西暦2138年現在、サイバー技術とナノテクノロジー技術の進化により、仮想現実であたかも現実にいるかの如く遊べるゲームが開発された。
そのような仮想現実型ゲームの金字塔とも言うべきゲームが登場した。
その名も、YGGDRASIL
それは12年前の2126年に、日本のメーカーが満を持して発売したゲームである。
しかし、金字塔といえど、古びればそれは遺跡となる。YGGDRASILといえど、その例外では無かった。人気を博したものの、次々と現れる新システムを導入したゲームに押され続け……ついに、ゲームのサービス終了が運営より発表された。
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【REAL】
一台の
「もっとスピード出してよ。もうすぐ12時回っちゃうじゃない。間に合わないじゃない」と、一人の女性が時計を見ながら自動運転装置に蹴りを入れた。
「これ以上の速度は、法定速度を超えます」と機械的な音声が車内に響く。
「もう! 私は大事な用があるから打ち上げの三次会は行けませんって言っていたのに。どうしてあの監督は私をカラオケに連れていきたがるかなぁ〜。唄わされててばっかりだし。こっちは喉が資本だってのに。マネージャーもマネージャーよ!」と、彼女は時計を気にしながら愚痴をはき続ける。
彼女は多忙だった。彼女がメインヒロインを担当したゲームが大ヒットを記録し、シリーズ化している。今日、収録の打ち上げが行われた、彼女がメインヒロインを務めた新作が、売り上げ目標を既に予約で達成したと打ち上げに参加した社長がほくほく顔で報告していた。
また、メインテーマ曲の売上、関連グッズなどの販売も好調である。また、各アーコロジーを回り、富裕層向けの生ライブイベントなども定期的に行っており、家に帰れることも少なくなった。
その他にも、ライブなどへの出演の関係上、体重管理が必須となり、ジムでのエクスサイズがマネージャーの手によってスケジュール化されている。
愚弟が土下座して頼んでくるサイン色紙。最近では、こちらがお願いしている立場であるのにかかわらず、
「弟様宛てのサイン色紙を私が書けるなんて光栄です! 幾らでも書かせてください! あっ! あと、私、最初はプライドが高い高慢な女ですけど、調教陵辱で最後は従順な雌奴隷とか肉便器になる役回りには自信があるんです! もし、脇役とかでそういう役があれば、私を推してください。お願いします!!」と、なぜか逆にお願いされてしまう立場になってしまった。
自分は成功者と言えるのかも知れない。
だが、その大成功の傍ら、彼女は喪失感を拭えずにいる。それは、大好きなYGGDRASILにログインする時間。第6階層の巨大樹で、仕事という枠組みを外れてざっくばらんに話すことができる大切な女友達。アインズ・ウール・ゴウンの仲間達。そして……。
彼女は、YGGDRASILで多くの事を学んだ。太っていて内気だった自分に初めて友達ができた。現実で、誰も自分に声をかけてはくれない。どうせ同じでいいやと自暴自棄で選んだピンクの肉棒。しかし、そんな私に声をかけてくれた人。そして、仲間へと迎えいれてくれた。オフ会が開催されるということで、本気でダイエットをしたのも、ライブ進出へのきっかけだった。
YGGDRASILの戦闘で、ヘイト管理を学んだ。隠され、高度化したヘイト管理システムであるが、彼女は学んだ。そしてYGGDRASILのヘイト管理をマスターしてしまえば、エロゲ—上で展開されるエロス管理などお手の物だった。山場の前では、90度から130度まで声色の使い分けで上下させることができる。監督が言うところの抜きどころでは、腹筋に食い込む程の角度まで引き上げる声色を出せる。
今の自分の成功があるのは、YGGDRASILのお陰だった。しかし、今、自分はその大恩あるYGGDRASILのアインズ・ウール・ゴウンを蔑ろにしている。
「ご自宅に到着しました。マンションに連結。エントランスの空気は清浄です。ご利用ありがとうございました」という
YGGDRASILのサービス終了まで後、16分……。