俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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羽化する。雛鳥。全て同一。気づき。芽生え。息吹き。


第八話 雛鳥

-『生徒会長』フリアーネ視点-

 

 

私、フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドは、

 

キーア・シルバー・シス・ブレッドさんを愛している。

 

 

…信じられないが、そうなる。これまでの私の『行動』を結論づけると。

 

 

学院を去った、『アルシェ』への友達、ライバル意識とは全く違う。

 

 

キーアさんが12歳で第三位階魔法を使えるのは、普通は有り得ない。

 

 

『天才』の一人なのだろう。キーアさんは。

 

…完全に、偉大な父の『才』を受け継いだ。

 

 

 

『秀才』の私とは違う。学院の三本の指に入るだけの『秀才』とは別格。

 

アルシェと同じ、あるいはそれ以上の、完全に別格の『才能』。

 

 

…だから、私は『お手洗い』までキーアさんまで付き添った?

 

 

有り得ない。

 

…だから、愛しているのだろう。キーアさんを。

 

そうとしか考えられない。そう結論せざるを得ない。

 

 

 

…私は、グシモンド家の恥だ。

 

ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下に忠誠を誓う、

 

グシモンド家の恥。

 

 

 

…さらに言えば、キーアさんの父、

 

『モリアーティ・シルバー・シス・ブレッド男爵』は、

 

これからの『帝国』に必要不可欠な存在だ。

 

 

帝国が、『魔王』、『魔王国』などという存在に対抗するため、

 

皇帝陛下自ら見出した『逸材』。

 

 

彼の『魔法理論』は、彼のフールーダ・パラダイン様すら驚愕したという。

 

 

ブレッド男爵は、帝国が至るであろう、数十年先の『魔法理論』を提唱した。

 

皇帝陛下への忠誠の証として。

 

 

…皇帝陛下から、『男爵』という地位を与えられた以後に。

 

 

…彼は、ブレッド男爵は、『時代』が生んだ怪物だ。

 

いや、それ以上の何かだった。

 

 

私が、グシモンド家が手にした確かな『情報』。

 

 

さらに、彼は、持ち前の圧倒的なカリスマ性で、

 

帝国魔法学院の『全て』を改革する方針を打ち出した。

 

 

帝国魔法学院の学長就任当初に。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

就任当初、ブレッド学長は挨拶も早々に『講義』をし始めた。

 

 

誰もが、聞きやすい『声』で、品位ある身振りで『視線』の全てを、誘導する。

 

その洗練された動きは、生まれながらの『貴族』としか思えなかった。

 

 

…本当に『男爵』なのだろうか?

 

 

皇帝陛下の血筋の可能性。そんな『馬鹿』な考えまで頭に浮かぶ。

 

 

 

「やあやあ、諸君。辛気臭い『概念』に囚われている諸君。

 

 私が、これからの『魔法』の可能性を教えよう。

 

 第零位階魔法から第二位階まででできる『技術革新』を」

 

ブレッド男爵は、そういって教え始めた、マジックキャスターの『機械化』という概念を。

 

 

「魔法というのは、要するに、『技術』だ。

 

 牛の乳の出を良くする、指先に炎を起こす。紙を生み出す。臭いを消す。

 

 鉱石、香辛料すら生み出せるこれらの『生活魔法』。

 

 何とこれらは皆、第零、一位階の魔法だ。

 

 君たちも日常生活で使っている者も多いだろう」

 

当たり前の魔法理論を、整然と語る。

 

この学院にいる者なら、一学年すら知っていることを。

 

学術的理論からではない『技術』という発想。

 

 

…元々この学院でも、建築学科で『軽量化』を学ぶ等の『視点』はあった。

 

その魔法を一つ知っているだけで、それまでの工事の工程全てが変化するから。

 

 

だが、彼は、ブレッド男爵は違った。

 

 

『技術』として、私達の『知識』そのものを利用しろと主張した。

 

ただ、知っているだけでなく、『広める』発想。

 

…『視点』の変更だ。

 

私達を、一生徒で終わらない可能性を示した。

 

 

帝国魔法学院の卒業生というだけに終わらない、『事業家』の可能性を示した。

 

 

…危険な思想だと私は思った。

 

