東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

中国の一帯一路 バラ色構想の危うさ

 中国の習近平国家主席が主導する「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」に、アジア各国で懸念が高まっている。中国は自国の利益だけでなく、事業の持続可能性にもっと気を配るべきである。

 「一帯一路」構想は習氏が二〇一三年に提唱した看板政策である。中国から中央アジア、欧州へ続く陸の交易路(一帯)と、東南アジア、インド、アラビア半島を経て欧州へ続く海の交易路(一路)で構成される。

 習氏は昨年五月、北京で開かれた「一帯一路」をテーマにした国際会議で、百三十カ国・地域の代表を前に「協力と相互利益を核心とする新たな形の国際関係を構築する」と述べ、構想実現によるバラ色の未来を強調した。

 中国はこの構想を通じ、沿線国のインフラ整備や貿易の活性化を目指すと主張してきた。中国政府の統計では、今年一月から五月までに中国企業が「一帯一路」で新たに調印した海外プロジェクトの契約額は三百六十二億ドル(約三兆九千九百億円)に上る。

 巨額な投資が沿線国のインフラ整備に貢献していることは否定しないが、過剰融資により債務返済が困難になっている事業が目立つのが気がかりだ。

 国際通貨基金のラガルド専務理事は今春、中国の投資について「無償と勘違いしてはいけない」と沿線国に警鐘を鳴らした。

 スリランカ南部のハンバントタ港の開発事業は中国への返済が不可能になり、昨年十二月に九十九年間の港湾運営権を中国企業に譲渡する事態に追い込まれた。

 中国からの過剰融資による財政悪化を懸念する動きも広がっている。ミャンマーは経済特区で進める港湾開発事業の規模縮小の方針を決め、マレーシアは着工済みの長距離鉄道事業を中止した。

 新興国には中国の潤沢な資金は魅力であろうが、事業の採算を冷静に見極め、巨額融資の受け入れを通じ中国に政治的に従属するような事態を避けるべきであろう。

 中国が構想を安全保障でも利用しようとする思惑も見え隠れする。スリランカの港湾権益取得はインド洋での影響力拡大を狙ったものではないかと、米国やインドなどは警戒を強めている。

 中国は「一帯一路は構想であり戦略ではない」と強調し始めた。沿線国への「新植民地主義」との批判をかわす狙いがあろう。国際的に信頼の得られる地域発展プロジェクトとして進めてほしい。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】