政府が導入を検討しはじめた「サマータイム」。来年の新元号への切り替えと合わせてコンピューターシステムへの不安が懸念されていますが、「まったく問題ない」と突っぱねるのは、ITジャーナリストの宮脇睦(みやわき・あつし)さん。宮脇さんは自身の無料メルマガ『マスコミでは言えないこと』で、「最大の障壁は日本人の習性」としてその理由を記しています。
サマータイムを実施すべき理由を考えてみる
政府は東京五輪の開催にあわせて「サマータイム」の導入の検討に入りました。
サマータイムとは季節により大きく異なる日の出日の入りの時刻に、一定期間の時間をずらして揃えることで、日の当たる時間を有効活用しようとするものです。
合理的と言えば合理的ですが、日本人にはピンと来ないものではあります。というのは「日が昇るのが早くなった」や「日が落ちるのが早くなった」と、同じ朝や夕方でも異なる景色を楽しむ、それは四季を楽しむことであり、さらには不便すら面白がる日本人とは正反対にある発想だからです。
ここは深掘りしませんが、塀に囲まれた城塞国家のように、一歩外にでたら危険がいっぱいの海外で育まれた価値観と、夜鷹に襲われるぐらいの日本との違いかも知れません。
さて、サマータイムの導入の議論は、繰り返し現れては消えておりますが、その度に「懸念」されるのが、コンピュータシステムについてです。
果たして対応できるのか、社会は混乱しないか。
ハッキリ言って「アホ」と申し上げます。なぜか? だって私がプログラマーとして社会人になった平成元年から、ずっと議論されていたことだからです。
結論からいえば「大丈夫」。コンピュータシステムを知っていれば、さほど大騒ぎする事ではありません。むしろ、サマータイムを導入する最大の障壁は日本人の習性にあります。
これに触れる前に今回の「サマータイム」についての根本的な問題を指摘しておきます。
東京五輪限定というお題目ながら、上手く行けばそのままなし崩し的に行おうという目論見が透けて見えます。実質、単純労働者の受け入れ拡大という「移民政策」をなし崩しで行う安倍政権の手口もそうですし、サマータイムが繰り返し話題になったのは、経済産業相など官公庁がその野望を秘めているからです。
なぜなら、民間は「フレックスタイム」で十分に対応が可能で、早出残業、シフト勤務も組み合わせれば、「サマータイム」を必要と思う企業はすでに導入しています。だから、東京五輪という、どさくさを利用して導入させ、なし崩し的に継続しようという姿勢は「プレミアムフライデー」という失敗と同じ匂いしかしません。
その東京五輪というどさくさを利用するためのお題目が「アスリートファースト」。東京五輪のマラソンスタート時刻は朝の7時。猛暑が予想される7月、8月の東京で、少しでも涼しい時間にと言うことですが、このところの猛暑で体感したように、朝の7時でも「暑い」。
そこでさらに2時間前倒しして、さらに涼しい朝の5時台のスタートということです。ただ、日の出前後がもっとも涼しいとは言え、熱帯夜を考えると焼け石に水のような気もしますが。
早朝から42.195キロを走らせるのもどないなもんかという気もしますが、そもそも論で、なぜ、この時期でこの時間なのか、あまりメディアは触れません。なぜなら、やぶ蛇になるからです。
東京五輪はもちろん、北京五輪でもそうでしたが、主要競技の決勝が「午前中」に実施されるのは、アメリカ国内のテレビ放送におけるゴールデンタイムにあわせてのことです。莫大な「放映権料」を支払うアメリカの放送局の都合ということ。
また、かつての東京五輪は真夏の猛暑を避けて10月開催でしたが、これまた視聴率を稼げるアメリカのメジャースポーツや、プロサッカーのオフシーズンを避けると7月、8月の開催しかないという台所事情。
いずれにせよアスリートファーストどころかテレビ局ファーストです。このアスリートファーストとは、夜も昼もないブラック企業が、福利厚生としてマッサージ器を設置する程度の話しです。
それでは根本から変えれば良い、とするなら、そもそも五輪の開催地に選ばれません。何かと金銭的な黒い噂の絶えないIOC(国際オリンピック委員会)のご機嫌麗しいことが、五輪開催都市に選ばれる最大の条件なので、こうした銭ゲバ体質への異議申し立ては立候補のとりやめと同義となります。
一方で国内マスコミはこれに正面から異論を唱えることもまた希。たまにコメンテーターが「ぼやく」ぐらいのこと。だって、視聴率第一主義の批判はブーメランどころか、ヒモなしのバンジージャンプのように己を傷つけるからです。
つまり「アスリートファースト」なる言葉は欺瞞であり、官公庁の目論見と、視聴率ファーストの銭ゲバ共の、ゲスな欲望を糊塗する詭弁に過ぎないということです。