ブレッド男爵のそれは、『国』が魔法を管理できなくする思想。

 

 

…だが、『魔王国』という存在が、その危険思想を全力で『肯定』する。

 

 

…皇帝陛下の狙いが見えてきたような気がする。

 

なりふり構わない『発展』しか、帝国に活路はないということか。

 

 

公爵の、グシモンド家の者としては、辛い現実が、目の前の『学長』が教えてくれる。

 

 

「…故に、可能だ。大量生産方式の『魔法』生産物が。

 

 これまでのような少数でしかない『技術』を体系化することが可能だ。

 

 第零位階なら村人にすら可能。帝国そのものの構造を『革新』できる。

 

 大量の『技術者』を生み出すんだ。

 

 君たちなら、魔法理論を学んだ君たちなら可能だ。その先達が」

 

『天才』という枠組みを超えた何か。

 

 

私が、ブレッド男爵に感じた第一印象だった。

 

 

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ブレッド学長に帝国魔法学院の皆が、『魅了』されている。

 

 

新しい可能性。私達が持ちえない『何か』をブレッド学長は示してくれる。

 

 

 

…彼に、ブレッド男爵に魅了されていないのは、

 

あの疑り深いジエットと私くらいか。本当に『数名』しかいない。

 

 

 

…ランゴバルト・エック・ワライア・ロベルバドは完全にそのカリスマに魅了された。

 

 

虐めていたはずの、ジエットなどもはや『視界』にすら入っていない。

 

 

ブレッド男爵は、三男でしかない彼に、正確には他の生徒たちにも。

 

『道』を示した。

 

第一、二位階魔法の改革。生活魔法の応用。

 

 

貴族にとっては選べない『選択肢』を彼らの『目』を見て語って聞かせた。

 

 

『産業改革』という未知の『概念』。

 

 

貴族の地位すら不要になる可能性すらあるその概念。

 

魔法の深淵を覗くのとはまた違うアプローチ。

 

 

モリアーティ・シルバー・シス・ブレッド男爵。

 

 

理論、技術、思考…『万物の怪物』だ。

 

 

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本来ならば、私ですらそのカリスマ性に魅了されていたかもしれない。

 

 

さらに、新しい『可能性』を見出した彼に、ブレッド男爵に、

 

グシモンド家の娘として近づいただろう。

 

 

ブレッド男爵の、若くして、奥方を無くしたという彼の心の隙をつき、

 

『血』を取り込むことも考慮しただろう。

 

 

グシモンド家からの『命』があれば。

 

 

 

…本来ならば?

 

 

 

『思考』にノイズが入る。

 

最近、ずっと違和感がある。

 

 

 

…キーアさんが来た辺りからだ。

 

故に、これは『愛』としか考えられない…はず。

 

 

私は、幼げな『少女』に恋煩いを抱いているとでも言うのか!

 

 

 

『…誰か助けて』

 

 

 

また、『思考』にノイズが入る。

 

何であれ、気持ちを一新して、私は『生徒会長』として振る舞わないといけない。

 

 

あんな近づき方は、避けるべきだ。キーアさんも目に見えて、嫌がっている。

 

どう考えても私はおかしい。

 

 

「生徒会長。キーアさんが呼んでいます。何でも、生徒会長室で二人きりで話がしたいと。

 

 …いい加減あの距離の取り方はやめた方がよろしいかと」

 

生徒会に所属する書記から何かを言われた。

 

 

…私の『思考』はそこで途切れた。

 

 

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-モモンガ視点-

 

 

帝国魔法学院の生徒会長室。

 

本来なら一学生が勝手に入れない滅茶苦茶も『親馬鹿』なら可能。

 

そのために、教授には、『親馬鹿』を演じさせていた。

 

 

…こうなる可能性も考慮して。

 

 

 

「さて、かかったな。簡単に」

 

『魔王』である俺は、帝国魔法学院の生徒会長室に、

 

キーア、いや『キーノ・ファスリス・インベルン』と一緒にいた。

 

 

彼女の全ての因縁に終止符を打つために。

 

 

…俺としても、『キーノ・ファスリス・インベルン』の出自を聞いて、

 

思うところがなかったわけではなかった。

 

