宗教が実践する新たな貧困支援のあり方

[ 編集者:広報室       2017年4月25日 更新  ]

社会学部 准教授 白波瀬 達也

しらはせ たつや

 1979年生まれ。関西学院大学社会学部卒業、関西学院大学大学院社会学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。博士(社会学)。福祉社会学、宗教社会学、貧困問題が専門。大阪市立大学都市研究プラザGCOE特別研究員を経て関西学院大学社会学部助教。2015年4月より現職。共編著に「釡ヶ崎のススメ」(洛北出版、2011年)。

 大阪・あいりん地区を主なフィールドとして、ホームレス問題について研究している社会学部の白波瀬達也准教授。格差社会が進行し、若年層における貧困なども社会問題となるなか、貧困の現場からみえる日本社会の課題とは。その研究の最前線を追う。

社会学部 准教授 白波瀬 達也

社会学部 准教授 白波瀬 達也


 ホームレスなど公助から排除されやすい人々をどのようなセーフティネットで支えるべきかについて研究している。なかでも「日雇い労働者のまち」と言われる大阪・あいりん地区(別称:釜ヶ崎)で、十数年にわたり深刻なホームレス問題のフィールド調査を続けてきた。世間ではほとんど知られていないキリスト教系の団体が、長年にわたってホームレス支援に取り組んでいる現状に関心を抱き、「宗教が関連する団体のホームレス支援」という独自の切り口で研究している。

 今春にはその研究をまとめた著書『宗教の社会貢献を問い直す ホームレス支援の現場から』を出版した。

学生たちに釜ヶ崎の慰霊祭の説明をする

学生たちに釜ヶ崎の慰霊祭の説明をする

 初めてホームレスに出会ったのは、大学受験を控え奈良から大阪の予備校に通っていたときのこと。地元奈良では見たことのないホームレスの姿に衝撃を受けると同時に、その人々を支援する教会などの存在を初めて知った。

 社会から注目されることもないまま、宗教団体がなぜ長年にわたってホームレス支援を続けてきているのか。その理由を知りたいと大学院生の頃から、あいりん地区で夜回りや炊き出しの支援に携わる傍ら、支援する側、される側の双方を研究対象として活動を続けてきた。

 宗教団体のなかには、布教を重視するものもあれば、救援活動に力点を置くものもあり、さまざまな支援のかたちがあることが分かった。ホームレスの側も、どの宗教かは気にせず、あらゆる支援を受ける人もいれば、実際に特定の教会に入信し、所属する人もいた。

 現場の肉声に耳を傾けるうち、失業だけでなく、家族の崩壊などによって、安定した居場所を喪失した人々がホームレスになりやすいことが分かってきた。

 「例えばフィリピンでは家屋はなくても結婚して子どももいるなど、家族がある場合が多い。ホームレス=家族の破たん、とはならないわけです。しかし日本の場合、こうあるべきという社会規範から排除された人々や社会的に孤立した人々がホームレスになっている。日本で教会などの支援がホームレスの人々に受け入れられてきたのは、そこが孤立した人々にとって『疑似家族的』な場であるからではないか」と考えている。

 近年は東日本大震災をはじめ、被災地支援の場面で宗教団体や宗教者のボランティア活動が注目されるようになった。「ホームレスだけでなく、孤独死や、日本に暮らす外国人の疎外など様々な問題を解決するヒントが、教会をはじめとする宗教団体等が続けてきた支援活動のなかにあるのではないかと思っています。それを解明することで、例えば国の社会福祉制度の隙間を見つけ、新たな支援の在り方を社会に提示したい」と意気込む。

 来年には、あいりん地区の歴史をまとめた本も新たに出版予定。複合的な要因が重なり生み出されるホームレスという複雑な問題に社会がいかに応じていくかを探るため、今後もあいりん地区に軸足を置いた研究を続けていく。