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オーバーロード:後編 作者:丸山くがね
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日々-1

のんびりした話が数回続きます。

 ジルクニフに紹介された館は正面に大きな本館、その左右にはそれぞれ別館を配し、小さいながらも綺麗な庭園まで備えていた。裏手に回れば木々が茂り、清涼な空気が静けさの中、流れる。

 本当にここが帝都の一級地に建てられた屋敷なのかと思わせるだけの土地面積だ。

 周辺に並ぶ邸宅も大きいものが多いが、それらと比較しても広く、恐らくは1位、2位を争うレベルであろう。

 かつて帝国の大貴族と言われていた人物の保有していた邸宅というのも納得出来る、見事さだった。


 アインズはジルクニフに連れられ、本館の中を案内される。床は埃が一切無いほど磨かれ、窓にはめ込まれた少しばかり濁ったガラスも綺麗に掃除されていた。

 無数にある部屋には立派な家具が置かれ、すぐに生活が出来るように準備が整えられていた。とはいえ、部屋数を考えれば、幾つかの部屋ががらんどうであったのは仕方が無いことだろう。

 置かれた家具はどれも黒や茶色の落ち着いた色のものが多い。煌びやかなもので飾り立てるよりも、 静謐さを前に押し出しているようだった。

 暗い色ばかりに感じられるため、カーテンや絨毯などは派手な色にしようと考える者もいるかもしれないが、アインズはそんなことが浮かばないほど充分に満足していた。

 家具に宿った静けさが、アインズの心をくすぐる。

 アインズは正直派手なものは好みではない。侘び寂びとまではいかないが、日本人的静けさをどちらかと言えば愛する男だ。

 ゲームの世界であれば、そして短い時間の付き合いならば派手なものもまぁ良いだろう。しかし長く使うことを考えると、周囲が金や銀などがふんだんに使用され、輝くものばかりではあまりに落ち着かない。

 アインズは光り物を好むカラスでは無い。

 特に服に宝石を縫いこむというのは、どういう美的意識から来ているかが理解できない。というより何で自分はあんな外装を手に入れようなどと思ったのか。

 ユグドラシル時代の自分の考えは思い出せないが、リオのカーニバルに参加する気の無いアインズは、そんな無数に浮かび上がった愚痴を追い払う。

そして隣に立つ友人に、心からの言葉を告げた。


「素晴らしい館だ」


 そのアインズの第一声を聞き、そしてその裏にはっきりと感じ取れる感情を悟り、横で案内したジルクニフも安堵の笑みを浮かべる。


「お世辞にしても嬉しいよ、アインズ」

「いやいや、お世辞を言っているつもりは無いとも、ジルクニフ」

「そうかね? アインズの住んでいるナザリックを考えてしまうとあまりの貧困さに悲しくなってくるのだが、これが限界と言うことで理解してくれないだろうか?」

「……ジルクニフ。比較すべき対象が間違っているとも。ナザリック大地下墳墓と比べては全てが劣ってしまうじゃないか。あれを例外とすれば、ここは素晴らしい館だ」

「ああ、そうだな。君の住むあの場所と比べる方が愚かだったな」


 友と作り上げたナザリック大地下墳墓が、その辺りの家屋に劣るはずが無い。そんな思いを宿すアインズの言葉ではあるが、神域ともいうべき第9階層などを目の辺りにすればどんな人間でもアインズの言葉は事実だと納得するだろう。

 歴然とした差があるからこそ、アインズは素で答える。

社会人が持つべきお世辞やおべっかなどの言葉は当然どこかに忘れていた。

 そしてそんな答えを投げかけられた、ジルクニフに怒りは当然生まれてこない。


 皇帝として、皇太子として、特別な生き方をするために生まれてきた男として、ジルクニフは最高のもので囲まれてきた。

最高の家具、最高の芸術、最高の衣服、そして最高の異性。

そうやって審美眼が鍛えられてきたからこそ、ナザリックの素晴らしさが下手すればアインズよりも理解できる。

 だからこそアインズの答えは極当たり前にしか思えなかったのだ。


 両者がナザリックの素晴らしさという点で同じ結論に達した頃、アインズはボソリと呟く。


「ただ少しばかり広すぎるな」

「広すぎるかね?」


 アインズはジルクニフの質問に大きく頷く。

 アインズの頭に浮かんだ帝都に連れて来る予定の者と比較すると、部屋数の方があまりに多い。空室が大量に出る程だ。

 かといって空室を満たすため予定の幅を広げて、連れて来る数を増やした場合、それもまた問題が生じる。

 何故ならアインズは帝国の、そして帝都の治安などの状況を詳しく知らない。そんな危険があってしかるべき場所に、己の身を守ることの出来なさそうなレベルの低い者を同行させるのは主人として愚かな行為だ。

 では空室をそのままにすれば良いかと考えると、すこしばかり勿体無い気もする。

 そこまで考えたアインズはジルクニフに問いかけた。


「……一つ聞きたいのだが、どれぐらいまでのものならつれてきても良い?」

「……それは……そういうことか」


 ジルクニフの顔に理解が浮かんだ。

 アインズの言う「どれぐらい」というのが、どれぐらい人から離れたもので良いかという意味だと。


「パレードにはデス・ナイトを連れて出たから、あの程度は問題ないかな?」


 それを聞いたジルクニフが苦笑いを浮かべる。


「出来ればやめて欲しいと言うのが本音だな。一応この辺りは貴族達の住居が立ち並ぶ区画でね。アインズが変なことはしないと言うのは承知しているんだが、それでも他の貴族達が警戒して重武装の者達が行き交うようなことになっては欲しくない」