 

…『取引』をした間柄である以上、彼女に多少思い入れでもしたのかもしれない。

 

良くない傾向だが、今回は彼女と近づく必要がある。

 

今後、ナザリックで働いてもらうために。

 

 

本来なら『自由意志』であって欲しかったが、俺の『言葉』を使う。

 

 

だから、躊躇わない。

 

 

「キーノ・ファスリス・インベルン。私は君の因縁に終止符を打つことを約束する」

 

改めて、約束する。『魔王』の確約を。

 

 

…法国とのキーノへの安全は取り付けた。

 

 

ナザリックに、俺の『側』に縛り付けるという、最悪の形だが。

 

…彼女が受け入れてくれるかどうか。

 

 

『蒼の薔薇』の仲間と引き裂くつもりはない。飽くまで、『形』だけだ。

 

それでも、俺への悪感情が抜けるかどうかが勝負だ。

 

 

「は、はい!」

 

緊張した面持ちで声を上げるキーア。

 

 

演技ではない『素』だ。

 

 

…これは後で言うべきか。

 

 

彼女が冷静なときか、終わってから、言わなければ、万に一つ『失敗』しかねない。

 

 

とにかく、『時間』がない。

 

 

…正確にはあるが、可能性は潰した、退路は絶った。

 

もうすぐ来る『盟主』が。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺は『盟主』の暴走を、これ以上見ているのは不味いと即座に判断した。

 

 

…『盟主』が、キーアに、トイレにまでついてくる以上、二人きりになった瞬間狙われる。

 

キーアが『魂の同化』されでもしたら、全ての計画が水泡に帰す可能性がある。

 

 

キーノと記憶を共有して、逃げられたら終わる。

 

『盟主』に逃げ場等はないが、被害が出る可能性があった。

 

 

 

だから、急いだ。今日、この瞬間が『最短』だった。

 

 

法国と、俺と、キーアの全ての時間が合致した。

 

『最短』だから、話を、作戦を、短縮してイビルアイに聞かせる他なかった。

 

だが、予めスルメさんが仕込んだ罠は、もう既に発動済み。

 

 

本当に『盟主』を捕らえるだけでチェックメイトだ。

 

『盟主』にも、構成員にも、メッセージを使う暇すら与えない。『最短』で捕らえる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

生徒会長室の扉が開く。

 

 

『気探知』等各種スキル、無詠唱化した魔法等で確認する。

 

 

来たのは、たった一人だ。間違いない。

 

 

「………キーアさん?」

 

…間違いなく、『盟主』だ。

 

 

「キーノ!」

 

俺は叫んだ。使えと。

 

 

「はい!」

 

キーノはそう言って『魔封じの水晶』を掲げた。

 

 

魔封じの水晶に亀裂が入る。

 

封じていた『魔法』が発動した。

 

 

『魔法』が発動した瞬間、フリアーネが二人にずれて見えた。

 

 

「え?…「「私が二人?いや、違う!私じゃない」」

 

…アルシェより状況の飲み込みが早い。

 

 

『秀才』と自分を蔑んでいるようだが、おそらく、

 

フールーダの領域に至れる可能性はフリアーネの方が高いと俺は思う。

 

 

そんなことを考えていた俺だが、『最短』で盟主を捕らえる。

 

 

「『魔法最強化・静寂(マキシマイズマジック・サイレンス)』」

 

これで、誰も気が付かない。後は、詰め将棋だ。

 

 

「『魔法最強化・人間種束縛(マキシマイズマジック・ホールドパーソン)』」

 

まず、これはフリアーネを拘束するための魔法を使う。

 

 

「ふぎゃ!?」

 

品のない声で転がるフリアーネだが、無視だ。

 

 

ここからが本番。

 

 

『盟主』は、拘束されていない。

 

 

地べたにフリアーネが転がり、『盟主』は呆然と立っている。

 

二つに分かれた片方が、立っているのが『盟主』だ。

 

…『盟主』は人間種じゃない。アンデッドだ。

 

異形種だから先ほどの魔法は通じない。

 

 

『人間種束縛(ホールドパーソン)』は、『盟主』にだけ通用しない。

 

故に、二人の分断がさらに容易になった。

 

