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八月、夏、あの夏。
ZONEの「secret base~君がくれたもの~」を原案として二次創作を書きました。
あの夏の、淡く切ないひと時を、あなたと。
------------------------------------
『ぼくはあの花を愛していたんだ。ただあの頃のぼくには、花を愛するということが、どういうことなのかわからなかったんだ』
「今日も暑いな……」
太陽が容赦なく照りつける八月の日、首都東京。
アスファルトは逃げ場のない熱をため込んだまま、周囲に陽炎を漂わせていた。
「何が『今年は冷夏になるでしょう』だ。めちゃくちゃ暑いじゃねえか、くそっ」
俺は止め処なく溢れる汗を拭って悪態を吐く。
星野龍彦の夏休み、大学生の夏休み、夏期休業中。
宿題なんてあるわけもなく、前期の成績が送られてくるのも、来月になってから。
つまり、なんにもすることのない、空白月間。
昔は朝早く起きて、ラジオ体操のスタンプを貰いに行って、そのまま友達と汗だくになりながら毎日遊んで、最後の三日間は宿題地獄、そんな夏休みだったのに。
「なんもやることねえなあ」
バイトも休み、学校も休み、完全休業日。
「そういや……」
唐突に、突然に、今朝見た夢と共に。
ふと思い出す、思い起こされる、あの夏の思い出。
あれから十年。
あの日の約束は、まだ生きているのだろうか。
「じゃーなー!」
「おー、またなー」
友達と別れる、校門の前。
僕の家は、いつも遊んでいる友達とは反対方向で、一緒に帰れるのは教室から校門までだった。
楽しかった時間はあっという間に過ぎ去り、今は一人ぼっち。
ふーっと息を吐いて、友達とは反対方向に歩き出す。
目の前の信号、止まれ、赤信号。
それほど交通量が多いわけでもないけれど、僕は律儀に信号が変わるのを待っていた。
そんな、ちょっとした待ち時間に、
「星野くん、一人なの? 一緒に帰らない?」
一人の女の子に声をかけられた。
赤いランドセルを背負い、水色のワンピースに白いカーディガンをフワッと身に纏って、長い髪をまっすぐに下ろした女の子。
見ず知らずではない、でも知り合いでもない、そんな女の子。
僕は知っていた。その子--姫路詩織--は、一年生の時からずっと同じクラスで、でも一度も話したことのない、そんな女の子。
男女分け隔てなく接するため、交友関係はすごく広い。
だから僕は、彼女と会話をしたことがない、数少ない人間の一人だった。
そんな子がどうして僕に。
僕は戸惑い、そして同時に、自分に向けられる屈託のない笑顔を直視できなくなり、思わずカバンで顔を隠してしまった。
しかしその内心、すごく嬉しかった。
いつも集団の中心にいる姫路はすごく眩しくて、話したくても話しかけることができなかったから。
「ねえねえ、いい?」
あまりにも唐突すぎる姫路の誘いに茫然としていた僕はようやく、い、いいよ、別に……という返事を返した。
「ホント? ありがとう!」
彼女はまたニコッと笑う。
一人ぼっちの帰り道から、二人きりの帰り道へ。
二人きりのドキドキと、チャンスを得たドキドキ。
ドキドキ、ドキドキ。
「星野くんって、いつも一人で帰ってるよね?」
疑問ではなく、確認のための疑問符。
いつも僕を見ていてくれた、と思ってしまうのは、自惚れだろうか。
「う、うん。みんなあっち側に住んでて、僕だけ逆方向だから」
そう言いながら僕は、歩いてきた道を、学校の方を指す。
「そっかあ。じゃあ私と一緒だ。私も、みんな家があっちだから」
姫路も僕と同じ方向を指す。
「こっちの方は家が少ないもんねえ。学区の端っこだし」
この辺りの住宅地は主に小学校の東側で、僕らの家があるのは反対側。
小高い丘があるせいか、あまり住宅は多くない。
開発でもされれば削られるのだろうけど、生憎この丘には市の六十周年を記念したとても大きな公園が造られているため、そういったことはされそうにない。
僕の家はこの丘の向こう側。
周りには友達の家どころか家自体がそんなにない、言ってみれば陸の孤島。
だからこうして友達と帰る、なんてことは初めてのことだった。
帰り道、いろいろなことを話した。
授業のこと、今やってるテレビのこと、そして、夏休みのこと。
「星野くんは夏休み、何するの?」
「んー、丘公園の探検でもしようかなーって。ほら、あの公園バカでかいからさ、なんかあるんじゃないかなーってさ……あ」
姫路との会話がすごく楽しかったからか、僕は夏休みに密かに実行しようと決めていた計画を、今日初めて知り合ったような女の子に話してしまった。
