挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
トカゲは死ね、ナメクジは死ね 作者:NOMAR
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
5/36

黒い手

 青い髪の男の人に連れられて、部屋を出る。寝ている私を脱がせて着替えさせて、いろいろ見ておいて平然としている。なんなんだ、この人は。部屋の外は真っ白で広い通路。SF映画の宇宙船の中のようだ。窓はない。

「こちらですよ」

 言われるままについて行く。この声だけ聞くと、訓練中ずっと私に指導してたのは、この人なんだろう。訓練の内容と機体の説明以外に会話をしたことが無いから、私はこの人の名前も知らない。


「あなたの名前は?」

「まだ、名前はありません」

「え、名前、無いの?」

「私はあなたの身の回りのお世話をするためのロボットです。良い呼び名が決まりましたら、私に登録してください。それまでは、役割としてのマネージャーとでもお呼び下さい」


 普通に人間だとおもってた。ロボットだと説明されても、ぜんぜん機械に見えない。身長は190cmぐらいあるだろうか。スマートでネクタイの無い黒いスーツのような執事服のような服装。青い髪、青い眉毛、黒い瞳。本当にロボットかとじろじろ見てたら、目が合った。柔らかくニコリと微笑む表情に驚く。会話にも表情にもロボットらしいところが無いから、ちょっと信じられない。

 マネージャーって、誰の?私の?


 通路には私達2人だけで、人がいる様子は無い。静かで私達の足音だけが響く。今度はエレベーターに乗り上に移動する。

「ここは地下の施設です。ハンガーは地上近くにあります」

 エレベーターの速度がわからないから、どれぐらい地下深くにいたのか見当もつかない。だいたい施設ってなんの施設。

「和国の基地です。和国防衛のための施設で、今日からあなたが暮らす家でもあります」


 エレベーターから降りてまた通路を進む。あなたが暮らす家とか言われても、ピンとこない。連れられて行った先、扉を抜けると広い空間に出た。工場のような空間。働いている人がひとりもいない、ハイテクな機械だけが動く巨大な工場。

 そんな空間の壁際の通路にいる。手すりから下を覗くとけっこう高い。建物でいえば三階くらいの高さ。通路を歩いてゆくと、人がいた。真っ白な髪の男の人だ。

「初めまして、私はウキネ様のマネージャー、シロと申します」

 深々と一礼するこの人もロボットらしい。この人も人間にしか見えない、もしかして私をからかっているのだろうか。

「ウキネ様はあなたの上官になります。先程、調査から帰還しましたので、ここでしばらくお待ち下さい」


『機体の洗浄、殺菌、消毒、完了しました。ハンガーに入ります』

 壁が開いた。開いた壁の向こうから大きな人の形をしたものが入ってきた。動く歩道にでも乗っているのか、足を動かさずに滑るように移動してきて私の目の前まで来る。

 これをロボットと言われたら、一目で納得する。赤一色で染められた、人の形をした金属の固まり。色は違うけれど手と足の形に見覚えがあるから、私が訓練していた金属の身体はこれと同じものなんだろう。訓練で出てきた敵が小さいのでは無くて、あの機械の身体が大きかったわけだ。

「あれに、私の上官?が乗っているの?」

 シロと名乗ったマネージャーロボットは、はい、そうです、と答えた。


『操縦席、分離します』

 私とマネージャーのいる通路は大型ロボットの胸の高さ。工場のようなハンガー?にアナウンスが流れたあと、壁から機械のアームが伸びる。大型ロボットの胸からバシン、バシュンと音が鳴ってロボットの胸が開く。壁から伸びたアームがロボットの胸に入って、中身を取り出して私の目の前に置いた。黒い大きな水筒にゴチャゴチャといろんな機械の部品をつけたようなもの。大きさは、自動車よりは少し小さい。


 黒い巨大水筒が蓋を開ける。ガチャリ、カシャン、パカリと3重になってる蓋が順々に開いていく。その中に人がいた。中の人の顔に見覚えがあった。

「木下優希……」

 思わず名前が口からこぼれた。驚いたのは、機械の中から出てきたのが木下優希だったから。全身素っ裸の木下優希が、仰向けに寝そべって自分の身体を隠そうともしないで、堂々と裸身を晒していたからだ。


「接続解除」

 彼女が一言告げると、また機械から音が鳴り、彼女の手足が機械からの拘束から離れた。彼女の手足は、無かった。仰向けに転がった彼女の腕は肘までしか無くて、足は膝までしかない。肘と膝の断面は機械で出来ていた。

 私は、驚き過ぎて頭と身体が固まってしまった。硬直したまま、目の前のことを見続けていた。


 シロ、と名乗った男が黒い棒のようなものを持っている。よく見れば、黒い色の、腕、だった。その黒い義手を木下優希の腕の断面にくっつける。一瞬だけど、彼女が眉間に眉を寄せて何かに耐えるような顔をした。

 シロが続けて、もう1本の腕、それから2本の足をくっつけていく。4本ともつけ終わると、彼女は動作を確認するように何度か手足を動かしたあと、展開した黒い巨大水筒から通路に降りた。


 手足は黒い機械?手足ってそんな簡単にくっつくもの?この木下優希の顔をしてる人もロボットなんだろうか。

 通路に降りた彼女にシロが白い布を渡す。彼女がそれを頭から被る。裾の長いTシャツだった。膝上まである白い無地のシャツ。そして手足はツヤ消しの黒。このひとは、いったいなんなのだろう。この人が私の上官、らしい。


「あなたも、ロボットなの?」

 目の前に立つ彼女に、聞いてみた。いきなりこんなことを聞くのは失礼かもしれない。言ってしまってから後悔した。

「私は人間だ」

 彼女はなんの感情も感じられない声で答えた。良かった。怒ってはいない。だけど、

「その、手足は?」

 手足が簡単に付け替えできる人間を、私は知らない。そんなロボットも知らない。ここはとんでもない水準の、私の知らない科学技術があるところらしい、そこまでは解った。解ったけども。彼女は黒い手を顔の高さにあげて握ったり開いたりしてみせる。

「私達の身体は機械と接続して直接操作できるようになっている。手袋をとって見ろ」

 手袋。そうだ、私は目が覚めたときには手袋をしていた。右手で左手首のボタンを外して、左手の手袋を外す。

 手袋から出てきた私の左手は、ツヤ消しの光沢の無い黒い色一色だった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。