして、専門官がご家族への説得を行います。これは貴方様の同席が不必要です。実はご家族には貴方様がいかに不必要かを説明いたしますのでね。当協会のフォロー担当は非常に優秀でして、いままで100パーセントの成功率を誇っておりますのでご安心下さい。それから、最近になって法の拡大解釈が進んでおりまして、これは事後承認でもいいんじゃないかという判例が出ております。
たとえばロミオとジュリエットのように、芸術文化的局面で死を迎えたいとお望みであれば優先させようというものです。
そのためには、語り部としてあなたの死を語って頂く為の保証人が必要になります。そして文化芸術的価値についての選考が行われまして、Bランク以上についてが、特別許可となるわけです。
事後承認における、芸術文化担当官も当方では準備しておりますので必要ならばご用命下さい。
五つ目に、費用の件ですが。あなたは不本意な死という汚名を抱いての、無念の葬儀というものは決してして欲しくないでしょう。そうでしょう。
当協会では、あなたが生前どんなふうに生き、どんなに悩み、葛藤し、そしてみずからの意志で死を選んだことを、尊厳を込めて訴えることのできる葬儀を行なうことができます。本来葬儀とはそういうものでしょう。人間の死の儀式を誰もが最高の形で行うことかできるのは、当協会が設置されたからこそ可能になったことです。
この葬儀は当協会の専属斎場をご使用頂くことになります。いろいろな演出が必要になりますのでね。
まあそれなりに費用はかかりますが、でも、これらのお金を払って頂くのは後からでいいんですよ。
あなた様の生命保険の解約金と、臓器銀行からの手数料を頂くことになりますが、ここにその用紙がありますので、サインをお願いいたします。 なに、それもあとでいいんですよ。そう直前で充分です。
六つ目に実施方法ですが。
これはいろいろな方法がありまして。まずガス、これは殆ど一瞬で処理できますが体液へ有害成分が浸透して、移植に支障が発生するものがありますので、臓器銀行からの取り分が減少いたします。このため、死体処理方法が、このパンフレットでいきますと松竹梅の梅ランクとなります。私はあんまりお勧めいたしませんな。
それから電気。私どもの処置方法は、非常に強いパルスを送り込んで、心臓を一瞬に停止させますので、痛みはほんのわずかです。ええ、きっとその筈です。それにこの方法だと臓器の痛みが少ないのです。まあ生き締めってやつですかははは。臓器銀行からは、この方法を強く進められております。これにはまた30%の国からの補助金がおります。お得です。これはお勧めですよ。
次には麻酔注射。これは安価ですが、眠りにつくという物理的生理的要求と、それが死に直結するという精神的不安との境目で、眠りながらの恐怖を味わうという研究報告があります。
ほかにも、いろいろな方法はありますが、激痛や、悪寒や、嫌悪を抱かせるという理由で当協会は採用しておりません。
七つ目ですが、・・・おやどうなされましたか。
気分がすぐれませんか。
えっ、気が変わった。そうですか。それは残念なことです。
どうぞ、良き安楽死のご計画をゆっくりとお考え下さい。
それではまたのご来店を、心よりお待ちしております。
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