まずったなあ、という顔を僕がする前に、
「探検! なんだか楽しそうだね。ねえ、私も一緒に探検してもいいかな?」
姫路はものすごくキラキラした顔で食いついていた。
「え、別にいいけど……でも探検なんて、女の子がやるようなことじゃ無いと思うよ?」
「いーの、あの公園って、防空壕があるとか化石が採れるとか、そんな噂があるんでしょ? でも一人で行くなんて私には無理だし、星野くんが嫌じゃなければ、ぜひ私も連れて行って!」
初めて話をして、十五分。
ここに、丘公園探検隊が結成された。
そして、彼女との忘れられない夏が始まる。
「あー……解らない」
僕はすぐにでも冒険しにいきたかったのだけれど、姫路が、
「宿題、終わらせなきゃ。七月中に全部終わらせて、八月は目一杯遊ぶのが、一番夏を楽しめると思わない?」
なんていうから、冒険はお預け。
代わりに僕は図書館で算数のドリルと戦闘中。これはこれで、RPG、別の冒険。
席の向かい側では姫路が、もう算数のドリルが終わったのか、漢字の書き取りをしていた。
「んー、どこどこ?」
応用に苦戦していた僕に気づいた姫路は、身を乗り出して僕のドリルを覗き込む。
「あー、ここなんだけど」
「そこはこの値を代入して、まずここの長さを求めて--」
「あー。ほー。へー」
姫路の教え方はとても上手くて、算数のドリルはスラスラ進んでいく。
外ではセミがミンミンジージーツクツクボーシとせわしなく鳴いている。
図書館の中は、とても静か。
聞こえてくるのはペンの走る音とページをめくる音、それと少しのひそひそ話だけ。
そんな喧騒と静寂の狭間。
教えられるままに問題を解いていた僕がふと目線を上げた視界に飛び込んできたのは、白いワンピースから微かに覗く、薄いピンク色のキャミソール。
あまり見ちゃ悪いなと思いつつ、でも見たい気持ちは抑えられない。
悩むふりをしながらチラチラと。
おかげで算数を終わらせるのがやっとで、漢字のドリルは手をつけることすらできなかった。
「もう、ちゃんとやってきてよ? 宿題だからね!」
そう言って背を向ける姫路。
宿題を宿題にされてしまった。
でも今日はいい物をみれたし、元々宿題なのだから、別にいいかと思ってしまった。ごめん、姫路。
宿題も終わり、心晴れやかに迎えた八月一日。
宿題を夏休み前半に終わらせることが、こんなに清々しいものだとは思わなかった。
来年から、宿題はさっさと終わらせようと、僕は心に決めた。
「星野くん、お待たせ」
集合時間の十分前に来た--つまり僕が楽しみすぎて30分も前に着いてしまっただけで、遅刻ではない--姫路はいつものスカート姿ではなく、というかスカート姿ではあるのだけれど、いつも学校に着てくるようなワンピースではなくて、Tシャツと動きやすそうな膝上のスカートの下にスパッツを穿いていて、髪型もこれまたいつもまっすぐに下ろしている長い黒髪を、高い位置で一つに結んでいた。
いつもと違う姫路のスポーティーな姿に、不覚にもドキッとしてしまった。
「早く来て待ってるつもりだったんだけど、星野くん早いね。いつから待ってたの?」
「いやまあ、さっき着いたとこだよ」
なんてどこかの青春ドラマみたいな台詞を口にしてしまった。
姫路はくすくすと笑い、「じゃあ行こうか」と踵を返した。
市制六十周年記念総合公園、通称丘公園。
広大な土地に造られたこの公園の総面積は、東京ドームの約二.五倍と言われている。
緑豊かな広場とアスレチックが売りなのだけれど、僕らの目的はそこではない。
その広場を囲っている森の中。
広場とアスレチックは市が遊戯目的造ったものだが、森はそうではない。
元々あった木々たちの中にこそ、僕らの目指す未開の地が広がっているはずなのだ。
「なんだかドキドキするね」
「うん。でも、これは楽しいドキドキだと思う」
一歩、また一歩と森の中へと足を踏み入れていく。
鬱蒼と生い茂る木々たちはお日さまの光をみんな拒んで、辺りは昼間なのに薄暗い。
やがて入口が見えなくなるくらいまで歩を進めると、いよいよ方角が分からなくなってきた。
ただ自分の息と鼓動、それと鳥のさえずりや木葉の擦れる音だけが聞こえる。
都会の喧噪から切り離された別世界。
僕らはそんなところに今いるのだ。
「ねえ、あっち、少し明るくない?」
姫路が指差した方向に光が見えた。
どうやら森を抜けるようだ。
その時、僕は授業で習った、川端康成の『雪国』を思い出した。
『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』