 

『盟主』は慌てて身構えようとするが、完全に手遅れ。

 

 

「『魔法最強化・肋骨の束縛(マキシマイズマジック・ホールド・オブ・リブ)』」

 

巨大な肋骨が飛出し虎ばさみのように『盟主』に襲い掛かる。

 

ダメージを与えた後、そのまま相手を拘束し続ける魔法。

 

 

生徒会長室が多少、壊れるが気にしない。

 

 

気配遮断に回していた『完全催眠』を発動させる。

 

…完全な隠蔽を行った。

 

 

もうワールドアイテムを使っても、『盟主』に気づかれても意味がない。

 

法国もここまで誰もいない。今は後詰の真っ最中。

 

 

故に法国に『完全催眠』の使用がバレない。

 

…今なら『完全催眠』が余裕で使える。

 

 

「さあ、初めまして。ズーラーノーンの『盟主』よ。

 

 …そして、哀れな『被害者』フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド。

 

 私は『魔王』アインズ・ウール・ゴウン。そして、こちらが…」

 

そう言って、『彼女』に譲る。

 

 

何しても、『盟主』を殺さなければ問題ないと『彼女』には言ってある。

 

 

「久しいな『盟主』。…覚えているかな?

 

 私の名は、『キーノ・ファスリス・インベルン』。

 

 …250年前、お前が滅ぼした都市にいた『少女』。

 

 そして、『国堕とし』としてお前に、罪を擦り付けられた『化け物』だ」

 

そう堂々と名乗る『キーノ・ファスリス・インベルン』。

 

 

…ああ、なるほど。

 

この光景を見て納得した。

 

これか、俺が彼女を『策』に関わらせた最大の原因が。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…同情か。ツアーからの話を聞いて、同情したのか、俺は。

 

 

彼女に失礼だろう『感情』が根底にある。

 

 

…『魔王』としてはやはり不味い傾向だ。

 

ンフィーレアの時もそうだった。

 

なりふり構わず行動しそうになった。というかした。

 

 

今回は、『教授』を救う最適解と思ったからが大きいが。

 

 

『キーノ・ファスリス・インベルン』にも適用されていたか…

 

 

 

…『やはり』?

 

…またやった?

 

 

 

…気が付く。気が付いた。

 

 

 

この『心配』が、俺以外の、他の誰かにあったとすれば、

 

俺にこの『策』を実行させて、敢えて、気がつかせた可能性が高い。

 

『キーノ・ファスリス・インベルン』を見て確信した。

 

俺の不安になり得る『感情』を。

 

 

 

…俺が同じ立ち位置なら、これくらいやるかもしれない。

 

それが、『心配』だから、全力で『場』を整えて、『罠』を仕掛けて、教え込む。

 

彼の『友』ならやるだろう。

 

彼なら、俺にどの程度なら許してくれるかの判断もある程度、容易だ。

 

 

 

俺は、『教授』をなりふり構わず、滅茶苦茶して助けようと考えた。

 

…皆に迷惑をかけた。

 

だが、違う、それじゃない。

 

 

彼が、言いたいことは、『心配』はただ一つだ。

 

 

 

…誰かに頼れない俺を心配している。

 

全部背負おうとしてしまう、俺を、『魔王』を、だ。

 

 

 

…もし、そうならとても嬉しい。そこまで心配してくれたことを。

 

…そして、悲しい。そこまで心配させてしまったことを。

 

 

だが、俺の思い込みの可能性もある。

 

彼と、『答え合わせ』が必要だろう。

 

 

 

…まずは、フリアーネをどうにかしよう。

 

『教授』でもないのにこれは可哀想だ。

 

『教授』なら自業自得だが、フリアーネは完全に『被害者』だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「さて、グシモンド嬢。君の実家は『ズーラーノーン』に完全に支配されていた」

 

フリアーネの拘束を解いた俺は、『真実』を告げた。

 

早いか遅いかだ。知らせる必要がある。

 

 

もう、グシモンド家は詰みだ。法国の別動隊が行動している。

 

『鮮血帝』も了承済みだ。

 

 

「……何がお望みで?」

 

色々勘違いをしているな、この娘。

 

