春日良一(スポーツコンサルタント)
アマチュアボクシングの都道府県連盟幹部や元選手ら関係者有志333人による「日本ボクシングを再興する会」が、日本ボクシング連盟の不透明な財政運営などを指摘する告発状を日本オリンピック委員会(JOC)などに提出したことをきっかけに、同連盟の山根明会長の独裁的運営が浮き彫りになり、世間を騒がせている。
今回の告発では、日本スポーツ振興センター(JSC)のアスリート助成金の不適切流用や、競技審判の裁定への不当な圧力があったことが指摘されている。告発された山根氏は、流用を認めつつも、ボクシング連盟の発展に尽くした自らの功績に確固たる自信もあってか、当初は辞任を否定する反論をメディアで繰り返し、対立の構図が注目を集めた。
JOCと日本スポーツ協会はボクシング連盟に対し、8月20日までに第三者委員会の設置を要請した。執行部から独立した中立的なメンバーを公表した上で、9月28日までに調査結果と組織運営について、文書による報告を求めている。
この動きに呼応するかのように、8月7日にはボクシング連盟が大阪市内で臨時理事会を開き、今後の対応を協議した。スポーツ庁の鈴木大地長官が「(山根会長は)辞任すべきだ」とコメントしたこともあり、山根氏に対して辞任を迫る動きが広がったが、理事会では進退について会長一任で収めた。ところが、翌日になって山根氏が突如辞任を表明したのである。
この間、ボクシング連盟の「独裁者」として君臨する山根明vs連盟の正常化を目指す「正義」の再興する会という構図が、メディアの格好の材料となった。告発に踏み切った「再興する会」がメディア対応を周到に準備していたこともあり、世間への浸透も瞬く間に広がった。一方で、山根氏も大方の予想を覆し、自ら積極的にさまざまなメディアに露出して対決姿勢を鮮明にしたことで、そのコントラストがより大きな反響を生んだことは間違いない。
だが、一連の騒動を振り返り、かつて日本体育協会(現日本スポーツ協会)とJOCの職員として、傘下の競技団体と付き合った経験を持つ筆者には、少し違った見方をしたい。
1964年の東京五輪に合わせて完成された岸記念体育会館(東京都渋谷区)は、地下3階、地上5階の歴史を感じさせる威風堂々とした建物である。そこにJOC、日本スポーツ協会とともに各競技の統括団体がその事務局を構えており、まさに「アマチュアスポーツの総本山」と言える存在である。
外から見れば立派なオフィスだが、実際に内覧してみれば恐らく多くの人が驚くだろう。JOCや日本スポーツ協会は別にして、多くの競技団体の事務局は机が数台しかなく、そもそも事務員の数も机の台数を下回ることも珍しくない。むろん、潤沢な予算があるわけでもなく、一流企業のように優秀な人材を求めて、毎年職員を雇用するようなこともできない「弱小団体」に過ぎないのである。