血を受け継ぐ者たち 作:Menschsein
<< 前の話 次の話 >>
エ・ランテルの第三防壁と、外に築かれた第四防壁をアインズは交互に見回し、満足そうに頷く。
エ・ランテルの第四防壁は、対建築物用の超位魔法である
フールーダに言わせると、彼の魔法を駆使してもこの防壁に傷を付けることさえ難しいらしく、
(都市ってまずは、安全であることが第一条件で、それは確保されたな…… さて、第四防壁内に学園の施設を作っていくか)
アインズは、最初に、ペロロンチーノとスーラータンが、ギルドで反対多数で否決されたにも拘らず、作り続けたナザリック学園のデータを取り出す。ちなみに、大図書館《アッシュールバニパル》の司書長他全員に命じてそのデータを探させたところ、パッケージが偽装された状態で発見されたという報告が挙がってきた。おそらくそれをやったのはペロロンチーノさんで、ぶくぶく茶釜さんが実家に帰ってくる前に彼がいつも家でやっていることの延長上にある行為だとアインズは想像をした。
(ペロロンチーノさんとスーラータンさんが二人だけで、宝物殿とか大図書館《アッシュールバニパル》にいる時は、大体ナザリック学園の構想を練っているときだったなぁ。他のギルドのメンバーも、ナザリック内には建てさせないけど、レアアイテムとかをちょろまかさなければ構想を練るのはお好きにどうぞ、ってスタンスだったしな……)
アインズは必要となる敷地面積を確認して、
(す、凄いじゃないですか! ペロロンチーノさん! スーラータンさん……)
アインズの感動は抑制されたが、小さな感動の連続がアインズの頭の中に押し寄せてくる。アインズの目の前に現れた建物は、エルミタージュ美術館を思わせるような宮殿風の建物であった。校舎の前に作られた広場。そしてその奥に、幾つもの窓と支柱。そして建物の真ん中には大きな入口が見える。
アインズは校舎の中も見てみたいという衝動に駆られて、思わず飛行《フライ》を使ってその入口まで急ぐ。
入口の扉を開けると、そこはホテルのようなエントランス。床には絨毯が敷き詰められ、天井には大きなシャンデリアが吊り下げられている。エントランスの左右には廊下が続き、そして正面には二階に上がるための階段が設けられていた。そして二階へと続く階段の途中に踊り場があり、そこから左右に別れる階段がある。
アインズを感動させたのが、踊り場の上に掲げてあるアインズ・ウール・ゴウンの紋章《エムブレム》が輝いている。
感動を覚えながらアインズはアインズ・ウール・ゴウンの紋章《エムブレム》を見上げながら階段を登っていく。
ん?
アインズは階段を登りながら一つの違和感に気づいた。この微妙に登りにくい急勾配の階段は……。
(これが、スカートの奥が見えそうで見えないっていう黄金の角度って奴なんですね…… やっぱり作り込み半端ないです。運営のR15対策もばっちりに作ってあるなんて…… この廊下の曲がり角近くに「廊下は走るな」って、壁に貼ってあるのも意味深い……)
アインズは仲間の熱い情熱に感動しながら、学園の設備建設を続ける。ペロロンチーノとスーラータンが考えたナザリック学園は、全寮制がコンセプトらしく、男子寮と女子寮のデータもあったのでそれを設置する。寮の規則なども既に細かく設定されているらしく、士女《しじょ》を育成するという教育目標を念頭に置いた寮生活ということらしい。
(『寮食の朝食時間は厳守すること。ただし、朝寝坊した女生徒のみ、食パンを咥えながら通学路を走るのを許可する』って、意味分からない規則だけどなんなのだ?)
一通り二人が作ったナザリック学園の施設を点検した後、アインズは冒険者の養成という要素もナザリック学園には加わっていることを考慮し、冒険者が訓練できる施設をどこに建設するかを思案していた。
(あんまり遠い距離にすると、校舎と離れてしまって不便だろうし…… それになぁ…… )
『貧乏人が集まる都市には自然が無い。富裕層が住むアーコロジーに行けば自然が多い。そう考えてしまいがちですが、それは間違った考え方だと私は思うのです。そもそも人類も地球の一生命体に過ぎないのだから、他の動植物との共存関係が必然的に求められるんです。たとえば大気が汚れておらず人工心肺も不要で、太陽が大地に降り注いでいた時代は、都市を作る際にも、人口一人当たりの公園面積がどれ程か? ということが意識されていたんです。そしてその公園には、本来の自然とはほど遠いですが、芝生があり木々があり、そしてその中で日向ぼっこをしたり、ジョギングをしたりなど、様々なレジャーが行われていました。小さい時から自然に触れあって生きていく、清浄な空気が当たり前にあるように、緑が当たり前に自分の周りに存在しているということが大切なんです。そういった緑が当たり前に存在している環境で生きていれば、緑が減っていく、他種が絶滅していくということが、まるで自分自身の身が削られていくように感じるものなんです。要は、成長していく中で育まれていく感性なんです。だから、こんな環境になってしまっていて、それが良いと思ってはいけないんです。本来自分たちの周りに当たり前に緑があるべきだということを忘れてはいけないのだと思います。今のように緑が全くない世界で育ってしまったら、これから先、自然を守ろうという気持ちすらも人類から失われていってしまいます。
私も地球を守るとか、環境保全なんて大きなことを言っていますが、私に出来ることなんて、汚染された空気、少ない日照の中で道ばたで健気に咲いている花の美しさを次世代に伝えていくことぐらいしかできないんですよ……。モモンガさんも、もしご興味があれば、部屋に一鉢、植物を置いてみることをお勧めしますよ。土の中から芽が出たときは感動します。花が咲いたらユグドラシルへのログインを忘れて、ずっと眺めていたくなるかもしれませんよ。そして、その花が枯れてしまった時、悲しい気持ちになったらそれは、立派に自然を愛しているってことだと思います』
(ブルー・プラネットさんが自然の大事さを子供に伝えるっていう活動をしていたのを聞いているしな……。建物ばっかり密集させても、ブルー・プラネットさんの願いに反してしまうよな……。よし! 校舎と運動場の間に、公園を挟むか。そうすれば、冒険者も走ったりとか体力トレーニングができるし、リア充どもが…… って、ある意味ここは彼等にとってリアルなんだから文句はないが……)
アインズは、第六階層の
『ナザリックに侵入してきた冒険者が戦うのを観戦するっていうのは面白いけど、第六階層まで侵入してくるレベルだったら、のんびり観戦している暇なくね? しかも、俺達のギルドに入りたい奴ってあんまりいないみたいだし…… メンバー全員が座る席は確保するとして、それ以外の観客って誰よ?』という意見が、ギルド拠点建築の際にあったのであった。
(一般観客席を無くすと円形劇場っていう体裁が立たなくなるから、一般観客席数を随分と減らして、その観客席に座らせるゴーレムを作ったんだったよなぁ……)
アインズは、
目の前に生み出された