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トカゲは死ね、ナメクジは死ね 作者:NOMAR
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訓練


「神経接続、感覚反応値を検出、個人差微調整開始します。問題ありません」

 ……おとこのひとの、こえがする。

「適性二級か、二級を徴兵するのは初めてだな」

 ……今度は、女の人の、声だ。

「もう、一級は残っていませんので、それに一級であっても上手くいかないケースもありました。二級だからといって適応できないと決まってはいません」

「まぁ、私1人いれば、問題無い。機械が壊れなければ、いつもどうり私の仕事は変わらない」

 ……なんだか、変な夢。耳元で男と女が意味のわからない話をしている。

「意識覚醒します。訓練用地形データ設定、訓練プログラム起動します」


 覚醒します。起きます。今日は金曜日。明日は土曜日。今日は学校に行って、明日は弓子と映画の予定、あ、授業前に弓子から古文のノート返してもらわないと。それにしても変な夢、暗いところで人がブツブツ話してるなんて。


「ふわ……ぁ」

 あくびひとつして右手で目を擦る、ゴツン。

 …………ゴツン?

 右手を見る、金属の、グローブ? 握る、開く、握る、開く。金属に覆われた右手もグーパーグーパーと動く。左手、見る。左手も金属のグローブ。なに、これは。手首も肘も金属に覆われている。身体は? 胸、腹、腰、足、全部金属に覆われている。金属の鎧を着てる? 寝てる間に金属の鎧を着せられた?


 ……夢か、私はまだ寝ていて、夢を見ている、うん。

 ベッドで寝ていたはずなのに、今は立っているし、全身金属に覆われているのにぜんぜん重さを感じないし。まわりを見れば、ここは私の部屋じゃない、灰色の大地に灰色の山が見える。天井も無くて、濁った灰色の空が見える。あんまり綺麗とは言えない景色。


「覚醒しました。接続良好、訓練プログラム待機状態です」

 また声がする、さっきの声とおなじ男の人の声。

「起きたか、では、訓練を開始する」

 これは女の人の声。どちらも姿は見えないのに、耳元で声が聞こえる。

「状態表示」


 女の声がそう言うと、視界の左端と右端に薄緑色の記号と数字がズラズラズラと並ぶ。なんの記号か、なんの数字かまるでわからない。

 うーん、寝る前に見たDVDの影響で見る夢なら、ドラゴンとドラゴンスレイヤーの騎士が出てくるハズ。ドラゴンがおじいちゃんで痛風に困ってて、退治に来たハズの騎士がドラゴンと仲良しになるほのぼの展開で、なかなか良かった。


「訓練プログラム、始動。視界中央の赤い丸に注目しろ」

 女の人の声は、平坦な感情を感じられないような命令口調。赤い丸? 私の目の前に赤い丸があった。その丸の中に白い人がいる。全体のシルエットは軍隊の人のように見えるけれど、迷彩服のような緑色ではなく全身が白色。顔も白色。なにより小さい、かなり遠くにいるのだろうか。

「赤い丸の中に見えるのが敵だ。今から攻撃してくるので、よく見て、回避か防御しろ」

 攻撃? 赤い丸の中の白い人は、肩に筒状の物をのせて、私に向けた。ドン! と音がして、その筒から飛び出たモノが私の胸にあたる。爆発音。

「かはっ」

 胸を押し潰されるような衝撃に、肺の中の空気が押し出されて、私の口から変な声が漏れる。背中と後頭部に痛み、仰向けに倒れて地面に背中と後頭部をぶつけた。


 痛い、すごく痛い。夢なのに、痛いのに、目が覚めない?

「今ので死んだぞ」

 死んだってなに? 誰が? 私が? 痛い、身体中痛い。視界右側の薄緑色の記号のいくつかが赤色になっている。

「再起動、初期位置リセット」

 痛みが消えた。いきなり消え失せた。倒れていたはずなのに、起きて立っている。


「訓練再始動、視界中央の赤い丸に注目しろ」

 さっきと同じように、白色軍人が肩に筒を構える、また?

「回避、又は、防御だ」

「なんなの?これはいったいなんなの? 夢でしょ?」

 白色軍人の肩の筒から、またなにかが飛んでくる。いや、痛いのはいや、いやだって言ってるでしょ!

 爆発音、そして、また激痛。痛い、胸が痛いよ。今度は倒れたときに左肩を打った。そこも痛い。なんでこんな目に?

「また、死んだぞ。これを夢だと思おうが、現実だと感じようが、するべきことは変わりはしない。再起動、初期位置リセット」

 命令口調の乾いた声が告げると、また痛みが消え失せて立っている。


「敵をよく見て、回避か、防御だ」

 回避ってなに、防御ってどうするの、だいたいこれっていったいなんなの。白色軍人はまた、肩に筒を構える。

「やめて! もう、やめて! 痛いことをしないで! やめて! やめてー!」

 私が泣いても、叫んでも、白色軍人は止まらない。肩の筒からまた発射、また爆発。

 今度は逃げようとして背中に当てられて、顔から地面に突っ込んだ。背中、痛い。鼻が、痛い。許して、助けて。もう嫌だ。

「あとは、任せた」

「わかりました」


 いったい、これはどういうことなんだろう。背中が、痛い。私は、なぜこんな目にあっているんだろう。鼻が、痛い。地面に擦った右の頬が熱い。

「再起動します」

 今度は男の人の声がする。

「訓練を続けます」

 まだ、やるの、こんなこと、こんなひどいことを、

「規定の訓練課程を終えるまで、続けることになります。防御してみましょう。左足を前に、右足を後ろに」


 この声が、再起動、と言うと痛みは消える。でも、もう、痛いのは嫌だ。

「上手く防御できれば、痛むことはありません。さぁ、左足を前に、右上を後ろに。盾を左手で構えて、腰を落として、重心を下げて安定させて下さい」

 言われたとうりに身体を動かす。左足前に、右足後ろに、

「敵の攻撃を盾で受け止めてください。衝撃に備えて、足を踏ん張って下さい。そう、そうです。それが防御姿勢です」

 左手の盾からドカンと衝撃が走る。のけ反って倒れそうになるのを2、3歩後退してこらえる。

「いいですね、その感じです。では、続けますよ、視界中央の赤い丸に注目してください」

 これを、まだ続けるの? いったいいつまで?



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