森の中にぽっかりと開いたその空間には、真っ白な花が一面に咲き誇り、まるで雪景色のようだった。
「綺麗……」
姫路とその場に立ち尽くし、しばらくボーっとしていた。
その花畑の中に、ポツンと小さな小屋が建っていた。
「行ってみよう」
僕はその小屋にずんずんと近づく。
鼓動は少しずつ早くなる。
中に入ってみると、どうやら前はポンプ小屋として利用していたと思われる痕跡が所々に見られたが、今は使用していないようだ。
「ねえ、ここ、私たちの秘密基地にしない? 男の子って、そういうのに憧れたりするでしょ?」
小屋を見回すなり言った姫路の言葉に、僕は迷わず賛成した。
二人だけの秘密基地。
なんだか嬉しくなって、少し顔がにやつく。
すぐに恥ずかしくなって、姫路の顔色を伺うと、どうやら彼女も同じことを思っていたようで、少し照れ笑いを浮かべていた。
それからはこの秘密基地が拠点となり、僕らの冒険は連日のように続いた。
丘公園はとても広く、探検するにはもってこいだった。
見たこともない花を見つけたり、カブトムシがたくさん集まりそうな木を見つけたり、いつの間にか公園を抜けていて、思わぬ場所に出ていたり。
ある日、怪しげな洞窟を見つけた。
見つけた時僕らは、これが噂の白骨のある防空壕か、と期待したけれど、特に何の変哲もない普通の洞窟だった。
事件という事件といえば、中からコウモリが飛び出してきて姫路が悲鳴を上げながら脱兎のごとく逃げ去ったくらいだ。
その時、僕は思わず笑ってしまって、姫路をすごく怒らせてしまった。
「人の怖がっているのを面白がるなんて最低っ。信じらんないっ。もう星野くんは秘密基地立ち入り禁止ね!」
そんなムチャクチャな、この秘密基地は二人のものだったはずだ。
「そんな権利、姫路にはないだろ。この秘密基地は姫路だけのものじゃない。僕のものでもあるんだから」
それからはもう、ダムが決壊したよう。
そういうと普通、堪えきれなくなった涙のことを指すのだけれど、僕らの場合は互いの悪口。
有り体に言って、喧嘩だった。
散々言い合った後、二人別々に秘密基地を出て行く。
それから三日間、僕は秘密基地に行かずに、男子の友達と遊んだ。
なんとなく顔を合わせづらかったし、僕はなにも悪くないというきもちもあった。
それでも、何故かすごく気になって、四日目には秘密基地へと足を運んでいた。
古びた木の扉をキィと開くと、そこには誰もいなかった。
それもそうか。僕たちは喧嘩をしているんだ。顔を合わせてしまうこんなところに来るわけがない。
そのまま扉を閉めて帰ろうとしたその時、僕は机に一枚の紙が置いてあることに気が付いた。
「もしかして姫路……」
来たのだろうか、あの後ここに。
僕が来なかった三日間、他の友達と遊んでいた三日間。
姫路はここで、僕を待っていたのだろうか。
僕は怖がった姫路を笑ったことよりも、一人で待たせてしまったということに罪悪感を覚えながら紙を手に取る。
そこにはこう書いてあった。
『おばあちゃんの家に行ってきます。二十日に帰ってきます。 八月十三日 姫路詩織』
「……え?」
なんてことない、普通の置き手紙。
喧嘩したことなんか全然書いてなくて、ただ秘密基地に来られない理由が書いてあるだけ。ただ、それだけ。
「なんだよ、もう……」
心配したり、罪悪感を覚えたり、紙切れ一枚で心を揺れ動かした僕が、馬鹿みたいじゃないか。
「は、はは。ふふふ」
僕はなんだかおかしくなって、誰もいない秘密基地で一人、くすくすと笑った。
今日は八月十四日。
姫路が帰ってくるまで、あと六日。
僕は紙に「了解。お土産はあるのかな? 八月十四日 星野龍彦」と書いて、秘密基地を後にした。
八月二十日。天気はピーカン天気、今日の最高気温は三十五℃、湿度九十%、夏真っ盛り。
僕は朝ご飯をかき込んで、近所の公園で行われているラジオ体操に向かう--という体で--家を出た。
真っ直ぐに目指したのは近所の公園は近所の公園でも、もっと大きな、街にとっても、僕にとっても、とっても大きな公園--丘公園。
その奥にある小さな建物。僕たちだけの秘密基地。二人だけの秘密基地。
僕は急いで飛び込むように扉を開けた。
姫路がもう来てやしないか。
そう思って小屋を見渡して気づいたことは、机の上に置いてある紙が、増えているということだった。
もう来たのか、と思って、その紙を見る。
『部屋の片付けをしなさいってお母さんがうるさいの。だから、今日はもう帰ります』
「ぷっ」
几帳面そうな姫路が部屋を散らかして怒られてる姿を想像して、思わず吹き出してしまった。