恩を売りたいだけだ。もはや、それ以上望めないから。

 

 

「いらん。帝国に忠誠を誓う君は、今回の件に関しては、全く悪くない」

 

公爵家がなくなるとか、帝国にとっても損害だから。

 

すぐに『鮮血帝』も納得してくれた。

 

 

最後の方に何か底意地の悪そうな笑みを浮かべていたのが、若干気になるが。

 

 

『鮮血帝』が、俺を利用しようとしてくる度に、ツッコミ入れる程度には仲良くなれた。

 

 

散々『魔王』に怯えまくっていたが、

 

俺が若禿治す薬与えた辺りから完全に開き直った。あの男。

 

 

『鮮血帝』は最近どうも帝国を裏から恐怖で実質的に支配しているはずの、

 

『魔王』の俺を軽んじている気がする。

 

 

 

「……どういうことですか?」

 

疑問しか浮かんでいない。無理もないか。

 

 

「帝国皇帝には既に話がついている。

 

 グシモンド家は、君を当主として、帝国の混乱を最低限に防ぐ」

 

これくらいやれ。寧ろやれ、と君が忠誠を誓っているはずの皇帝陛下が言っていたぞ。

 

 

ありゃ、もう『ガキ』だ。ツッコミが追い付かない。

 

 

「……つまり私が全てを担えと?学院を辞めて?」

 

『鮮血帝』はもうどうにでもなる安心しろと言っていた。

 

 

…俺がサポートしないと不味いな。

 

 

開き直った『鮮血帝』はある意味無敵だ。

 

 

…スルメさんの信者なのだ。実は。隠れ信者だ。

 

 

俺もつい先日知った。

 

 

法国の使者として帝国に、しゃしゃり出てきたスルメさん。

 

追い詰められていた『鮮血帝』は完全に嵌った。カルトに。

 

 

最後の方には、『鮮血帝』ももう完全に悟った顔していた。

 

 

完全なる『変態』だった。

 

 

帝国四騎士の一人、

 

『雷光』バジウッド・ペシュメルから皇帝陛下を何とかしてくれと頼みこまれたが知らん。

 

 

俺に頼るな。

 

ああなったのは、俺のせいじゃない。

 

 

「まぁ、そうなるな。私も皇帝も協力するが」

 

皇帝はスルメさんを毎日拝んどけば、大概のことは何とかなるとか戯言ほざいていた。

 

 

…ロクシーとかいう愛妾にぶん殴られていた。

 

 

彼女は、普通に『才女』なので、本気で俺に怯えまくるんだよなぁ…。

 

『鮮血帝』には容赦ないが。

 

 

ロクシーは、

 

『皇帝として普段は、より一層振る舞えるようになった分、腹が立つ』

 

とか言っていた。

 

 

…考え事をしていたら、誰かが来た。

 

来ないはずの誰かに警戒する。

 

 

「でしたら、良い考えが」

 

『教授』だった。よし、スイッチ押そう。

 

 

「やめろ!私が、モリアーティの姿でそれやるな!」

 

察しの良い奴だ。

 

普通に今回、お前が、全部ぶち壊したことにイラッと来たから押そうとしただけなのに。

 

 

「ブレッド学長!何故ここに!!」

 

フリアーネが叫ぶ。

 

ああ、面倒になった。なってしまった。

 

 

…だが、これは後のことは全て任せて良いということだよな?

 

 

俺の気づきが、正しければ。

 

 

「…全て任せてよいのだな?」

 

計画されていたのなら、これも『想定内』なはず。

 

だから、俺は確認する。『教授』に。

 

 

「…はい。何も問題ありません『魔王』様。

 

 どうぞ、『死神』にお会いになってください。

 

 …あなたの自室でお待ちですよ」

 

ニッコリと笑う『教授』。いや、今は、モリアーティ『学長様』か。

 

 

「すまない、キーノ。私は緊急の用ができた。すぐ君を迎えに行く」

 

答え合わせしたら、すぐ『ナザリック』内での扱いについて相談しないといけない。

 

 

どうなるか、微妙に読めない。

 

何せ、『死神』と『教授』の合わせ技だ。

 

 

 

今回は、前のように、『愛』を利用していないから、

 

スルメさんが、元従属ギルドメンバーだからナザリックまで動員できたのだろう、恐らく。

 

…少しだけ不快だが、それだけ皆に、心配をかけたことの方が大きい、か。

 

 

「わ、わかりました」

 

キーノの顔が若干赤いな。

 

…風邪か?

