王の二つの身体 作:Menschsein
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モモンガは走り続ける。まさか、アインズ・ウール・ゴウンが支配するナザリックという、自らの庭とでも言うべき場所で、
荒野を走り抜ける。モモンガの右手には、ギルドの証であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが握られている。そして彼の後ろを、桜花聖域の領域守護者が追いかけてきている。
灼熱地獄の中をモモンガは走り続ける。紅蓮が溶岩の川へとモモンガを引きずり込もうとするのを躱しつつ、右足が沈む前に左足を上げることによりその川を横断していく。
だが、第七階層から第六階層への走り抜けているモモンガは違和感を覚える。NPCたちの追撃が止んだ。モモンガの背後を突き刺し続けた殺気。それが消えた。
嵐の前の凪のような、そんな不気味さを感じながらもモモンガは走り続ける。第六階層のジャングルを避けてモモンガは走る。そしてたどり着いたのは、
「モモンガ様!!」とダークエルフの姉の方がモモンガの前に立ちはだかった。そして、アウラは、巨大な狼であるフェンリルの背にまたがっている。追っかけっこなら負けないよ、とでも言いたげな笑顔でモモンガを見ていた。
「お姉ちゃん! モモンガ様が本当に来ちゃったよ。どうしよう」と不安そうに言うマーレであるが、マーレが騎乗しているのは、レベル90近いドラゴン。課金アイテムでもレアに分類されるドラゴンだ。そして、もう一匹ドラゴンが後ろに控えている。不安そうに言っている割りに、モモンガが逃げれば即座に追っかけてくる態勢は万全であろうように思える。むしろ、ドラゴンで飛行して追撃してくる分、タチが悪い。
「うん。アルベドから連絡があった通りだね。ここで待っていればモモンガ様は自ら檻の中に入るからって」
檻というのは、この円形劇場の闘技場のことであろうか。
「あ、足止めをしなきゃいけないんだよね。でも、ナザリックの支配者であるモモンガ様だよ」と、マーレは今にもなきそうな顔をしている。だが、マーレがしっかりと手に持っているのは、
「マーレ! 最上級命令だよ! あんたが足止めしたあと、私が攻撃するから! はやくやりなさいよ」
「うん、わかってるよ、お姉ちゃん。
それと同時にモモンガは対抗呪文を発動するが、その間隙を縫うような形で、アウラが動いた。
「影縫いの矢」
「汚ねぇ!!」とモモンガは叫びながら、ぎりぎりでアウラのスキルを防ぐ。マーレが足止めをはかり、アウラが攻撃をするという二人の会話を聞いていたモモンガは思考が操作されていた。
まさか、アウラまで足止めのスキルを放ってくるとは予想を超えていた。最悪、アウラからの攻撃は防ぐ手立てがないのであれば一発食らう覚悟だった。いま、モモンガにとって危険なのは、動けなくなること、そして退路を絶たれることだ。
さすが、ぶくぶく茶釜さんが創造したNPCの二人であるとモモンガは舌を巻く。彼女はヘイト管理を得意していた。そのぶくぶく茶釜さんが創造した二人だ。敵の注意を集中させたり、気を反らさせたりする技術は、創造者譲りということなのであろう。
「もう、外しちゃったじゃない。しっかり狙ったのマーレ!」
「ごめん、お姉ちゃん」
「二人とも、よくぞ時間を稼いでくださいました。モモンガ様、このあたりは
円形劇場の客席の座席に悪魔が立っていた。
「デミウルゴス! 間に合ったみたいだね。へへっ、足止め成功!!」とアウラは、得意げに笑った。
「最初からそれが目的だったのか?」と、モモンガは口を開く。
「もちろんです。この
「その作戦に俺はまんまと嵌ってしまったようだな」とモモンガは肩を落とす。
「最初、アルベドから連絡があった際は、モモンガ様は
「その手があったのか。単にその方法を思い付かなかっただけかも知れないぞ?」とモモンガは答える。
「そんな初歩的なことを気付かないはずがありません。教えてください。どうして、
「ナザリック最高峰の頭脳の持ち主であるお前でも分からないのか? 教えてやろう。これが、三十六計の上計という奴だ」
「三十六計! なんと! このナザリックから脱出する術を三十六通りもお考えであったとは……。流石は至高の御方がたをまとめられていたモモンガ様……。3通りしか脱出方法を考え出せない私など、力不足でしたね……。後学のためにその方法を教えていただいても?」
「ソレクライニシロ、デミウルゴス。知恵比ベヲシテイル場合デハナイ。カクナル上ハ、刀デ語ルノミダ」と、闘技場の入口から入ってきたコキュートスが言った。
「コキュートスの言う通りでありんす。最上級命令が下った今、もはや言葉は不要でありんす。あとはモモンガ様の亡骸を私はもらい受けるだけでありんす」と
「守護者各位、揃ったようね。モモンガ様、言い残す言葉はございませんか?」と、最後にアルベドが現れた。漆黒の全身甲冑に身を包み、巨大なバルディッシュを持っている。アルベドの完全装備だ。
「そうだな……。最後に聞いておこう。お前達は、アインズ・ウール・ゴウンのNPCなのか? それとも、もうそうでは無いのか?」
その問いを発した瞬間、守護者達から殺気が溢れる。
「私達は、至高の御方がたに創造された誇り高き存在。そして、神にも等しき御方がたに絶対の忠誠を誓う階層守護者。生まれてから死ぬまで、ずっと栄光あるアインズ・ウール・ゴウンのギルド拠点、ナザリック地下大墳墓を守護する存在です」とシャルティアが言った。そして、その言葉に間違いが無いと階層守護者達は全員が頷いている。
「そうか。では、この騒動が解決したら、必ずお前達を復活させよう」
「こんな時にご冗談でございますか、モモンガ様。それとも、私達から逃げられるとお思いですか?」
「逆に聞こう。お前達……トレインという言葉を知っているか?」とモモンガは口を開いた。