採用担当者に「会いたい」と思わせる自己PRを記載したい。写真はイメージ=PIXTA 夏休みシーズン。転職を検討している方は、時間がとれるこの機会に、職務経歴書作成のベースとなる「キャリアの棚卸し」をしておいてはいかがでしょうか。職務経歴書には、経験してきた部署・業務内容・実績などを記しますが、単なる経歴の羅列で終わらせず、「自己PR欄」を設けてプラスアルファのアピール情報を記載するのも一手です。志望企業の採用担当者に「会ってみたい」と思わせる、自己アピールのネタを考えるヒントをお伝えします。
■職歴以外に伝えたい強みや思い
職務経歴書は志望企業の採用担当者と自分をつなぐ重要なコミュニケーションツールです。経歴についてひと通り記載した後、余ったスペースに「自己PR欄」を設けることをお勧めします。
ここには、アピールしたい強みや伝えたい思いを自由に書いて構いません。ただし、ダラダラと書きつらねるのはNGですので、A4用紙の3分の1から4分の1程度のボリュームにまとめるとよいでしょう、
記載したい基本的なものは次の通りです。
●これまでの経験を通じて身に付けたスキル
●仕事をする上で日々心がけていること、こだわっていること
●仕事をする上で今後の目標にしていること、将来のビジョン
●性格面の長所
●(相手がBtoC企業の場合)商品やサービスを利用した感想、自分が関わることでその商品をどう発展させていきたいと考えているか
●(店舗を持つ企業の場合)店舗を見た感想、自分が関わることでどんな店舗運営・展開をしていきたいと考えているか
これらを記すときは、抽象的な表現で終わらせず、なるべく具体的なエピソードを添えることをお勧めします。例えば、
顧客をきめ細かくフォローしていました
↓
週1回は電話かメールでコンタクトを取り、月1回は足を運んでいました。それにより、ニーズが発生したときは競合他社ではなく、真っ先に私に依頼をいただけました
粘り強い性格です
↓
新たな社内ルールを決める際、10の部署からバラバラな意見・要望が寄せられましたが、各部署との折衝、調整を重ね、方針をまとめ上げました
チャレンジ精神が旺盛です
↓
それまで誰も手をつけていなかったマーケットの開拓に挑戦し、100社以上の取引先獲得につなげました
このように、簡潔でも「行動している姿」がイメージできるように書いてください。自己PRに説得力が増し、相手の心に響きやすくなります。
■「こんなこと書いていいの?」がプラス効果に
皆さんが「普通、応募書類にこんなことは書かない」と思っているようなことが、意外と効力を発揮する場合があります。例えば、次のような内容は目に留まりやすく、相手の興味を引くことができます。
●スポーツ関連の経験や記録
例えば、「柔道○段」「スキー○級」などの段位や資格、「全国ジュニア選手権○位」「全国高校選手権○位」「日本選手権○位」「フルマラソン記録○時間○分○秒」など、スポーツでの戦績や記録。これらは、年齢が高い人が学生時代のものを書いても構いません。
現在も趣味レベルで続けているなら、「現在も月○回は~しています」などを書き添えればなおよいでしょう。スポーツに真剣に取り組み、成果を挙げた経験を持つ人は、「ストイックに努力できる人物」「忍耐力がある人物」という印象を与え、プラス評価につながることが多いのです。
また、チームスポーツでの受賞歴も、「チームワーク力」に期待を寄せられます。全国や地区大会の優勝、準優勝、場合によってはベスト8くらいでも、もちろん相手次第ではありますが、面接で話題に上がる可能性がある実績といえます。
●第一印象とはギャップのある趣味
自分の業種・職種、あるいは外見から想像されるキャラクターイメージとは異なる資格・特技があるなら、それを伝えるのもよいでしょう。
実際にあった例として、履歴書の写真では質実剛健風に見えるエンジニアの男性が、履歴書の趣味欄に「お菓子作り」と書いていたことがありました。そのイメージギャップに、人事担当者は「おもしろそうな人だ」と興味をそそられ、面接に招いたのです。
ちょっと変わった資格、検定○級なども書いておくと、人物面で興味を持たれ、「会ってみたい」と面接に呼ばれるかもしれません。
●社外活動の経験
例えば、次のようなものです。
*NPOやボランティアなどソーシャルな活動に関与している
*多様なコミュニティーや各種勉強会(業界・職種・世代・ワーキングマザーなどの属性)に参加している
*地元の子供たちにスポーツを教えている
こうした活動経験を通じ、マネジメント力やリーダーシップ、交渉力、調整力など、ビジネスにも生きるスキルが身に付いていると見なされることもあります。
●「失敗経験」をあえて記すのもOK
自己アピールといえば、通常は「成功体験」を語りますよね。ところが、成功体験よりも失敗や挫折の経験に注目し、それを高く評価する企業もあります。ですから、失敗の経験をあえて記し、それをどう乗り越え、何を学んだかを記すのも一つの手です。
近年は、採用において「レジリエンス」(精神的回復力、抵抗力、耐久力など)を備えた人物を求める傾向が強くなっています。「失敗や挫折を乗り越えた人は強い」という期待が持たれます。
ピンチに直面したり壁にぶつかったりしたとき、どんな努力と工夫で乗り越えたのか。失敗したとき、どのようにそれをリカバーしたのか。そうした経験を経て、何を身につけたかに、企業は関心を寄せています。特に、経営トップが苦難を乗り越えて成功した人物の場合は、共感を得やすいでしょう。
転職して新たな環境に入ると、多かれ少なかれカルチャーショックやギャップを感じるものです。前の会社で身に付いたやり方や常識が通用せず、自信を打ち砕かれてしまうことも。それを受け止め、克服していける人物かどうかを企業は見ているのです。困難に対する「免疫力」や立ち向かう姿勢があるとわかれば、頼もしく感じるはずです。
■形式にとらわれず、ビジュアルの工夫で伝える
体裁にとらわれずビジュアルで相手を納得させる手もある(写真はイメージ=PIXTA) 私はこれまで何万人分もの職務経歴書を見てきましたが、中には「こんな伝え方もあるのか」と感心したものもあります。
通常、経歴や実績はA4フォーマットで、テキストの羅列で記載されます。ところが、ある方が面談時に広げたのは1枚のB4用紙。そこには、手がけたプロジェクトについて、連携した部署や他社などの「相関図」がまとめられていました。プロジェクトの流れや各部署・会社の役割が一目瞭然。全体像を把握するには、確かにA4よりB4サイズの方がわかりやすく、効果的でした。
また、営業職の場合、通常は売り上げ実績などを数字で羅列するのですが、ある方の場合、売り上げ実績の「推移」「前年比」などをグラフ化して見せていました。そのグラフからは、「たまたまラッキーで一時期大きな業績を挙げた」ではなく、「着実に実績を積み上げていった」成長のプロセスが見てとれました。
ある方は、職務経歴書とは別に、ご自身の経歴をパワーポイントで「読みもの」風に仕立てていました。やや分厚くなっていたものの、パラパラとめくっていけるので、読む負担は感じず、自然と「物語」に引き込まれました。
これらは一例ですが、自分の魅力を伝える方法はA4数枚のテキストに限りません。もっと違った見せ方がふさわしいケースもあると思いますので、ぜひ工夫してみてはいかがでしょうか。相手はその内容だけでなく、「発想力」「人に伝える力」を感じ取るに違いありません。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は8月17日の予定です。この連載は3人が交代で執筆します。
森本千賀子 morich代表取締役 兼 All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「のぼりつめる男 課長どまりの男」(サンマーク出版)ほか、著書多数。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。