たかがゴミだけれど、これは大きな問題でもある。生活の基本的なインフラだからだ。大家さんのご厚意はありがたいけれど、でもそれに頼ってるだけでなく、地方移住の一般論としてもう少し課題の認識へと推し進めてみたいと思った。そんな時にちょうど、美浜町から庁内の会議に出席するよう要請された。私は美浜町の「多拠点活動アドバイザー」という仕事を委嘱されている。会議には町長副町長以下、各課の課長さんたちがずらりと出席していた。そこで会議の終わりに、思い切ってこのゴミ出し問題を提起してみた。
びっくりしたのは、「えっ、ゴミ出せないんですか?」と驚かれたということだ。この問題は役場でも認識されていなかったのだ。「場所はどこ?」と聞かれ、地域の名前を伝えると「あ……あそこのゴミステーションは町内会の持ち物ですからねえ。それはしかたないですねえ」という反応もあった。
ただ話はここで終わりにはならず、これから行政としてきちんと検討しますという回答はいただいた。役場のゴミ集積場に持っていくことになるのか、それとも地域のゴミステーションのあり方が変わることになるのかはまだわからないが、今後の展開に期待している。
さて、私がこのささやかなゴミ出し問題にこだわっているのは、これからは都市住民と地域との「かかわりかた」が変わってくると考えているからだ。地方にどっぷりと移住するのであれば、腰を据えて地域の共同体に参加し、時間をかけて町内会に入れてもらうという方法もある。実際、そのようにして都市から地方に移住している人もたくさんいる。
ただ、人口減と情報通信テクノロジの時代には、そのような完全移住よりも、移動しながら多拠点生活を営んでいく可能性の方が大きいのではないかとも私は考えている。なぜ移住ではなく多拠点なのかといえば、ひとつには仕事がしやすいということ。完全なリモートワークは難しいし、かといって地方には仕事が少なく、都市の人が第一次産業にいきなり携わるのはハードルが高い。多拠点であれば、都市の仕事もしながら地方の生活や副業もこなすというような多様なワークスタイルが保持できる。
もう一点は、共同体との関係だ。地方の伝統的な共同体は安逸ではあるけれども、同時に息苦しく、同調圧力も高い。いまやインターネットによって社会にたくさんの風穴が空いている時代に、同調圧力の高い伝統共同体に今さらどっぷりと浸るのはかなりの覚悟がいる。それよりも、複数の共同体にまたがってつながり、弱い関係を維持した方が生きやすい。同時にそれはひとつの共同体から外れても他があるから大丈夫という、現代的なセーフティネットのあり方にもなる。