俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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死神は決意した。全てをかけて共にあることを。
滅亡すらも定めならば、抗って見せる覚悟を。


第九話 『友』

-死神視点-

 

ナザリック地下大墳墓、第九階層の『魔王』様の自室。

 

 

我はようやく宿敵、『女帝』を何とか退けた。

 

…ついに魔王様の部屋に侵入することに成功した。

 

 

あの『女帝』マジ怖い。

 

 

我が『人格』作っても直ぐに対処するとか人間を完全に辞めている。

 

 

だが、しかし、我はついに勝った。あの恐怖の『女帝』に。

 

 

たかが、『仮初』の勝利とはいえ、この数瞬を征した。

 

 

故に、待つ。『魔王』様が来られるのを。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

突如、音が止む。

 

 

…これは『魔王』様の『奇襲』の合図。

 

 

間違いない。やはり、気が付かれたか。

 

 

フフフ…やはり我一人では、この『罠』は不可能だった。

 

 

忌まわしき我が友の子の『仇』と手を組まなければ、本当に、本当に『不可能』だった。

 

 

流石は、我が真なる盟主、『魔王』モモンガ様。

 

どうやったら、あの『経歴』でここまで至れるのか…

 

 

リアルは…あまり思い出したくはない。

 

魔王様のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』では、そうでもなかったというが、

 

私達の、六大神の間ではご法度な風潮があった。

 

 

…私にとって、実に忌むべき記憶。

 

 

苦悩と絶望、裏切りと復讐。生命を愚弄した愚物共…碌なものではなかった。

 

 

 

そんな思いはすぐに霧散した。

 

『魔王』様が現れたからだ。

 

…『友』が来たこと以上に優先すべきことなどない。

 

 

「やぁ、スルメさん。『答え合わせ』をしましょうか?

 

 …俺にとって二度目何ですけどね。この展開」

 

『魔王』様はやや苦笑しつつ、そう、我におっしゃった。

 

 

やはり、あの『女帝』は、我の『天敵』だ。

 

…おのれ、パクリめ!我のパクリめ!!

 

 

精神が鎮静化される。…ああ、良かった。

 

 

『魔王』様の『愛人』なのだと伺っている。

 

…彼女にあまり悪感情は持ちたくない。

 

 

しかし、我にとって、『教授』より相性が悪すぎる。

 

 

チートだ!チート!!

 

あんなの無効だ!反則だ!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-モモンガ視点-

 

 

俺は、スルメさんと向かい合わせで席についた。

 

 

最後に気が付くように、わざと『罠』に引っ掛けるあたり、スルメさんは読めない。

 

『教授』に間違いなく恨みがあるはずなのに手を組んだ。

 

…恨みのある者と手を組むことに慣れている。

 

…多分、俺には無理だ。その発想が。

 

 

スルメさんの、リアルが多少気になるが、それは彼にとっては、ご法度だ。

 

 

何となく察している。彼はリアルにほぼ絶望していた。

 

 

…俺もいい思い出が、ユグドラシルしかない。だが、彼のは、規模が違う。

 

 

そのような、考えを辞め、スルメさんを見る。

 

俺には、聞かなければならないことがある。

 

…今回の件についてだ。

 

 

「…やはり、気が付かれましたか。

 

 『魔王』様、あからさま過ぎて我を見損ないましたかな?」

 

そう言って、わざとらしく肩をすくめるスルメさん。

 

…スルメさん、俺を怒らせようとしているな。これは。

 

 

「いえ、最後まで気が付きませんでした。見事に嵌られましたよ…」

 

だから、『本音』で返す。

 

…怒らせて、『本音』を引きずり出されるよりずっとマシだ。

 

 

「ブラフに引っかかりませぬか…あの『教授』には効くんですがな、この手」

 

何故あの『教授』はこれくらいで、引っかかるのか。

 

 

偶に『教授』が馬鹿なんじゃないかと思う。

 

毎回新しい『思考』を作るなら、ただそれに合わせれば良いだけなのに。

 

 

「ハハハ。でも、俺は彼女に劣りますよ?」

 

あんまり期待されても、困る。

 

…スルメさんはナザリックの皆に『思考』が似ている。

 

 

今回、ちゃんと『俺』自身を洞察してくれたからこの『罠』を仕込んだのだろうが。

 

 

「そうは思いませぬ。

 

 あの『教授』には、凡人と狂人の混合された思考がわかりませぬ故。

 

 我が、何人もの『凡人』と『狂人』を何人か用意し、

 

 一斉に騒ぎ立てれば、容易に『思考』が誘導できます。

 

 ようは、相性ですな。…我では、あの『女帝』に勝てません」

 

…この人、やっぱり『変態』だ。

 

半分くらい言っている意味がわからない。

 

 

多分、スルメさんが言う『女帝』はラナーか。

 

 

…確かに、何故か、俺はラナーに勝てる。

 

『愛』以外では。

 

 

…俺は抜けている。

 

 

俺は、自分を愛せたが、『愛』の経験が不足している。

 

 

「話を戻しましょう。これ以上は頭が痛い」

 

俺は強引に話を戻す。

 

 

…これもスルメさんの『誘導』だと気が付いた。

 

 

「おお、これにも引っかかりませぬとは!

