三省堂書店有楽町店の岡崎史子さんのおすすめは『イギリス肉食革命』と『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回はいつもと趣向を変えて、定点観測している書店のビジネス書担当者に、夏休みに読んでおきたいビジネス・経済書をすすめてもらった。新刊にこだわらずそれぞれ2冊選ぶようにお願いしたところ、ビジネス系の教養書を中心に多彩な本が顔を並べた。夏の読書の参考にしてほしい。
■「少しビジネスから離れた本を」
八重洲ブックセンターの川原敏治さんのおすすめは『武器になる哲学』と『若い読者のための経済学史』 「ゆっくり時間が取れる夏休みには、少しビジネスから離れた本を読んでみるのもいい」。こう話す八重洲ブックセンター本店マネジャーの川原敏治さんがすすめてくれたのは、山口周『武器になる哲学』(KADOKAWA)とナイアル・キシテイニー『若い読者のための経済学史』(月沢李歌子訳、すばる舎)の2冊だ。『武器になる哲学』はこの5月の刊行。表題どおり哲学を扱っているが、著者はコーン・フェリー・ヘイグループでシニア・クライアント・パートナーを務める組織・人材コンサルタントで、ビジネスにおける教養の重要性を説きつつ、ビジネスに使えるように哲学の様々なキーコンセプトを紹介する内容だ。
選ばれたキーコンセプトは50。これを著者は使用用途別に「人」「組織」「社会」「思考」についてのキーコンセプトに整理する。ビジネスにおける有用性を基準に「アンガージュマン」や「無知の知」「弁証法」といったコンセプトが紹介されている点が読みどころだ。「教養というとビジネスとは関係ない知識と思われがちだが、そこをしっかりつないでいるのがおもしろい」と川原さんは言う。
もう1冊の『若い読者のための経済学史』は米エール大学出版局の入門書シリーズからの翻訳で、ことし2月の刊行。著者は実務経験もある経済史家・ジャーナリストで、プラトン、アリストテレスから現代のポール・クルーグマン、トマ・ピケティまでを追いかける。経済学の様々なテーマを40の章に仕立て、重要なキーワードに留意しながら、経済学が何について考えてきたかを説いていく構成だ。
■感動のプロジェクトストーリー
リブロ汐留シオサイト店の三浦健さんのおすすめは『夏空白花』と『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』 リブロ汐留シオサイト店店長の三浦健さんのおすすめは、最近の売れ筋から2冊。まずあげてくれたのはビジネス書ではなく、須賀しのぶ『夏空白花』(ポプラ社)という小説だ。戦争で中断した夏の高校野球大会(当時は中等学校野球大会)を戦後わずか1年で復活させたドラマを、直木賞候補にもなった作家が史実に基づいて小説にした。「第100回を迎えた今年の夏だからこそ、読んでほしい」と三浦さん。ひとつのプロジェクトストーリーとして読めば、「ビジネスパーソンも勇気づけられると思う」と言う。
もう1冊はデイヴィッド・S・キダー、ノア・D・オッペンハイム『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』(小林朋則訳、文響社)。タイトル通りの教養書だが、起業家とニュース制作会社の社長が著者なのがみそだ。月曜は歴史、火曜は文学、水曜は視覚芸術、木曜は科学、金曜は音楽、土曜は哲学、日曜は宗教という具合に7曜日に7分野が割り当てられ、第1週月曜の「アルファベット」に始まり、第52週日曜の「ゾロアスター教」まで、合計364項目の教養が語られていく。太字のリードと本文、豆知識という構成で1項目1ページにまとめられているが、「短いわりに中身が濃い。安い本ではないのに5月の刊行以来うちではベストセラー上位の常連」と三浦さんは話す。刊行が相次いでいるビジネス教養書の中でも定番になっていきそうな売れ方だという。
■デザイン思考をコンパクトに
この4月から準定点観測書店に加わった三省堂書店有楽町店主任の岡崎史子さんが挙げたのは「休みの旅行などに持っていきやすい本」。教養書とビジネス書をバランスよく選んでくれた。ひとつは新書判の教養書で、越智敏之『イギリス肉食革命』(平凡社新書)。一種の文化史を扱った本だが、「食文化から歴史を読み解いた本はロングセラーが多く、今年出たものの中では特におもしろい」と岡崎さんは言う。「16世紀にイングランドで始まった食事情の大変動」を生産者側の近代化を通して見ていく展開は、食ビジネスのイノベーションの物語として現代の企業人にも示唆を与えてくれるかもしれない。
もう1冊は、佐宗邦威『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)。ソフトカバーの小ぶりな単行本だ。最近ビジネス手法として注目が高まっているデザイン思考をわかりやすく体系的に説明した本で、2015年刊と刊行から3年がたつが、今年1月に8刷が出ており、この分野の定番書のひとつになりつつある。「やってみようという気持ちが刺激される本。ビジュアルシンキングがさくさくはかどるツール選びやスケッチのやり方などが載っており、今すぐにでも実践したくなる」とは、岡崎さんの推薦の弁だ。
■ポーター『競争戦略論』が新版に
紀伊国屋書店大手町ビル店の西山崇之さんのおすすめは『[新版]競争戦略論』と『ロジカル・シンキング』 最後に紀伊国屋書店大手町ビル店の西山崇之さんのおすすめは、定番・王道の2冊。「じっくり時間が取れる長い休みには、本格的な本に挑戦してみては」と話す。ひとつは戦略論の古典ともいえるマイケル・E・ポーター『[新版]競争戦略論』(I・II、竹内弘高監訳、ダイヤモンド社)。古典ながら[新版]となっているところがポイントで、旧版の一部を割愛し、ポーター教授の新しい論文をIに5本、IIに3本収録してこの7月に刊行されたばかりの新刊だ。このため一度読んだ人も[新版]で改めて読んでみるのもおすすめだ。
もうひとつはロジカルシンキングの定番として何度も版を重ねている照屋華子・岡田恵子『ロジカル・シンキング』(東洋経済新報社)。著者の2人はコンサルティングファームのマッキンゼーでコミュニケーション・スペシャリストを務めた経験を持つ。2001年刊と刊行からはかなり時間がたっているが、いまだに版を重ねており、内容は古びていない。「同じ照屋氏による『ロジカル・シンキング練習帳』という本が6月に新刊として出たので、これと合わせてビジネススキルの基本を磨くのもおすすめ」と西山さんは言う。
ビジネスパーソン向けの教養書からビジネススキル本まで、多彩な本が出そろった。読み逃していた本や気になる本があったら、手にとってみてほしい。
(水柿武志)
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