会いたくて、会いたくて、少しでも早く会いたくて走ってきたんだけど。
でもまあ、仕方ない。今日は帰るか。
そう思って返信を書こうとすると、手紙には続きがあった。
『明日の夏祭り、一緒に行こ? 午後六時、神社の石段の下で待ってます 八月二十日 姫路詩織』
会いたい人に会えなかったはずなのに、秘密基地から帰る僕の足は、心なしか軽かった。
夏祭り。
近所に奉られている金比羅様を崇めるため--という名目で--毎年行われている夏祭り。
最後には花火大会も開かれて、この辺りでは珍しいほど大規模な行事だ。
(あれが終わると、夏休みが後少しで終わっちゃう気がして、なんだか焦り始めるんだよなあ)
祭りが始まるのは午後六時から。
だから姫路もその時間を指定したんだろうけど、僕はなんだか家にいても落ち着かなくて、一時間も早く着いてしまった。
周りを見渡すと、僕と同じ気持ちで家を出てきたのか、浴衣姿の人たちがちらほら見える。
めんどくさかったから、普通にTシャツ短パンで来ちゃったけど、まあいいか。
僕は姫路を待った。
どれくらい時が経っただろうか。
僕は母さんに借りた腕時計を見てみる。
午後六時……十分。
何かあったのだろうか。
いや、ただ準備に手間取っているだけだろう。
以前、家族で遊園地に行くときに母さんがいつまでも準備をしていて、「早くしてよ」と言ったら、「女の人は出かけるのに時間がかかるの。だから急かしたり責めたりしたらダメなのよ?」と返してきた時があった。
姫路だって女の子だ。きっとそうに違いない。
ふう、と張っていた気を少し抜いた時、カタカタと世話しない草履の音が聞こえてきた。
祭りは始まったばかりで、急ぐ理由はどこにもないのに。
……来た。僕はそう思った。
「はぁっ、はぁっ。ご、ゴメンねっ。じ、準備、手間取っちゃって……ま、待ったよねっ?」
息を切らせながらやってきた姫路。
「そんなに待ってないよ。まだ始まったばかりだし、これくらいの時間がちょうどいいんじゃない?」
母さんの言葉に倣って、責めないようにしてみた。
実際は一時間以上待ってたけど、それは僕が勝手に待ってただけだから。
それに僕は、向日葵柄の黄色い浴衣を纏って、長い髪を上で結っている姫路の姿に目を奪われて、責める気なんて、失せていたから。
「そ、そうかな? あは、早く会いたかったし……」
久しぶりに見る、彼女の笑顔。
少し顔を赤らめているのは、走ってきたからか、照れているからか。
僕も頬を緩めて、二人で笑った。
「さ、行こうか。屋台もいろいろ出てるよ」
「お金使いすぎないようにしなきゃ。お母さんに怒られちゃう」
姫路は草履をカタカタ鳴らしながら、石段を上っていく。
僕もそれに続いて、屋台の並ぶ参道へと向かうのだった。
屋台には魅力的なものがいっぱいある。
射的や輪投げ、金魚すくい、型抜き、くじ引きなどなど。
もちろん、食べ物屋もいっぱい出店している。
「ん~、甘くておいしいっ」
焼きそば、綿飴、たこ焼き、かき氷、お好み焼き。
「……で、今リンゴ飴、と」
いやまあ、大概は二人で分け合って食べたんだけど……。
「ん、何?」
小さな舌でリンゴ飴を舐めながら聞いてくる姫路。
「いや、別に……。今何時かな、って思って。花火が始まるのって、八時からだったよね」
食べ物を食べてる姫路に見とれてたなんて、口が裂けても言えなかった僕は、とりあえず時間を聞いてお茶を濁すことにした。
「あー、そういえば。えーっと……わ、こんな時間!? やば、急がないと! 星野くん、行くよっ」
「行くってどこに、うわっ」
姫路は僕の手を取ると、カタカタと走り出した。
人ごみを逆走し、どんどん神社から離れていく。
ドーン、パラパラ。
花火の音が遠くに響いた。
僕らは人気のなくなった砂利道を走り抜ける。
「うわー、始まっちゃった! 早く早く!」
ワタワタとパタパタとカタカタと焦る姫路。
この頃には、僕は姫路がどこに行きたいのか分かっていた。
この夏休み、散々探検して回った丘公園。
その、ちょっと開けた高台。
あそこなら、花火がよく見える。
「着いたーっ!」
ドーン、パラパラ。
ドドーン、パラパラパラ。
誰もいない、二人きりの花火大会。
美しくも切なく散る、打ち上げ花火。
時折吹く風が、時間とともに流れる。
「たーまやー!」
夜空に咲く向日葵はとても綺麗で、それを見上げる姫路も、とても綺麗で、僕はまた、姫路に目線を奪われていた。
僕は、その時姫路の瞳から一筋の涙が零れるのを見た。
それが何を意味するのか、僕はどうしようもなく後に知ることになる。
to be conutinued...
