日経新聞にZOZO前澤社長のインタビュー記事が面白かったので、印象的だった部分を取り上げて感想を書きたい。
競争しない
最近は田端信太郎さんとの相乗効果もあってか、ツイッターでの露出が増えてきている前澤社長だが、
「競争しない」
というポリシーは5年以上前からずっと主張していた。
2018年8月10日の日経MJ新聞7面のインタビューでも
「競争が嫌いなので、みなさんがやっていることをやりたくないのです。
S、M、Lでないものを作ろうというのが最初の始まりなのです」
と明言している。
実際、
「身体のサイズをスーパーマンのタイツ的なもので測って、オーダーメイドでぴったりサイズの服を届ける」
というビジネスは世界のどこにもないアイデアで、
「自動採寸スーツ&オーダーメイド&通販」
という市場には競合が全くいない。
ファッションとテクノロジーの分野でずっとやってきた「スタートトゥデイ」だからこそ完成させられたサービスであり、参入障壁は非常に高い。
ここまで市場にインパクトを与えたリリースの後だと、他の企業が後追いで同じことをやっても「二番煎じ」という印象を受けてしまうだろう。
『Zero to One』という素晴らしいビジネス書に、
「小さく始めて独占しろ」
と書かれている。
「大きな市場よりも小さな市場のほうが支配しやすい。
少数のユーザーが集中していながら、ライバルがほとんどあるいは全くいない市場を狙うべきだ。
大きな市場は参入余地がないか、誰にでも参入できるため目標のシェアに達することがほとんど不可能かのどちらかだ。
たとえ小さな足がかりを得たとしても、生き残るだけで精一杯だろう。
壮絶な競争から利益が出ることはない」
前澤友作社長はずっと昔から、米国最強の起業家、ピーター・ティールの思想の通りに経営していたのだ。
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自分がほしいものを作る
前澤社長は「S、M、Lだけじゃ人は幸せになれない」と信じ、自分自身がほしいからこそ、ZOZOSUITを開発した。
僕はVoicyの人気チャンネル「サウザーラジオ」の「第四十話 自分の商品の熱烈なファンは、最初、自分しか居ない!」という話がすごく好きである。
自分の作品の一番のファンは自分。
だからこそ、自分自身が最も厳しいユーザーとならなければいけない。
自分の作品のクオリティに対して、一番のファンである自分が厳しくツッコミを入れ、納得できるものを作り上げる。
「自分が欲しいモノを作る」という哲学の裏側には、
「自分自身が自分が作った作品の熱烈なファンである」
という思想があるに違いない。
本気で欲しいと思い、本気でファンだからこそ、どこまでも情熱を注いでモノを作ることができる。
逆に言うと、自分自身が「本気で欲しい」と思えないものを作ってもきっとお客さんは喜んでくれないし、
自分自身がファンになれない作品をお客さんに買ってもらうことは、自分に嘘をつくことにもなってしまう。
それはあまりにも悲しいことだ。
日経新聞が煽る「ユニクロ vs ZOZO」の対立構図
日経新聞はやたらと「ユニクロ vs ZOZO」の対立を煽りたがっている傾向があるが、前澤さんはその対立構図を否定し、不信感を抱いている点については忘れずに書いておきたい。
記者は読者のために記事を書いているため、ある程度脚色されるのは仕方ない部分もあるかもしれないが、前澤さんの主張が日経記者に全然伝わっていない様子が伺える。
この日経記者と前澤さんのすれ違いの背景には
「事業家とサラリーマンの思考の違い」
があるような気がしてならない。
ここで「事業家とサラリーマンの対立」を煽りたいわけではなく、バックグラウンドが違いすぎると、お互いを理解するのは難しいのだと言いたいのだ。
日経MJ新聞のインタビューで記者はこう尋ねていた。
「ZOZOが参入するビジネススーツは市場が縮小傾向です」
と。
それに対して、ZOZO前澤さんはこう答えている。
「恥ずかしながら、ビジネススーツ市場を調べたりしていないんですよ。
単純に、自分が着られるスーツがほしかった。
せっかく体型を測らせていただいているのだから、皆さまにフルオーダースーツを届けたいと」
サラリーマンは何か事業を始めようとすると、まず多くの人を説得しなければならない。
市場規模を調べ、体裁を整えたパワーポイントにグラフを描き、右肩上がりの矢印を引いて
「市場はこんなに伸びています!」
と偉い人にプレゼンし、
「失敗しない理由」
をたくさん並べ、しっかりと説明する必要がある。
それから決裁権を持つ偉い人が
「そこまで成功すると言うなら事業をスタートしていいだろう」
と認めてくれてやっと、お金を出してもらえる。
3Cだとか4Pなどのフレームワークを駆使して競合や市場を研究し、事業の勝算を予想し、数字を元に説明してやっと、予算をつけてもらえるのだ。
もちろん市場調査が悪いなんてことはない。
が、学校でたくさんの理論を学び、基礎を固め、日々多くの利害関係者との調整に奔走し、真面目に業務を遂行しているサラリーマンからすると、前澤さんの
「恥ずかしながら、市場を調べたりなんてしてないんですよ」
という物言いをすんなりと理解するのは難しいのではないだろうか。
邪推かもしれないが...。
僕たちは誰だって、自分のフィルターを通して物事を解釈してしまうため、
自分の理解の範囲を超えた主張を受け入れることは難しい。
「普通の人」から見ると突飛に見える前澤社長の考え方は、大きなビジョンを持って突き進む、事業家特有のものであるようにも感じた。