ナザリックの、海の日   作:Menschsein

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ナザリックの、海の日

 ナザリック地下大墳墓。そこは、夏と言えどヒンヤリとした冷気が漂い、夏の暑さとは無縁の場所だ。

 

 そんなナザリックの執務室でアインズは考えていた。ナザリックで働く者たちに、夏期休暇を与えるべきではないのかと。

 だが、夏期休暇を取ると言っても、ワークホリック気味の部下たちだ。素直に夏期休暇を取ることを了承しないであろう。

 どうやって、夏期休暇を取らせるか……。

 

 ふっと、アインズは社員旅行という言葉を思い出す。全員で、何処かへ行くか……。

 

 夏と言えば、海だな。

 

 ・

 

 ナザリックの支配者。アインズ様が通達した、社員旅行。行き先は、海。それを受けて、アルベド、シャルティア、アウラは、第六階層の巨大樹で、話し合っていた。

 

「海で海水浴ですか……。ところで、アウラ。貴方は、水着を着る際にはどうするのかしら?」とアルベドが尋ねる。

 

「ん? もちろん! ぶくぶく茶釜さまが、用意してくれた水着があるよ。たしか……"海パン"って名称だったよ」とアウラは答える。

 

「あら。至高の御方がたがご用意してくださった水着があるなんて、羨ましいわね」とアルベドがため息交じりに言う。

 

「アルベドは水着、持ってないでありんすか? ペロロンチーノ様は、クローゼットが一列埋まるくらいの水着を残してくださったでありんす。旧旧スク水、旧スク水、透けスク、新型、競泳型、セパレーツ、スパッツタイプ、スカートタイプ。色も、紺、白、ゼッケン付、水着にラインが入っていたり入っていなかったりと色々であんす。ペロロンチーノ様が一着一着私に着せてくださり、どれが私に似合うかを吟味してくださったでありんす」とシャルティアは自慢げに語り、「特別に、私の"学校指定水着"を一着貸してあげてもよいであんす」とシャルティアは勝ち誇ったようにアルベドに言った。

 

「気持ちはうれしいけど……あなたのだと少し私にはきついのでは無いかしら。特に、お胸のあたりがね」と、アルベドは自らの胸を勝ち誇ったように見せつける。

 

「……魔法の装備品だから、着るものの体格に自動で調整されるわ! 人の親切が分からない無粋な大口ゴリラでありんす」

 

「ヤツメウナギ……」

 

「吐いた唾は飲めんぞ!!!!!!!!!」

 

「ねぇ……アインズ様も水着を着られるのかな?」とアウラが呟く。

 

 その言葉に、喧嘩をしていたアルベドとシャルティアは、喧嘩を止めた。

 

「アインズ様の御身を見ることができる!!!! くふぅぅぅぅううう」

 

 ・

 

 アルベドは悩んでいた。どのような水着を着れば良いのであろうかと。ナザリックの防衛。自らが与えられた任務のことであれば、幾らでも応えられる。しかし、海水浴……。幾ら考えても、答えは見つからない。

 

「アルベド。何を難しい顔をしているのですか?」と、憂い顔のアルベドに、デミウルゴスは話かけた。

 

「いえ、今度の、海の日、どんな水着を着れば良いのかと考えていたの。アインズ様も行かれるのよ。栄光あるナザリックの守護者統括として、熟慮する価値のある問題だわ」

 

「水着ですか……。私も水着に関してあまり詳しくはありませんが、夏に女性の魅力を存分に引き出し、男性の視線を釘づけにするアイテムであると聞いたことはありますね。男性のみを魅了する効果を付与しているということでしょうか。しかし、アインズ様は魅了の耐性を持っておられますからね。デザイン勝負。思いっきり、ビッチなのを着る、これしか方法はないでしょう」

 

「ビッチなのを? そんな……。私は、淑女よ。私の想像主であるタブラ・スマラグディナ様がそうあれと言われているのにビッチな水着を着るだなんて……アインズ様にならともかく、他の男に自分の肌を晒すなんてことは考えただけでもおぞましいわ」

 

「しかし、それでは、アインズ様はさぞかしがっかりされるでしょうね……。アインズ様のペットの三吉に、日焼け止めを塗らせることができないか思案されていましたよ。アインズ様も、その日を心待ちにされているのでしょう」

 

「アインズ様の御体に日焼け止めを塗る……。なんて羨ましぃひひっひいぃいぃ。だけど、それだけアインズ様も楽しみにされているのなら……分かったわ。愛するアインズ様のため、私もひと肌、いえ、全部脱ぎましょう!」

 

「素晴らしい忠義です。ですが……かつて、至高の御方がたの一人、優れた索敵能力と探索能力に秀でていたフラットフット様が仰っていたことなのですが……『ビキニからハミ毛があるとがっかりする。やはり、"つるりん"こそ最強』とおっしゃられていましたよ」

 

「流石、知恵者と呼ばれるデミウルゴス。貴重な至高の御方がたの話が聞けてうれしいわ。ありがとう。だけど、そのあたりは抜かりないわ。ムダ毛処理。それは淑女のたしなみよ」

 

「余計な気遣いであったようですね。では、私も、腹筋に磨きをかけるためのトレーニングをしなければなりませんので」

 

 ・

 

 シャルティアの転移門(ゲート)によって、美しい珊瑚礁の海が広がる海岸にやってきたナザリックのメンバー。しかし、そこには不幸にも先客がいたのだった。

 

