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【社説】

習氏崇拝の風潮 見直し機運は歓迎だが

 中国の習近平国家主席への権力集中に反発が目立ち始めた。毛沢東時代のような個人崇拝の復活は悲劇である。習政権は「安定」を旗印に反政権の動きを力で弾圧するような暴挙に出てはならない。

 毛沢東の絶対権力が招いた悲惨な文化大革命の反省から、中国共産党は個人崇拝を禁じ、集団指導体制を堅持してきたはずである。

 しかし、習主席は春の全国人民代表大会(国会)で、主席任期の「二期十年」制限を憲法改正で撤廃し、終身制へ道筋をつけた。

 建前上は集団指導体制が党是であることは変わらない。だが、「習思想」が党規約に盛り込まれ、習氏を「人民の領袖(りょうしゅう)」と持ち上げる風潮も広まっていた。

 毛沢東時代の個人崇拝のような習氏への権力集中がさらに進めば、不幸な道の再来である。

 注目されるのは、習氏賛美に公然と反発するかのような社会の動きが出始めていることである。

 上海では七月初め、女性が「暴政に反対する」と主張し、習氏のポスター顔写真に墨をかけた。その模様は動画投稿サイトで公開され、騒ぎは一気に拡大した。

 一九八九年の天安門事件の際、門に掲げられた毛沢東肖像を「専制の象徴」と批判し、生卵やインクを投げつけた元教師ら三人は「天安門三君子」と呼ばれた。

 ネット上には、女性の行動について「時代は違えども、三君子のように独裁者に自ら挑戦した」と評価する意見が寄せられた。

 手法はともかくとしても、個人崇拝の風潮に反対する機運が盛り上がるとすれば、それは健全な社会といえよう。

 「三君子」は無期懲役などに処せられ拷問された。上海の女性も警察に拘束されたという。「法治」を掲げる中国なら、権力を批判しただけで違法・不当に弾圧されることがあってはならない。

 政権側の変化もある。北京の警察派出所が、習氏の写真などを撤去するよう管轄の会社や商店に指示。習氏の思想や業績を研究する事業も中止されたという。こうした動きが、個人崇拝とは一線を画すという習政権の主体的な判断であるなら歓迎したい。

 ただ、中国筋によると、引退した長老らが八月の「北戴河会議」をにらみ、個人崇拝を批判する書簡を党中央に提出したという。

 もしも政権の低姿勢が長老との権力闘争に備えたポーズならば建設的でなく、「毛時代」の悪夢再来へと近づいていきかねない。

 

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