ZONEの「secret base~君がくれたもの~」を原案として二次創作を書きました。
あの夏の、淡く切ないひと時を、あなたと。
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『ぼくはあの花を愛していたんだ。ただあの頃のぼくには、花を愛するということが、どういうことなのかわからなかったんだ』
「今日も暑いな……」
太陽が容赦なく照りつける八月の日、首都東京。
アスファルトは逃げ場のない熱をため込んだまま、周囲に陽炎を漂わせていた。
「何が『今年は冷夏になるでしょう』だ。めちゃくちゃ暑いじゃねえか、くそっ」
俺は止め処なく溢れる汗を拭って悪態を吐く。
星野龍彦の夏休み、大学生の夏休み、夏期休業中。
宿題なんてあるわけもなく、前期の成績が送られてくるのも、来月になってから。
つまり、なんにもすることのない、空白月間。
昔は朝早く起きて、ラジオ体操のスタンプを貰いに行って、そのまま友達と汗だくになりながら毎日遊んで、最後の三日間は宿題地獄、そんな夏休みだったのに。
「なんもやることねえなあ」
バイトも休み、学校も休み、完全休業日。
「そういや……」
唐突に、突然に、今朝見た夢と共に。
ふと思い出す、思い起こされる、あの夏の思い出。
あれから十年。
あの日の約束は、まだ生きているのだろうか。
「じゃーなー!」
「おー、またなー」
友達と別れる、校門の前。
僕の家は、いつも遊んでいる友達とは反対方向で、一緒に帰れるのは教室から校門までだった。
楽しかった時間はあっという間に過ぎ去り、今は一人ぼっち。
ふーっと息を吐いて、友達とは反対方向に歩き出す。
目の前の信号、止まれ、赤信号。
それほど交通量が多いわけでもないけれど、僕は律儀に信号が変わるのを待っていた。
そんな、ちょっとした待ち時間に、
「星野くん、一人なの? 一緒に帰らない?」
一人の女の子に声をかけられた。
赤いランドセルを背負い、水色のワンピースに白いカーディガンをフワッと身に纏って、長い髪をまっすぐに下ろした女の子。
見ず知らずではない、でも知り合いでもない、そんな女の子。
僕は知っていた。その子--姫路詩織--は、一年生の時からずっと同じクラスで、でも一度も話したことのない、そんな女の子。
男女分け隔てなく接するため、交友関係はすごく広い。
だから僕は、彼女と会話をしたことがない、数少ない人間の一人だった。
そんな子がどうして僕に。
僕は戸惑い、そして同時に、自分に向けられる屈託のない笑顔を直視できなくなり、思わずカバンで顔を隠してしまった。
しかしその内心、すごく嬉しかった。
いつも集団の中心にいる姫路はすごく眩しくて、話したくても話しかけることができなかったから。
「ねえねえ、いい?」
あまりにも唐突すぎる姫路の誘いに茫然としていた僕はようやく、い、いいよ、別に……という返事を返した。
「ホント? ありがとう!」
彼女はまたニコッと笑う。
一人ぼっちの帰り道から、二人きりの帰り道へ。
二人きりのドキドキと、チャンスを得たドキドキ。
ドキドキ、ドキドキ。
「星野くんって、いつも一人で帰ってるよね?」
疑問ではなく、確認のための疑問符。
いつも僕を見ていてくれた、と思ってしまうのは、自惚れだろうか。
「う、うん。みんなあっち側に住んでて、僕だけ逆方向だから」
そう言いながら僕は、歩いてきた道を、学校の方を指す。
「そっかあ。じゃあ私と一緒だ。私も、みんな家があっちだから」
姫路も僕と同じ方向を指す。
「こっちの方は家が少ないもんねえ。学区の端っこだし」
この辺りの住宅地は主に小学校の東側で、僕らの家があるのは反対側。
小高い丘があるせいか、あまり住宅は多くない。
開発でもされれば削られるのだろうけど、生憎この丘には市の六十周年を記念したとても大きな公園が造られているため、そういったことはされそうにない。
僕の家はこの丘の向こう側。
周りには友達の家どころか家自体がそんなにない、言ってみれば陸の孤島。
だからこうして友達と帰る、なんてことは初めてのことだった。
帰り道、いろいろなことを話した。
授業のこと、今やってるテレビのこと、そして、夏休みのこと。
「星野くんは夏休み、何するの?」
「んー、丘公園の探検でもしようかなーって。ほら、あの公園バカでかいからさ、なんかあるんじゃないかなーってさ……あ」
姫路との会話がすごく楽しかったからか、僕は夏休みに密かに実行しようと決めていた計画を、今日初めて知り合ったような女の子に話してしまった。
まずったなあ、という顔を僕がする前に、