 

 …流石は我が、真なる盟主『魔王』モモンガ様!」

 

いい加減、俺を怒らせて、『素』を引き出そうとするの、辞めてもらえませんか?

 

スルメさん。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-死神視点-

 

 

我の、『癖』を完全に見切っていらっしゃる。

 

 

恐ろしや。

 

…『女帝』でも不可能な『精神力』。

 

 

それがないと、普通に、『素』がでてくるものなのですが。

 

 

「…思えば、最初からおかしかった。

 

 『教授』があんな凡ミスするわけがない。

 

 感情でも、理性でも彼女の不利にしかならない。

 

 …だが、スルメさん。法国と『教授』は取引しましたね?」

 

そのとおり。これは気づく。当然の結論。

 

『魔王』様なら、容易に導き出せる『答え』。

 

 

「おお、そうです。我は『怨敵』と手を組みました。

 

 …そうでもしないと『心配』でしたので」

 

別に、『私』なら許しても良いのだが、『我』は許せぬ。

 

…『僕』はどちらでもない。

 

 

故に、『取引』できた。

 

 

「我は、ンフィーレア少年と『教授』の件で、

 

 完全に『魔王』様に対するバイアスが解けました。

 

 転移前に、魔王様を、少しだけ誤解をしていました」

 

そう、『教授』復活の件で、我は、正真正銘の『魔王』様を知った。

 

 

…ここからは、『私』が話そう。

 

『魔王』様に不敬だ。

 

 

「あなたは、『善人』過ぎます。それでいながら『悪』の才能を持っている。

 

 …正直、私も想定外でした。はっきり言いましょう。

 

 あなたは、『一般人』だ。異常な『精神力』で、限界以上に強化した『一般人』です」

 

それが、凄まじいことなのだが、敢えて無礼を承知で言う。

 

…これくらい言わないと伝わらない。

 

 

「…やはり、俺は一人で抱え込み過ぎですか?」

 

…魔王様は既にこのことに、気づいていた。

 

ここまで気づいていた。信じられない。

 

 

…有り得ない『精神力』だ。

 

全く、自意識過剰になってない。

 

…冷静に『自己分析』している。

 

 

想定外だ。

 

 

見誤った…魔王様の心の強さを。

 

これでは返って言い過ぎだ。

 

 

「そうでは、ありません。いいえ、正しくもあります」

 

…今回の件で気が付かれたように相談してくだされば、何も問題はない。

 

 

私のように、わからないからと、全部『法国』に丸投げする姿勢も不味いだろうが、

 

 

『魔王』様は、『頑張り過ぎている』。

 

 

…ナザリックNPC皆が心配していた。

 

ハーレム計画などという本来彼らが望まない思考に発達するくらいには。

 

 

我は感動した。彼らのその在りように。…故に全面協力した。

 

同志ジルクニフの協力、シマバラ君監修の下、完璧な『計画』を作成した。

 

あの『変態ドラゴン』も絶対見つけて見せる。竜王国に子孫がいるのだ。

 

 

…絶対いる。あの変態は。子孫にハアハア劣情しているに違いない。

 

 

我らのような『紳士』さに欠ける子だったが、よもやあそこまで変態だとは。

 

『友』達と一緒に遊んでいたときは、

 

普通に良い竜だったのだが、一体どこで『道』を誤ったのか…

 

 

…だが、きっと『魔王』様も喜んでくださるだろう。彼らの思いに。

 

 

…一人、会えないNPCがいたが、恐らく同意してくれるだろう。

 

 

思考を元に戻そう。『私』だ。

 

 

『彼』には全く会えなかった。

 

カジータ氏が反対したからだ。

 

…どんな『子』なのか非常に興味深い。

 

 

…想定では、『自分』によく似ている。

 

だが、『反抗期』を起こしている。

 

これは、私の、私たちのギルドでは起きなかった『成長』だ。

 

 

…これは、大発見だ。

 

 

『魔王』様は気づかれていないようだが。

 

 

 

…沈黙になってしまった。

 

話を続けよう。

 

 

…今度は『死神』としてしか話せないことだ。

 

 

「デミウルゴス君やアルベド女史からも聞きましたぞ。

 

 我がいなければ『世界征服』路線だったとか」

 

これは、本当に驚いた。正直、今でも信じられない。

 

…それはそれで見てみたい我は愚かしいが。

 

 

「…いえ、あの、それ勘違いです」

 

何と!

