王の二つの身体 作:Menschsein
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モモンガの言葉が理解できなかったのであろう。守護者たちは首を傾げている。ナザリックの知恵者であるデミウルゴスも、守護者統括という地位のアルベドも、トレインという言葉を分からなかったようである。
「トレインというのは、自分を攻撃対象とするモンスターを集める行為だ。そして、そのモンスターを他のプレイヤーに擦り付ける行為は、マナー違反となっている。だが、
「なにを仰っているのです? モモンガ様がそのトレインという行為をしていたとして、擦り付ける相手がいませんよ?
「その通りだな。
「この地を去っていく至高の御方がた。今まで残ってくださっていた慈愛深きモモンガ様を殺すのは、とても悲しいですが……。最上位命令ですのでやむを得ませんね」とデミウルゴスが残念そうにため息を吐いた。
「残念デハアルガ、強者ト戦エルノモマタ喜ビダ」
モモンガは、どうしてこのようなことが起ったのか、何故仲間丹精を込めて作ったNPCと戦わなければならないのかと逡巡する。
そして、決断したかのように自らの切り札を切った。
“本当の意味で死を極めた
瞬間、モモンガの背後の十二の時を示す時計が浮かび上がった。そして魔法を発動させる。
「まさか…… 全員退避!!」とアルベドが叫ぶ。先ほどまで余裕であったデミウルゴスも、青い顔をしながら闘技場の出口へと向かう。
「
周囲に女の絶叫が波紋の如く響き渡る。それも即死の効果を持った叫び声。
モモンガの様々な
だが、
アウラ。
マーレとそのドラゴンの一匹。
コキュートス。
アルベド。
そして、デミウルゴス。
即死効果に対する耐性が無いものでも、生き残っている。レベルが高くなればなるほど、毒や移動阻害などのバッドステータスを、耐性無しでもランダムで回避できる確率が高まる。
守護者全員が生きている。しかし、モモンガは動じない。
「言い忘れていたが、トレイン行為というのは、別にPKするためだけに使われるわけではない。ぷにっと萌えが考案した「みんなで楽々レベル上げ術」では、全員がトレイン行為をし、集合地点に集まる。そして、集めてきたモンスターを一気に範囲魔法で殲滅させるという方法にも使われる」
カチリ。
音と共に、魔法の発動に合わせる形で、アインズの後ろにあった時計がゆっくりと時間を刻み始める。モモンガは守護者達がなんとか効果範囲の外へ逃げようとしている後ろ姿を見つめる。そして、無駄なことを、と思う。しかし、シャルティアは逃げもせず、ただ獲物を見つめる獣のような目で、モモンガを見つめている。
(シャルティアか…… まさか、蘇生アイテムを所持しているとはな。ペロロンチーノの仕業だな。俺対策の悪戯のつもりであっただろうが、まったく迷惑な話だ)
心の中で、ギルド内でも仲の良かった友人に対する愚痴を吐き捨てる。
十二秒が経過し、時計の針は一周を終え、再び天を指した。
そして、アインズの切り札は発動する。
瞬間―― 世界が死ぬ。
シャルティアを除いた守護者たちは、白い靄となって消えていく。堅牢な石造りである
それだけではない。
生命など無い空気すらも死に、直径二百メートルにわたって呼吸不可の空間と化す。
死しかない世界だった。
単なる砂の山と化してしまった
「お見事です、モモンガ様。まさか、逃げ惑う振りをしながら、実は私たちを一か所に集め、一気に片付けることを狙っていらしたとは」とシャルティアが惜しみない称賛をモモンガへと送る。シャルティアには分かっているのであろう。シャルティアとモモンガが、一対一で戦った場合、どちらの方に軍配が上がる可能性が高いのかを。
「なぁに、
「私と一対一で勝てるとお思いですか?」とシャルティアは不敵に笑う。
「あぁ。果てしなく分が悪い戦いだ。お前とサシで戦うことなど愚かだ。だから、私は逃げるとしよう」
「な、逃げるのですか! 他の至高の御方がたのように、私を置いて行かれるのですか? 行かないでください……いや、そういうことではない。逃がしてはいけない。プレイヤーは殺さねばならない」
シャルティアは、懇願する少女のような表情となったと思った次の瞬間には、無表情の、仮面のような顔となっていた。
「当然だろう? 今度は転移で逃げるぞ? 追っかけっこの次は、かくれんぼということだな。さぁ、俺は何処に逃げよう。アースガルズにでも行くかな? それとも、ムスペルヘイムかな? ユグドラシルの世界は広いぞ? それに、シャルティアはナザリック地下大墳墓から外に出たことがあるのかな? ユグドラシルでは、ギルド拠点から出ることが出来ないのではなかったか?」
「に、逃がすか!!」と、シャルティアはスポイトランスをモモンガに向けて突進してくる。
だが、そのスポイトランスの槍先にすでにモモンガの姿はなかった。