王の二つの身体 作:Menschsein
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「この村が襲われているのを偶然見つけたので。もう少し早く私が駆けつけていれば……」とモモンガはふっと転がっている村人の死体の方へと視線を向けた。
自分がもっと早く駆けつけていれば助かった命もあったかも知れない、とモモンガは悔いているように振る舞う。
「いえ、あなた様が助けに来て下さらなかったら、村人は全員殺されていたでしょう。本当に感謝します」と村長らしき男は頭をまた深々と下げた。
「ところで……私はアインズ・ウール・ゴウンのモモンガです。失礼ですがあなたは……?」
アインズ・ウール・ゴウン。ユグドラシルでは悪名が轟いていた。だが、それだけ知名度があるということだ。印象は良くないかも知れないが、村を助けたという恩義がある。それに、どこのギルドだろうが、プレイヤーが一丸となって協力するべきであろう。
「名乗るのが遅くなって申し訳ございません。私は、このカルネ村の村長を務めております、マルナゲスと申します」
徹底した村人プレイだな、とモモンガは思う。カルネというのがギルド名であろうが、その拠点であると思われるこの村は、はっきり言って貧相だ。課金アイテムを全く使っていないような木造の荒ら屋。モモンガが上位創造魔法で作った方が百倍は良い拠点が出来るであろう。モモンガにとっては何が面白いのかさっぱり分からない村人プレイであるが、それだけユグドラシルが自由度が高かったゲームであったということだ。それに異形種を狙ってPKを繰り返すような集団よりは好感が持てる。
レベルを上げて強くなることだけがユグドラシルの遊び方ではない。それぞれの遊び方があった。それは尊重されるべきだ。
「ん? 話の途中で申し訳ございませんが、新手が来たようです」とモモンガは言った。
「真っ直ぐにこの村へ向かっているようですね。先ほどの騎士たちは先陣であったということでしょう」
「モモンガ様!」とマルナゲスは懇願している。
「もちろんです。乗りかかった船です。村長さんは、念の為に村人たちを集めてください」
モモンガは、
村から見える草原の丘の先を馬に乗って走ってくる集団。敵意はそこから向けられている。
「”
魔法の矢が向かってくる騎士たちに向かって飛ぶ。目指す先は彼等の心臓部分。急所である場所を守っている彼等の装備品もモモンガの魔法の前では意味を成さない。正確無比のその矢は寸分違わず心臓を貫き破壊する。
「む? 一人だけ生き残ったか……」
先頭を駆ける男。後ろの騎士たちが次々と落馬していくのを振り返ること無くただモモンガに向かって馬を走らせている。
「なるほど……。
馬に乗っている人物は腰から剣を抜く。
「俺は王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ! 王国の民を害する輩は俺が許さない——————、とガゼフが言うよりも早く世界が止まった。
「……時間対策は必須なんだがな」
魔法即効無詠唱時間停止の発動によって、モモンガの前で馬から降りようとする格好のままガゼフは止まっていた。
時間停止中における全ての攻撃は意味をなさない。ここで攻撃魔法をガゼフにぶつけてもダメージを与えられないのだ。だからこそ、モモンガ時間を数えながら、魔法を使う。
「
時間停止中に相手への効果を発揮しないのであれば、魔法が切れた瞬間に発動するように魔法を使えばよいだけだ。基本的なコンボだが、タイミングを取るのが非常に難しいため、使いこなせるのは全魔法職の中でも五パーセントぐらいだろうか。
「……さよならだ。どこの誰かはしらないがな……」
魔法が解け、世界に時間が戻ってくる。そして何よりも魔法が効果を発揮した。
男は、そのまま落馬して地面に落ちた。
「これで全部か? いや、まだいるな……」
モモンガが敵意のする方向へ向かうと、そこにいたのは先ほどとは打って変わって、
「逃げずに戦おうとはな! 愚か者め! ガゼフ・ストロノーフを倒す力量は認めよう。だが、それまでだ。最高位天使を召喚する!」
その言葉を聞いてモモンガは焦る。
「失墜する天空《フォールンダウン》」
そして迷わず発動準備時間をゼロにする課金アイテムを使う。戦闘は、やっかいなのが召喚される前に召喚者を殺せ、が鉄則である。
その瞬間、太陽が地球に降りてきたような熱気が地上へと降り注ぐ。
短いけど、視点が変わるのでここで切っておきます。
また、明日は花金なので更新はないと思います。更新したらドタキャンされたと思ってください。