五輪英語の準備急ぐ日本、フォルティ・タワーズを頼りに

マット・ピクルズ

Fawlty Towers
Image caption 日本の英語話者を増やすのに「フォルティ・タワーズ」が活躍?

日本は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催までに、十分な数の英語話者を確保するのに苦労している。

中には、書き言葉や文法よりも英会話に力を入れようと、会話の用例にBBCの名作コメディ・シリーズ「フォルティ・タワーズ」を使う指導者もいる。

日本政府や企業は、観光事業や国際貿易の促進、さらには日本の良いイメージを世界に発信する機会として、五輪を活用したいと考えている。

そのため政府は、五輪ボランティアとして、あるいは宿泊施設、観光業界、小売業界で働く人材として、十分な人数の英語話者を確保する必要がある

さらに、来日した観光客や競技出場選手に英語で対応できる医師や看護師など、専門職の需要もある。

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Image caption 東京五輪では、来日する人たちへの対応に、今まで以上に英語話者が必要となる

英語とのこの溝を埋めようと、政府は取り組みを続けている。

英語は現在、生徒が8〜9歳の時に学校で授業が始まり、その後7年間、必修科目となる。

大学生や学校教員の多くが、英語学習のために海外に派遣された。た多くの大学では、五輪ボランティアをする見込みのある人を対象に、語学研修を行なっている。

さらに、都内に「英語村」を作るという企画まである。英語話者だけが住むこの場所にいれば、学習者は英語に浸ることができるというものだ。

しかしこれまでの進捗は、はかばかしくないようだ。英語力の世界ランキングで日本は今でも驚くほど低い。

日本は、国際コミュニケーション能力テスト(TOEIC)で48カ国中40位。EF英語能力指数(EF EPI)では昨年、「標準的」から「低い」に落ちた。

ではなぜ日本人にとって英語学習はそれほど難しいのか?

弘前大学の教育専門家の多田恵実氏は、主な原因は「効果的に英語を使える教師の不足」だと指摘した。

京都府教育委員会が中学校の英語科教員にTOEICを受験するよう求めたところ、「ほとんどの社会的要求や、限定的な業務要件に対応が可能」というレベルに達した教師は、4人に1人以下の割合だった。

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Image caption 日本政府は、学生や社会人の語学力向上に向けて投資し続けている

日本政府は今や、英語の授業を小学校に導入した。しかし小学校教師のほとんどが、英語を教える資格を持っていないと多田氏は指摘する。

英語教育を改善するには、訓練を受けた教師の数を小中学校で増やし、さらに従来より時間をかけて教師を訓練する方が得策だと、多田氏は言う。

学校での英語の教え方についても、問題はいろいろ指摘される。文法や語彙(ごい)、作文に集中しがちで、緊張感のきわめて高い試験の場で繰り返しテストされる。

その結果、日本の教室で英語が話されることはほとんどない。

教育企業EFジャパンの中村淳之介代表取締役は、「日本の学校では、日本人が日本語で英語を教えるケースが多すぎる。英語は英語で教えなくては」と話す。

中村氏はまた、政府の英語教育改革では、「基本的な部分は実際には何も変わっていない」と述べた。

Helen Bentley
Image caption ヘレン・ベントリーさんは、日本で英語を学ぶ人たちは英会話よりも英作文の方が得意だと言う

コミュニケーションのコンサルタント会社フィンズベリーのヘレン・ベントレー氏は、東京五輪招致に携わった。

「日本では、英語で話す機会はあまり多くない。その結果、日本人の多くは英会話より読み書きの方が得意になる」

生徒たちがもっと英語を話すようにと、工夫を凝らす教師たちもいる。例えば、宿題にコメディを見させるなどだ。

福岡県の教師たちは、生徒の耳を英会話に慣らせるために「フォルティ・タワーズ」や「宇宙船レッド・ドワーフ号」といったテレビのコメディ番組を使っている。

つまり「フォルティ・タワーズ」の登場人物のバジル・フォルティやシビル・フォルティ、もしくはマヌエルのように話す日本人生徒たちが出現する可能性があるというわけだ。

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Image caption 日本的な完璧主義が英語学習の妨げに?

また、物事には「正しい」やり方があると考える日本の教育には、完璧主義的な文化があり、これも英語学習の障壁となる。

生徒は間違いたくないので、うまくできると確信が持てるまで何かを試してみようとしないのだ。

この方法は、読み書きや数学にはいいだろう。日本は学習到達度調査(PISA)などの世界ランキングで、常に上位付近にいる。

しかしこれは語学学習ではそれほどうまくいかない。言葉を覚えるには、実際に話して間違えるのが不可欠だからだ。。

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Image caption 語学学習には間違える覚悟が必要だ

ロッテルダム・ビジネススクールで日本語や異文化マネジメントを教える井上富美子氏は、東京の学校で英語を教えていたオランダ人学生の経験を挙げる。

このオランダ人学生が日本で教え始めた当初、生徒たちが教室で英語を話したがらないのに驚いた。しかし生徒たちを懸命に励まし結果、生徒たちは英語で互いにおしゃべりするようになった。

しかし生徒たちの英語おしゃべりは、先輩教師が授業を見学した日を境に消えてしまった。ベテラン教師は、文法の間違いが多すぎると生徒たちを批判したのだ。

「当然ながら、何も言わなければ間違いようがないので」と井上教授。

この教え方は、日本人と英語の関わり方に、一生消えない影響を与えてしまう可能性がある。

「私たち日本人には、英語を話すことに強い心理的な抵抗感がありますは」 放送大学の心理と教育コースで教える岩崎久美子教授はこう言う。

「英語を話すなら完璧に話さなくてはという、強い思い込みがあるので」

(英語記事 Japan turns to Basil Fawlty in race for Olympic English