「探検! なんだか楽しそうだね。ねえ、私も一緒に探検してもいいかな?」
姫路はものすごくキラキラした顔で食いついていた。
「え、別にいいけど……でも探検なんて、女の子がやるようなことじゃ無いと思うよ?」
「いーの、あの公園って、防空壕があるとか化石が採れるとか、そんな噂があるんでしょ? でも一人で行くなんて私には無理だし、星野くんが嫌じゃなければ、ぜひ私も連れて行って!」
初めて話をして、十五分。
ここに、丘公園探検隊が結成された。
そして、彼女との忘れられない夏が始まる。
「あー……解らない」
僕はすぐにでも冒険しにいきたかったのだけれど、姫路が、
「宿題、終わらせなきゃ。七月中に全部終わらせて、八月は目一杯遊ぶのが、一番夏を楽しめると思わない?」
なんていうから、冒険はお預け。
代わりに僕は図書館で算数のドリルと戦闘中。これはこれで、RPG、別の冒険。
席の向かい側では姫路が、もう算数のドリルが終わったのか、漢字の書き取りをしていた。
「んー、どこどこ?」
応用に苦戦していた僕に気づいた姫路は、身を乗り出して僕のドリルを覗き込む。
「あー、ここなんだけど」
「そこはこの値を代入して、まずここの長さを求めて--」
「あー。ほー。へー」
姫路の教え方はとても上手くて、算数のドリルはスラスラ進んでいく。
外ではセミがミンミンジージーツクツクボーシとせわしなく鳴いている。
図書館の中は、とても静か。
聞こえてくるのはペンの走る音とページをめくる音、それと少しのひそひそ話だけ。
そんな喧騒と静寂の狭間。
教えられるままに問題を解いていた僕がふと目線を上げた視界に飛び込んできたのは、白いワンピースから微かに覗く、薄いピンク色のキャミソール。
あまり見ちゃ悪いなと思いつつ、でも見たい気持ちは抑えられない。
悩むふりをしながらチラチラと。
おかげで算数を終わらせるのがやっとで、漢字のドリルは手をつけることすらできなかった。
「もう、ちゃんとやってきてよ? 宿題だからね!」
そう言って背を向ける姫路。
宿題を宿題にされてしまった。
でも今日はいい物をみれたし、元々宿題なのだから、別にいいかと思ってしまった。ごめん、姫路。
宿題も終わり、心晴れやかに迎えた八月一日。
宿題を夏休み前半に終わらせることが、こんなに清々しいものだとは思わなかった。
来年から、宿題はさっさと終わらせようと、僕は心に決めた。
「星野くん、お待たせ」
集合時間の十分前に来た--つまり僕が楽しみすぎて30分も前に着いてしまっただけで、遅刻ではない--姫路はいつものスカート姿ではなく、というかスカート姿ではあるのだけれど、いつも学校に着てくるようなワンピースではなくて、Tシャツと動きやすそうな膝上のスカートの下にスパッツを穿いていて、髪型もこれまたいつもまっすぐに下ろしている長い黒髪を、高い位置で一つに結んでいた。
いつもと違う姫路のスポーティーな姿に、不覚にもドキッとしてしまった。
「早く来て待ってるつもりだったんだけど、星野くん早いね。いつから待ってたの?」
「いやまあ、さっき着いたとこだよ」
なんてどこかの青春ドラマみたいな台詞を口にしてしまった。
姫路はくすくすと笑い、「じゃあ行こうか」と踵を返した。
市制六十周年記念総合公園、通称丘公園。
広大な土地に造られたこの公園の総面積は、東京ドームの約二.五倍と言われている。
緑豊かな広場とアスレチックが売りなのだけれど、僕らの目的はそこではない。
その広場を囲っている森の中。
広場とアスレチックは市が遊戯目的造ったものだが、森はそうではない。
元々あった木々たちの中にこそ、僕らの目指す未開の地が広がっているはずなのだ。
「なんだかドキドキするね」
「うん。でも、これは楽しいドキドキだと思う」
一歩、また一歩と森の中へと足を踏み入れていく。
鬱蒼と生い茂る木々たちはお日さまの光をみんな拒んで、辺りは昼間なのに薄暗い。
やがて入口が見えなくなるくらいまで歩を進めると、いよいよ方角が分からなくなってきた。
ただ自分の息と鼓動、それと鳥のさえずりや木葉の擦れる音だけが聞こえる。
都会の喧噪から切り離された別世界。
僕らはそんなところに今いるのだ。
「ねえ、あっち、少し明るくない?」
姫路が指差した方向に光が見えた。
どうやら森を抜けるようだ。
その時、僕は授業で習った、川端康成の『雪国』を思い出した。
『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』
森の中にぽっかりと開いたその空間には、真っ白な花が一面に咲き誇り、まるで雪景色のようだった。
