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【社説】

首都高と日本橋 地下化以外の選択肢も

 国の重要文化財「日本橋」の景観を維持するための首都高地下化計画で、民間と行政の費用分担額が決まった。だが巨額の事業費や交通動態の変容を考えれば、むしろ撤去も選択肢の一つとしたい。

 東海道など五街道の起点だった日本橋は、江戸時代をしのぶ貴重な歴史的資産であることは言をまたない。

 前回一九六四年の東京五輪開催に間に合わせるため、高度成長期に急いだ国家事業は日本橋の上空を覆い、文化や歴史や景観といった国民共有の財産を犠牲にしてきたのである。

 首都高の撤去や地下化の議論は二十年近く繰り返され、ようやく日本橋周辺の再開発計画に合わせて昨年から地下化が加速した。

 総事業費は、従来の五千億円から圧縮されたとはいえ三千二百億円に上る。このうち首都高会社が二千四百億円、再開発計画の民間事業者が四百億円を負担し、東京都三百二十億円、中央区八十億円と税金も多く投入される。

 現場は日本橋川の直下の約一・八キロ区間だから、単純計算で一メートル当たり一億八千万円になる。さらに地下鉄の複数路線を避ける難工事となるため、事業費が膨らむ可能性は否定できない。

 費用対効果を考えれば、日本橋付近の区間は、地下化するより撤去も検討すべきではないか。二〇一二年に国土交通省の有識者会議では、この都心環状線自体を廃止すべきだとの意見も出ていた。

 都心三区(千代田、中央、港区)を通る、この都心環状線は慢性的に渋滞が起きている。それは通過するだけの利用が61%(首都高会社調べ)、実に五台に三台を占めるためだ。

 首都圏には、同線以外にも一五年に全線開通した首都高中央環状線、さらに外環道(東京外郭環状道路)、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の三つの環状線ができつつある。

 都心を迂回(うかい)する車の料金を割り引いたり、パリのように都心部への車両乗り入れを制限したりする方法もある。

 そもそも人口が減少し、また自動運転が実用化される社会が到来する時代である。道路を取り巻く環境は大きく変容している。老朽化対策もあり、巨額の事業費投入の前に考えるべきことは多い。

 ここは拙速に決めず、住民やドライバーら幅広い意見も聞いてほしい。巨額は税金であり、首都高料金を払う利用者に跳ね返るからである。

 

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