 

 

「ええ…『世界征服』する『魔王』様ってよくある響きで良いような気がするのですが」

 

思わず、馬鹿なこと口走る我。

 

…まぁ、言いたいことの『本題』でもあるが。

 

 

「ええ…それ不味いじゃないですか。どう考えても」

 

『魔王』様はドン引きされた。『普通』はそうだ。

 

だが、我は違う。

 

 

「『魔王』様、あなた様は、我の、

 

 『友』の存在から『世界』の価値を見出されましたね?」

 

ここだ。ここが、完全に『無理』の原因だ。

 

 

…『才能』を潰している。

 

強引に『自己』を強化している最大の原因だ。

 

悪のナザリックでは、『世界』を壊しかねないから、

 

自分の『才能』を活かしたら『世界』が滅ぶから。

 

 

象が目の前の蟻を踏まないようにするような強引な『矯正』だ。

 

 

 

数分ともとれる沈黙。

 

…『魔王』様は気が付かれたか。

 

 

「…はい。確かに」

 

『受け入れた』。認めた。

 

 

…良かった。完全に『魔王』様は危険でなくなった。

 

 

我の想定を上回る『何か』だった場合、また考え直さなければならなかった。

 

 

ここが一番『心配』だったのだ。

 

 

話を変えよう。アルベド女史の危険からだ。

 

「…我はアルベド女史に確認しました。

 

 魔王様が『世界』を救う暴挙に出た場合。…君はそれを喜ぶかと」

 

彼女の『設定』はおそらく『歪』だ。

 

会話でわかった。故に『彼女自身』に確認した。

 

 

「…どう答えましたか?今のアルベドは、俺にはよくわかりません。

 

 情けない話ですが、俺を、愛しているという『設定』しか、

 

 俺は、アルベドのことを本当の所わかっていない」

 

…沈黙から読み取れる。これはかなり無理をして言ってらっしゃる。

 

 

…アルベド女史の真なる思いに勘付いてはいる。

 

 

だが、認めたくなくて、遠ざけましたな?『魔王』様。

 

 

それはいけませぬ。『魔王』様。

 

彼女を愛しているのなら、『見て』あげるべきです。

 

だから、言う。

 

 

「彼女は、最悪の結末を、ナザリックの皆だけの『世界』を望んでおりました。

 

 …本心から。

 

 申し訳ありませぬが、彼女の『思考』を誘導させていただきました。

 

 『愛』の方向性を少しだけ、ズラしました。『世界』の可能性を吹き込みました。

 

 …『手段』は聞かないでください。それはご自身で確認してください」

 

流石に勝手にやり過ぎたと反省はしている。

 

 

だが、彼女の『愛』は『魔王』様をも崩壊させる『思想』だった。

 

…『世界』だけでなく。

 

 

「…ありがとうございます。アルベドへの確認は絶対にします。

 

 ああ、俺はまた目の前の『可能性』に気が付かなかったのか…」

 

かなり苦痛なされている。

 

 

我も『番外席次』の真実を知ったとき、おおよそ同じ思いを抱いた。

 

だから、これは伝えないといけなかった。

 

 

『魔王』様はナザリックの皆を『愛』しているから。

 

『番外席次』のように愛せないというスタンスが取れない。

 

不可能だ。

 

 

『魔王』様にとって、『世界』と『ナザリック』はほぼ同程度大切になってしまった。

 

…根本的に言えば、我のせいだ。

 

『友』を助けたせいだ。

 

 

だが、それを言ったら、『魔王』様は自分を愛せなくなる。

 

だから、『思考』を誘導する。

 

 

「…我は確証が欲しかったのです。それ以上に心配でした」

 

これから言うことは皆全て『本心』だ。

 

 

「『魔王』様が、ご自身を愛していらっしゃるなら、

 

 我だけでなく、皆を頼ってください。

 

 …最悪、それで失敗したとしても『友』を見捨てたりなどしませぬ」

 

これは『皆』の結論だ。

 

 

…最悪、それで『世界』が亡びるなら、それが『答え』だ。

 

 

『魔王』様は、滅びを決して、望んではいない。

 

 

…それであれば、『滅び』もまた必然なのだ。

 

 

「それは、ナザリックの皆だけでありません。

 

 ツアーも『教授』も『女帝』も…皆あなたが大好きなのです。

 

 勿論、私もです。

 

 だから、どうか一人で抱え込まないでください。

 

 …それで失敗しても、『魔王』様のせいではありません」

 

そう言って、私は頭を下げる。

 

私の『全て』をかけて、支えて見せる。

 

 

…『失敗』等恐れはしない。

 

そのような滅びの『運命』があれば、絶対にあらがって見せる。

 

 

『友』のためならば、この命など惜しくはない。

 

…元々死んだ身なのだから。だからこそ、『全て』をかける。

 

 

 

「ああ…」

 

私の思いが伝わったのか、『魔王』様は泣かれた。

 

 

…私は初めて、オーバーロードであるこの身を惜しんだ。

 

 

『友』と共に『泣けない』のだ。

 

 

…『死神』として泣けないのだ。

 

 

それが無性に辛かった。

 

 







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