 

いや、今、吸血鬼だしな。これもわからない。

 

 

あとは、『盟主』だが…生きてはいるな。

 

ナザリックと誰か入れ替えで来させれば何も問題ない。拘束も容易だ。

 

 

 

「では、また後で」

 

そう言って、俺はナザリックの第九階層の自室へ転移した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

-『教授』視点-

 

 

さて、魔王は去った。

 

『鮮血帝』を洗脳した『死神』がこうしたら喜ぶとナザリックの皆と話合った行為。

 

 

…私が、これを、しないといけない?

 

絶対これ、『魔王』怒るよ?

 

 

「キーノ。とりあえず、そこまでにして。

 

 『盟主』をアイテムで完全に封印するから。

 

 …ちょっと周囲を警戒してきてくれる?問題ないはずだけどさ」

 

そう言って、持ってきたアイテムで拘束する。

 

 

「『魔獣の諸相 石化魔獣の瞳(ヴァリアス・マジカルビースト アイ・オブ・カドブレパス)』」

 

『盟主』の石像の完成だ。煮るなり焼くなり好きにできる。

 

『魔封じの水晶』の劣化版だが、ここまで弱った『盟主』なら石化は、容易だ。

 

 

「わかった!見てくる」

 

嬉しそうに、キーノは言う。

 

飛び跳ねそうな勢いだ。

 

 

貧乏魔王の、『すぐ君を迎えに行く』は狙ってやっているとしか思えない。

 

 

人化の指輪で『キーア』に変身して去っていった。…完全に幼女だ。

 

 

『死神』は犯罪じゃないからセーフとか戯言ほざいていた。

 

私もそう思ってしまった。しまっていた。

 

 

…アウトだろ。アレ。幼女だぞ、完全に見た目。

 

 

ああ、気分を変えよう。

 

私まで本当に、『変態』に汚染されてきた。

 

 

 

「フリアーネさん。あなたの家、

 

 いつかこのままだと陛下に処分されるのは覚悟していますか?」

 

勿論、そんなことは、『鮮血帝』は絶対しない。

 

 

完全に『死神』の信者だから。

 

 

『魔王』に恐怖しているが、『信仰心』で保っている。

 

 

『死神』は、皇帝を、自我の崩壊一歩手前からの『宣教』した。

 

手慣れ過ぎていた。完全に嵌った。あの皇帝。

 

 

…六大神とか呼ばれるだけある。

 

 

『変態』を崇める、カルト宗教だが。

 

 

「……もう、これ以上ない失態です。私の代で終わらせるべきかと」

 

そう、帝国に、忠誠心が高いとこうなる。

 

 

外面だけは完璧に皇帝をこなしている。偉大な皇帝陛下だ。

 

 

『鮮血帝』は進化した。

 

…ダメな方にだが。

 

 

「では、今から言う事をよく聞きなさい。

 

 大丈夫、あなたは守られます。

 

 『魔王』様は、あなたが『帝国』から見放されても協力すると言いました」

 

そこまで『魔王』は言っていない。

 

だが、信じるしかない。私の言葉を。

 

 

「…しかし、世継ぎは」

 

ああ、フリアーネからコレを言い出すのは『想定外』だ。

 

 

何だろう。生まれたばかりの雛鳥の刷り込みみたいなものだろうおそらく。

 

 

「ああ、大丈夫。問題ない」

 

そう言ってこれからの計画を話す。

 

フリアーネにグシモンド家を存続させる方法を。

 

 

 

ここから先は、シマバラ他全員の責任だからな。

 

…会ったことない誰かを除いて。

 

 

私の意思じゃない。

 

 

絶対『災い』になるぞ、これ。

 

…『守護者統括』を『死神』が説得したお陰で最悪にはならないが。確実に。

 

 

 

そういうことに気が付けるならもっと考えろ、本当に…

 

 

…私はもう知らない!もう、嫌だ!

 

 

 







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