「おいおい! ここは、ミスリルプレートの冒険者チーム! 泣く子も黙る、『クラルグラ』の貸し切りビーチだ。って、お前等、綺麗ところが集まってるじゃねぇか。よし、お前等、俺が特別に、”犬かき”っていう泳ぎ方を教えてやる。そして、夜はお前等を、犬のようにキャンキャン鳴かせてやるぜ! 骸骨とか、海パンにネクタイしているような奴らより、よっぽど楽しいし気持ちいぜ? おっと、俺は、『クラルグラ』のリーダー、イグヴァルジだ!」

 

「休暇中にすまないが、ニューロニスト……。こいつ等、やっていいぞ」と静かにアインズは呟いた。

 

 ・

 

 ニューロニストは、捕まえてきた冒険者達を波打つ海岸にうつ伏せにする。そして、手首、足首をしっかりと固定した。

 

「みんな私の合図に合わせて腕立てをするのよ。一万回できたら許してあげるわ。疲れた人は、ポーションで回復してあげるサービス付よ! なんて優しい。この海のように寛大なニューロニスト様に感謝してねん。海水浴のときは、小まめな水分補給、それを忘れちゃだめよん!」

 

 ニューロニストの掛け声に合わせて、男達は腕立て伏せをする。

 

「も、もう無理です……」

 

「あら? もう疲れちゃったの? 冒険者のくせに、情けないわね。まだ、五百回もしていないじゃない。仕方がないわねん」と、腕立て伏せができなくなった男にポーションを振りかける。

 男の、日焼けで真っ赤になった背中も、一瞬で元のように治る。

 

 灼熱の炎天下の砂浜で続く、終わりなきトレーニング。

 

 腕立て伏せの回数が六千回を超えたところであろうか。潮が満ち始める。先ほど砂浜であったところは、既に海に沈んでいる。

 

 腕を精一杯伸ばし、口を青空に向けて、やっと呼吸ができるほどだ。タイミングが悪いと、波が口に入って呼吸ができない。

 

「ほら、休んでないで、しっかり腕を曲げて」

 

「もう許してください。呼吸ができません!!!!!!」

 

「泣き言を言わないの。あと、三千八百二十六回すれば許してあげるわよん」

 

 さらに潮が満ち始め、水位が高くなる。

 

「あら、だれも、腕立て一万回出来ないなんて……情けないわん」

 

 ニューロニストは、波に揺られている海藻のように、波に揺られるままぷかぷかと浮いているだけとなった冒険者たちに言った。

 

 ・

 

 なんとか、気持ち悪い青白い蛸のような生き物の触手を逃れたイグヴァルジ。だが、他の者から逃げ切れず、気絶させられてしまっていた……。

 

 イグヴァルジは、意識を取り戻す。そして気付く。体が動かない。動かせるのは首だけだ。そして、視界が低い。地面すれすれだ。

 自分は気付く。砂の中に体を埋められている。そして、首だけが砂から顔を出している状態。

 

 そして、自分の少し離れたところで、水着を着た闇妖精(ダークエルフ)の少女が杖に頭を付けて、それを視点にして、砂の上をくるくると回っている。

 一体何をやっているんだ? やがて、闇妖精(ダークエルフ)の少女は、ふらふらと、だが確実に自分の所へ向かって歩いてきている。

 

 イグヴァルジの頭まで数歩というところまで闇妖精(ダークエルフ)の少女が来たところで、ようやくその身を包む水着の見事さに気付いた。あまりにも見事な水着だ。そして、女性用の水着を着ているので、少女だと思っていたが、違った。ビキニでは隠しきれていない立派なモノ。イグヴァルジの二倍はあるであろう。

 矮小真正包――。昔、森妖精(エルフ)の知り合いから言われた言葉と、悲しい思い出がぼんやりと甦る。

 

 だが、それが完全に形を作るより前に、影が顔の辺りに差した。

 

 闇妖精(ダークエルフ)が、スタッフを大きく振りかぶっていたのだ。

 

 闇妖精(ダークエルフ)は相変わらずフラフラとしている。目隠しされて前も見えてもいないのであろう。

 

「ちょっ、ちょっと、待て! 何をするつもり――」

 

 エントマが到着したのは、ちょうどマーレの持つスタッフが西瓜(イグヴァルジ)に向かって振り下ろされる瞬間だった。スタッフによって果肉は潰れ、大きな二つの種は飛び出す。西瓜(イグヴァルジ)は粉砕された。

 

「ちょっとマーレ! 力入れ過ぎだよ! 原形留めてないじゃん。次の人が遊べないでしょ!」

 

「ごめん、お姉ちゃん。ぼ、ぼく、また調達してきたほうがいいかな?」

 

「もういいよっ。どうせ目隠しとかしても、私感覚でわかっちゃうし。つまんないかな」とアウラはため息交じりに言う。

 

「うん。僕も、暗闇(ダークネス)の耐性あるから……目隠ししても意味ないかも……」

 

「あの、ではこの西瓜(イグヴァルジ)の残骸、私が戴いてもよろしいですか?」と指をくわえてエントマが言った。

 

「良いけど……砂まみれだよ?」

 

「大丈夫です」とエントマがにこやかに笑った瞬間、エントマの両足を伝って無数の黒い小さな虫たちが降りてきた……。







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