「綺麗……」
姫路とその場に立ち尽くし、しばらくボーっとしていた。
その花畑の中に、ポツンと小さな小屋が建っていた。
「行ってみよう」
僕はその小屋にずんずんと近づく。
鼓動は少しずつ早くなる。
中に入ってみると、どうやら前はポンプ小屋として利用していたと思われる痕跡が所々に見られたが、今は使用していないようだ。
「ねえ、ここ、私たちの秘密基地にしない? 男の子って、そういうのに憧れたりするでしょ?」
小屋を見回すなり言った姫路の言葉に、僕は迷わず賛成した。
二人だけの秘密基地。
なんだか嬉しくなって、少し顔がにやつく。
すぐに恥ずかしくなって、姫路の顔色を伺うと、どうやら彼女も同じことを思っていたようで、少し照れ笑いを浮かべていた。
それからはこの秘密基地が拠点となり、僕らの冒険は連日のように続いた。
丘公園はとても広く、探検するにはもってこいだった。
見たこともない花を見つけたり、カブトムシがたくさん集まりそうな木を見つけたり、いつの間にか公園を抜けていて、思わぬ場所に出ていたり。
ある日、怪しげな洞窟を見つけた。
見つけた時僕らは、これが噂の白骨のある防空壕か、と期待したけれど、特に何の変哲もない普通の洞窟だった。
事件という事件といえば、中からコウモリが飛び出してきて姫路が悲鳴を上げながら脱兎のごとく逃げ去ったくらいだ。
その時、僕は思わず笑ってしまって、姫路をすごく怒らせてしまった。
「人の怖がっているのを面白がるなんて最低っ。信じらんないっ。もう星野くんは秘密基地立ち入り禁止ね!」
そんなムチャクチャな、この秘密基地は二人のものだったはずだ。
「そんな権利、姫路にはないだろ。この秘密基地は姫路だけのものじゃない。僕のものでもあるんだから」
それからはもう、ダムが決壊したよう。
そういうと普通、堪えきれなくなった涙のことを指すのだけれど、僕らの場合は互いの悪口。
有り体に言って、喧嘩だった。
散々言い合った後、二人別々に秘密基地を出て行く。
それから三日間、僕は秘密基地に行かずに、男子の友達と遊んだ。
なんとなく顔を合わせづらかったし、僕はなにも悪くないというきもちもあった。
それでも、何故かすごく気になって、四日目には秘密基地へと足を運んでいた。
古びた木の扉をキィと開くと、そこには誰もいなかった。
それもそうか。僕たちは喧嘩をしているんだ。顔を合わせてしまうこんなところに来るわけがない。
そのまま扉を閉めて帰ろうとしたその時、僕は机に一枚の紙が置いてあることに気が付いた。
「もしかして姫路……」
来たのだろうか、あの後ここに。
僕が来なかった三日間、他の友達と遊んでいた三日間。
姫路はここで、僕を待っていたのだろうか。
僕は怖がった姫路を笑ったことよりも、一人で待たせてしまったということに罪悪感を覚えながら紙を手に取る。
そこにはこう書いてあった。
『おばあちゃんの家に行ってきます。二十日に帰ってきます。 八月十三日 姫路詩織』
「……え?」
なんてことない、普通の置き手紙。
喧嘩したことなんか全然書いてなくて、ただ秘密基地に来られない理由が書いてあるだけ。ただ、それだけ。
「なんだよ、もう……」
心配したり、罪悪感を覚えたり、紙切れ一枚で心を揺れ動かした僕が、馬鹿みたいじゃないか。
「は、はは。ふふふ」
僕はなんだかおかしくなって、誰もいない秘密基地で一人、くすくすと笑った。
今日は八月十四日。
姫路が帰ってくるまで、あと六日。
僕は紙に「了解。お土産はあるのかな? 八月十四日 星野龍彦」と書いて、秘密基地を後にした。
八月二十日。天気はピーカン天気、今日の最高気温は三十五℃、湿度九十%、夏真っ盛り。
僕は朝ご飯をかき込んで、近所の公園で行われているラジオ体操に向かう--という体で--家を出た。
真っ直ぐに目指したのは近所の公園は近所の公園でも、もっと大きな、街にとっても、僕にとっても、とっても大きな公園--丘公園。
その奥にある小さな建物。僕たちだけの秘密基地。二人だけの秘密基地。
僕は急いで飛び込むように扉を開けた。
姫路がもう来てやしないか。
そう思って小屋を見渡して気づいたことは、机の上に置いてある紙が、増えているということだった。
もう来たのか、と思って、その紙を見る。
『部屋の片付けをしなさいってお母さんがうるさいの。だから、今日はもう帰ります』
「ぷっ」
几帳面そうな姫路が部屋を散らかして怒られてる姿を想像して、思わず吹き出してしまった。
会いたくて、会いたくて、少しでも早く会いたくて走ってきたんだけど。
でもまあ、仕方ない。今日は帰るか。
