【安保関連法廃止集会】学者の会・三島憲一大阪大名誉教授「誰も住んでいない小さな島を尖閣、尖閣と騒ぐのは非現実的」

2015.12.7 00:23   産経ニュース

 【三島憲一氏】(安全保障関連法に反対する学者の会、大阪大名誉教授)

 「本日参加された市民の方に強い連帯と深い敬意を表明したい。9月19日未明、安全保障法制と称する軍事優先、戦争準備法案が降りしきる雨の中、国会を取り巻く多くの市民の声を全く聞こうとせずに通過してから2カ月半がたった。この2カ月半、あの人とそのお仲間たちは目くらまし戦略にふけっている。1億総活躍、国民総生産600兆円のシャボン玉を打ち上げ、自分が何も分からないくせにノーベル賞受賞者に人前で電話をかけ、パリでオランド大統領に抱きつき、そうしたパフォーマンスに隠れて…(ここで会場近くで街宣車の音量が大きくなる)大きな声を出します」

 「そういうパフォーマンスの陰に隠れて憲法を無視して国会さえ開催しない。アメリカやヨーロッパ諸国と民主主義的価値を共有すると心のこもらない定型句が聞こえてくるが、本当にデモクラシーを共有するなら、ニュース番組のキャスターを裏で脅したりせずに、批判を受けて立つべきだ。穴に籠もっているか海外に逃走するか。軍隊が好きな割には卑怯(ひきょう)だ。ところが残念ながら各種メディアの調査をみると、霧隠才蔵ならぬシャボン玉隠れ晋三は成果をあげているようだ。あの人の支持率は回復しているようだ。しかし、皆さん、そんなことで、特にああいう声(会場近くの街宣車)に諦めるわけにはいかない」

 「9月に国会前で聞いたシールズのすばらしい演説の一説を忘れない。この法案が通ってしまったら衆院と参院を大掃除しよう、という文章だった。しかし、次の選挙まで10カ月は結構長い。内外の事件で注意が散漫になりそうだ。この外もうるさい。しかし、長いからこそチャンスもある。この法案の問題点を訴え続けよう。目下のところ、日本のあり方について2つの大きな考え方が競いあっている。1つは現実主義者だ。彼らは日本を取り巻く安全保障環境が厳しくなっているとオウム返しのように繰り返している。憲法だけ守っていたら日本が危ないと平気で憲法を無視する。法的安定性など関係ないと言った首相補佐官は本音を語ったわけだ」

 「彼らには中国がとてつもない脅威のようだ。長いこと見下してきた中国が経済力で日本をはるかに上回っている現実を認めたくないようだ。アメリカの力を借りて押さえ込みたいようだ。しかし、現実問題として、そんなことが可能だろうか。現実主義者が本当に現実をみつめるなら、中国の巨大な現実をみつめて、かつ日本が中国で行った戦争の過去の現実をみつめるべきではないか。福島の肥沃(ひよく)な領土を原発で失っても、誰も住んでいない小さな島を、尖閣、尖閣と騒ぐのも非現実だ。ここ数十年、あそこで本当に現実的に石油掘削ができると思っているのだろうか」

 「もう一つの考え方は、日本国憲法である程度実現している基本的な価値や規範を重視するものだ。言論の自由が保障される基本権もそうだし、何よりも殺し殺される関係の永遠の連鎖を断ち切ることにした憲法9条を重視するものだ。人によっては、解釈改憲の結果、現実に自衛隊が武力を持っている以上、9条はフィクションにすぎない、フィクションに固執するのは欺瞞(ぎまん)だという。しかし私はそうは思わない。長いこと戦後の歴史の中で、現実主義者と規範主義者のせめぎ合いの中で、このフィクション状態を守ろうという新たな規範ができている」

 「政治は法律の条文だけではない。公共の議論の場での合意に大きく縛られるものだ。私は理想論を言っているのではない。戦後の歴史の現実を言っているのだ。例えば防衛費は国民総生産の1%という枠組みは、こうした新たな規範の中で出てきたものだ。現実主義者こそ、見果てぬ夢を見ている。彼らはアジアのヘゲモニーという大昔の夢を、あり得ない非現実的な夢を、今度はアメリカとくっついて追いかけている」

 「その一方で歴史を検証する会を党内につくり、第二次世界大戦の正当化という、これまた非現実的な夢を語り合っている。そして言論を封じ込める夢も。これらはすべて昭和の妖怪といわれた岸信介の夢だ。昭和の妖怪の孫とそのお友達、平成のゾンビたちも、この夢を語り始め、周りに噛(か)みつき、官僚も政府も経団連もゾンビ化が始まっている。600兆円や総活躍もゾンビの白昼夢だ。今までは世論が怖くて口にしたくても言えなかった日本の行政府の夢が現実主義の名の下に語れるようになった」

 「しかし、こうした政治家ナショナリズム、役人ナショナリズム、ミリタリーナショナリズム、それに核燃料サイクルナショナリズムはもう結構だ。ゾンビの特徴は字が読めないことだ。早大の長谷部(恭男教授)さんが安保法制に反対なことは、新聞や日ごろの発言から誰の目にも明らかだった。その彼に援護射撃を期待して国会に招いたということは、ゾンビたちの誰も新聞一つ読んでいなかった何よりの証拠だ。文字を読まない人は批判を恐れる。しかし、ゾンビには手ごわい特徴がある。ドンドン仲間を増やして、選挙に強いという特徴だ。来年の参院選に向けてバラマキ予算を作りながら、他方で社会保障の減額と、防衛予算の少なくとも2000億円の増加を狙っている。これまでの暗黙の約束を超えた金額になる。戦闘機やオスプレイを買い込まなければ、待機児童ゼロも決して不可能ではない」

 「参院選に向けて歩き出した夢戦略に対抗して、非現実的な夢をつぶす運動を盛り上げていこうではないか。日本の選挙は中間層、それもセンターレフト、リベラルレフトの中間層をひきつけなければ勝てない。自分の会社も伸びてほしい、給料も上がってほしいが、戦争は嫌だ。戦後の日本の価値を守りたい。自分でおいしいものを食べたいが、35%の人が苦しい生活をしているのはまずい。自分さえ良ければいいというわけにはいかない、そう考えているセンターレフトの方々がたくさんいる」

 「戦後日本の基本的価値は自民党ではなくて、自民党に対抗する勢力が守ってきたものだ。それに自民党が妥協して合意が成立していた。これを守ろうではないか。そして民主党もどっちを向いているのか分からない状況はやめて、あの参院での未明の数時間の見事なプロフィルに肉付けをしてほしい。そしてジャーナリズムの方々もびびらないで、われわれの現実主義をもっと報道してください」