最近弁護士先生と会話を続けているせいか、こういう話題にも興味を持ってきた。
どの罪に、どんな形の罰が相応しいのだろう?
それはやはり「法」でも語った通り、見事に恣意的な操作が行われているに過ぎない。
ありていに言えば、ただの感情論だ。
アニメ業界に入って3、4年経ったくらいの時期、四つ下の後輩のDと良くつるんでいた。
彼は大学が東京で、その頃は僕が東京出張の際、ちょっと明日日曜やから遊ぼか、と彼の家に泊まり、彼の車で湘南まで行き、意味もなく「ええ夕日やなぁ・・・」と、眺める仲だった。
その後彼が就職して大阪に戻ってきてからは、毎週のように会って、飲んでいた。
ビンテージウィスキーにハマったのもこの頃だ。
で、ある日、有馬温泉にでも日帰りで行こうか、という話になった。
彼は車が大好きで、特にH社の車が大好きで、しょっちゅうH車で六甲山などに登っては、薄暮の神戸を山頂から眺めて「ええなぁ・・・」と感慨に耽る、ちょっとアレな二人組になっていた。
とある日帰り温泉の駐車場まで来た。
この時、珍しく彼がバックで上手くいかず、あれあれ?と思っているウチに、出かけだった隣の車に、コツン、と当ててしまった。
あちゃー、やってしもた。
後輩Dは蒼ざめて運転席から飛び出し、当てた車の運転手も出てきて、うおーこれは結構いかつい顔やぞ!
Dはひたすら謝るのだが、相手は物凄い剣幕、
「何ぶつけとんねん、オイ車まるっと修理するから全額払わんかい」
Dは気が動転しすぎて、財布からいくらか札を出そうとしたのだが
「何こんなんで済まそうとしてんねん、車総とっかえや、全額払え!」
物凄い脅しだ。
お次は家族が飛び出してきた。
母親はヒステリー起こして何言ってるのか意味不明、息子も結構な歳だが、「こんな人間にはなりたくない」とか言い出す始末。
俺ら、そんな大それたことしたか??
僕は、動揺しつつも、こりゃ警察やなぁ、と思って助手席から出て、
「とりあえず、警察呼びましょうよ」
さすがに向こうの家族も納得したらしく、
「ああー!呼ぼ呼ぼ!」
警察が来て、その家族は僕らがいかに異常であるかをヒステリックに訴えるのだが、警察の方は、
「ああー、単に運転が下手やったってことやね」
と、軽くいなしていた。
そこでお互いの身元確認をするのだが、相手の運転手が会社名を訊かれた時、堂々と、
「H技研工業!」
唖然となった。
おい、車屋かい。
しかも、俺らの乗ってる車作ってる会社かい。
僕はこの瞬間、人間の常識というものを疑った。
僕にとっては、まぁ言わば、大事な顧客を理不尽に脅しにかかったとしか思えなかった。
僕はH社の車にだけは決して乗らないと決めた。
もう一度最初の話に戻るが、人が人を裁く時、人が人に罪をなすり付けるとき、感情というものを極力排さない限り、とんでもない異常な裁き、いやリンチが、往々にして行われるものだ、ということだ。
もちろんそれを抑制するために「法」や警察があるのだが、しかしそれ以上に、みんなの中にある「常識」というものが問われるのだろう。
でなければ、どんなハチャメチャなことも感情に任せて行われてしまうのだ。
「法」よりも「常識」、僕はそれをすべての人に訴えかけたい。