そう思って返信を書こうとすると、手紙には続きがあった。
『明日の夏祭り、一緒に行こ? 午後六時、神社の石段の下で待ってます 八月二十日 姫路詩織』
会いたい人に会えなかったはずなのに、秘密基地から帰る僕の足は、心なしか軽かった。
夏祭り。
近所に奉られている金比羅様を崇めるため--という名目で--毎年行われている夏祭り。
最後には花火大会も開かれて、この辺りでは珍しいほど大規模な行事だ。
(あれが終わると、夏休みが後少しで終わっちゃう気がして、なんだか焦り始めるんだよなあ)
祭りが始まるのは午後六時から。
だから姫路もその時間を指定したんだろうけど、僕はなんだか家にいても落ち着かなくて、一時間も早く着いてしまった。
周りを見渡すと、僕と同じ気持ちで家を出てきたのか、浴衣姿の人たちがちらほら見える。
めんどくさかったから、普通にTシャツ短パンで来ちゃったけど、まあいいか。
僕は姫路を待った。
どれくらい時が経っただろうか。
僕は母さんに借りた腕時計を見てみる。
午後六時……十分。
何かあったのだろうか。
いや、ただ準備に手間取っているだけだろう。
以前、家族で遊園地に行くときに母さんがいつまでも準備をしていて、「早くしてよ」と言ったら、「女の人は出かけるのに時間がかかるの。だから急かしたり責めたりしたらダメなのよ?」と返してきた時があった。
姫路だって女の子だ。きっとそうに違いない。
ふう、と張っていた気を少し抜いた時、カタカタと世話しない草履の音が聞こえてきた。
祭りは始まったばかりで、急ぐ理由はどこにもないのに。
……来た。僕はそう思った。
「はぁっ、はぁっ。ご、ゴメンねっ。じ、準備、手間取っちゃって……ま、待ったよねっ?」
息を切らせながらやってきた姫路。
「そんなに待ってないよ。まだ始まったばかりだし、これくらいの時間がちょうどいいんじゃない?」
母さんの言葉に倣って、責めないようにしてみた。
実際は一時間以上待ってたけど、それは僕が勝手に待ってただけだから。
それに僕は、向日葵柄の黄色い浴衣を纏って、長い髪を上で結っている姫路の姿に目を奪われて、責める気なんて、失せていたから。
「そ、そうかな? あは、早く会いたかったし……」
久しぶりに見る、彼女の笑顔。
少し顔を赤らめているのは、走ってきたからか、照れているからか。
僕も頬を緩めて、二人で笑った。
「さ、行こうか。屋台もいろいろ出てるよ」
「お金使いすぎないようにしなきゃ。お母さんに怒られちゃう」
姫路は草履をカタカタ鳴らしながら、石段を上っていく。
僕もそれに続いて、屋台の並ぶ参道へと向かうのだった。
屋台には魅力的なものがいっぱいある。
射的や輪投げ、金魚すくい、型抜き、くじ引きなどなど。
もちろん、食べ物屋もいっぱい出店している。
「ん~、甘くておいしいっ」
焼きそば、綿飴、たこ焼き、かき氷、お好み焼き。
「……で、今リンゴ飴、と」
いやまあ、大概は二人で分け合って食べたんだけど……。
「ん、何?」
小さな舌でリンゴ飴を舐めながら聞いてくる姫路。
「いや、別に……。今何時かな、って思って。花火が始まるのって、八時からだったよね」
食べ物を食べてる姫路に見とれてたなんて、口が裂けても言えなかった僕は、とりあえず時間を聞いてお茶を濁すことにした。
「あー、そういえば。えーっと……わ、こんな時間!? やば、急がないと! 星野くん、行くよっ」
「行くってどこに、うわっ」
姫路は僕の手を取ると、カタカタと走り出した。
人ごみを逆走し、どんどん神社から離れていく。
ドーン、パラパラ。
花火の音が遠くに響いた。
僕らは人気のなくなった砂利道を走り抜ける。
「うわー、始まっちゃった! 早く早く!」
ワタワタとパタパタとカタカタと焦る姫路。
この頃には、僕は姫路がどこに行きたいのか分かっていた。
この夏休み、散々探検して回った丘公園。
その、ちょっと開けた高台。
あそこなら、花火がよく見える。
「着いたーっ!」
ドーン、パラパラ。
ドドーン、パラパラパラ。
誰もいない、二人きりの花火大会。
美しくも切なく散る、打ち上げ花火。
時折吹く風が、時間とともに流れる。
「たーまやー!」
夜空に咲く向日葵はとても綺麗で、それを見上げる姫路も、とても綺麗で、僕はまた、姫路に目線を奪われていた。
僕は、その時姫路の瞳から一筋の涙が零れるのを見た。
それが何を意味するのか、僕はどうしようもなく後に知ることになる。
to be conutinued...
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