内容説明
戦後民主主義の「神話」を解体する
戦後政治の最大の争点は憲法9条ではなかった! 戦後民主主義の「神話」を解体する画期的論考。
「丸山の論文は戦後の知識人の共有する神話として、大きな影響を政治にも日本人の思考にも与えた。彼の物語を読み解いて「脱神話化」し、戦後の知識人がどこで間違えたのかを検証することは現代的な意味をもつと思う。」(「はじめに」より)
敗戦70年を迎えるあたりから、戦後思潮を問い直す従来の動向を大きく乗り越える著作が世に問われるようになった。そこでは戦後史の「正体」や戦後日本の「核心」が焦点になっている。
ここで分析の俎上に載せられるのは「戦後日本の国体」(篠田英朗)である。暗黙の前提として受け容れられてきた日本国憲法と日米安保条約からなる戦後体制に根本的な疑義が突きつけられるようになったのである。
「一五年安保」における国論の混乱は、こうした疑義に拍車をかけている。
本書は、「戦後民主主義」の旗手とされる丸山眞男の思想と行動を辿ることで、この問題を捉え直そうとする試みである。
戦後の「政治の季節」に颯爽と登場して以降の丸山像は果たして実像を反映したものなのだろうか? 彼の人民主権理解はいかなる過程で獲得されたものなのか? 「六〇安保」以降の日本政治思想史講義はいかなる射程を有していたのか?
本書では、処女作「政治学に於ける国家の概念」以降の丸山の論文、座談、書簡、講義録を広範かつ詳細に検討しながら、これらの問題に明解な回答を与えていく。その先に戦後日本と未来の新たな形が浮かび上がる。渾身の書き下ろし。
[目次]
はじめに
序章 明治の国体に抗して
特高警察の体験/マルクス主義との距離/弁証法的な全体主義
第一章 自然から作為へ
自然から作為へ/発展段階論の罠/前期的な国民主義
第二章 無責任の体系
終戦の日/天皇制の精神構造/既成事実への屈服/軍国主義はファシズムか
肉体政治とフィクション
第三章 平和憲法という国体
「八月革命」の神話/国民主権と天皇主権/平和憲法に反対した人々
永久革命としての民主主義/知識人の「悔恨共同体」/人民主権と総力戦
第四章 知識人の闘い
全面講和に結集した知識人/非同盟と非武装の混同/戦後日本の国体
スターリン批判の批判/憲法問題研究会の知られざる焦点/表と裏の国体
清水幾太郎と福田恆存
第五章 政治からの撤退
民主主義の「危機」/八・一五と五・一九/自由か計画か
挫折した構造改革/戦後民主主義の虚妄/東大紛争の心情ラディカリズム
第六章 「原型」から「古層」へ
敗戦という「開国」/「原型」とその自覚/心情の純粋性
つぎつぎになりゆくいきほひ/「古層」という暗黙知/倫理意識の「執拗低音」
「古層」と仏教/人間と世間
第七章 まつりごとの構造
日本型デモクラシー/「しらす」と「きこしめす」/集中排除の精神
協賛から翼賛へ/天皇制という「日本教」
第八章 武士のエートス
忠誠と反逆/失われたコモンロー/戦国時代の「凍結」
「天下泰平」を支えた軍事政権/合理的官僚としての武士
儒学の正統と異端/武士道は死ぬ事と見附けたり
第九章 明治国家の思想
武士のエートスの「解凍」/国民主義と国権主義/国体という空気
明治の密教と顕教/天皇制の呪力からの解放/O正統とL正統
第十章 武士としての福沢諭吉
惑溺と独立/政府ありて国民なし/福沢の国権論/武士の痩我慢
「脱亜論」から日清戦争へ
第十一章 失われた主権者
総力戦体制を支えたリベラル/自己武装権と集団的自衛権
憲法第九条という逆説/収斂しなかった冷戦/高度成長の見落とし
自発的結社の幻想
終章 永久革命の終わり
総力戦なき総力戦体制/デモクラシーは永遠か/戦後の国体の呪縛
註
索引
[著者略歴]
池田信夫(いけだ・のぶお)
1953年生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本放送協会(NHK)に入局。報道番組「クローズアップ現代」などを手掛ける。NHK退職後、博士(学術)取得。経済産業研究所上席研究員などをへて現在、アゴラ研究所代表取締役所長。著書に『イノベーションとは何か』(東洋経済新報社)、『「空気」の構造』(白水社)、『「日本史」の終わり』(與那覇潤氏との共著、PHP研究所)、『戦後リベラルの終焉』(PHP研究所)他。
*略歴は刊行時のものです