「……デス・ナイトぐらいならば門番代わりにちょうど良いかと思うが?」

「確かにあれが門の前に立つだけで充分な警備になるだろうな」


 あの圧倒的迫力ならば、とジルクニフは小声で呟く。


「その通りだ。しかもアンデッドである奴らであれば、どれだけ働かせてもまるで問題は無い。素晴らしいと思わないかね?」

「……疲労しない、休まない兵は確かに魅力的だが……私は人間の方が良いよ。何が起こるかわからない心配をこれ以上抱え込みたくは無い。それにアンデッドはあまり良い顔をされないからね」


 アンデッドは基本的には生者に敵対する邪悪な存在であり、神官たちが最も毛嫌いする相手だ。そういうものが帝都内で堂々と立っているというのは色々な意味で不味い。

 アインズもその辺りは頷けるが、パレードで歩かせたように顔を隠せば誤魔化せるのではないかという思いが、素直に納得させてくれない。

 しかし、帝都の主人が嫌がるならば、お客さんとして納得せざるを得ないという理解はある。


「そうかね? それは……まぁ仕方が無いな。非常に残念だが、出来る限り人間からかけ離れた者を連れてくるのはよそう。そうなると警備兵だが……」


 アインズは代案を考える。

 警備兵を置かないというのも手の一つだが、それでは舐められる可能性だってある。結局のところ、警備兵を置くと言うのは抑止の手段であり、その家の権力を知らしめる目的だ。ならばある程度の者を配置したいところだが……NPCたちを置くのはどうも気が引ける。ナザリックとはここでは重要性がまるで違うのだから。

 しかしNPCを除くと、人の外見を持つ部下が少ない。デミウルゴスの配下にいる魔将といわれる悪魔たちの中に人間に近い外見の者がいたなぁとか思い出すが、どうも門番に相応しい格好ではなかった。シャルティアのヴァンパイアも却下だろう。

 そこではたと思い出す。亜人ならどうだろうと。


「リザードマンとかは?」

「……出来ればやめて欲しいものだ。リザードマンなどは滅多に見たことが無いな。王国の北方、評議国付近であれば都市でも見るそうだが……」

「そうか……」


 行けると思ったアイデアが即座に却下され、僅かにアインズはしょんぼりした。


「……ふむ……こうやって考えると、やはり人間に近い者が少ないな」

「少ないのか……君の居城には」


 ジルクニフの疲れたような呟きを無視し思案したアインズは、これ以上脳を回転させるのは煙が上がるという結論に達する。アインズのある程度の支配者生活でよく理解したことは、面倒ごとは上手く押し付けるべしということ。

 アインズの脳内にちょうど良く浮かんだのは一人の男だった。


「……ならばまずは警備の兵はレイ将軍にお願いして、その関係から力を借りるとしよう」

「それは非常に素晴らしい考えだよ、アインズ。先ほどの君のアイデアも素晴らしかったが、流石に帝都にモンスターを配置されるとね。勿論、私に頼んでくれても構わないが?」

「いや、館まで準備をしてくれた君にこれ以上の迷惑はかけたくはないな」

「……私のことを考えてくれて、嬉しいよ。まぁ、気が変わったらいつでも言ってくれ。君の頼みなら最優先で叶えさせてもらうよ」

「それはありがたい、ジルクニフ。さて、外の問題は片がついたとして、次は中のことだな。館の管理などに人間以外の者を使用しても問題は無いかな? 外に出さなければ良いわけだし」


 館の管理には清掃など無数に行うべき事柄がある。 

 アインズ自身は別に汚くても気にしないが、客を招いた場合のことも考えてしかるべきだ。

 アインズはぼろが出るという意味で他の貴族とは会いたくは無いが、それでも会談を持たざるをえない場合が生じてもおかしくは無いと覚悟はしている。

その際に汚い部屋を見られては、アインズ・ウール・ゴウンの恥だ。

 では館の管理に手が行き届くかと思考すると、不安が強く残る。

 まずナザリックのメイドたちを連れてくるという考えだが、先ほどの理由――帝国の詳しい状況などを知らない状態で一般メイドを連れてくるのは不安が大きい。

 それに元々ナザリック大地下墳墓内のメイドの数は非常に少ない。

41人の一般メイド、6人の戦闘メイド、それにメイド長。ここに連れて来ることでナザリックに手が回らなくなったら、そちらの方が馬鹿だ。

 ちなみにここより広いナザリックの第9、10階層の清掃は一般メイドたちとそれに従うゴーレムなどが行っている。その他としてスライム系のモンスターが使われる場合も多い。

 そういったゴーレムやスライムなどの者たちを連れてくるべきだろうか。

それとも折角だから人間だけで管理できるように努力すべきか。

 アインズは考え込み――そんな迷いを感じ取ったのだろう。ジルクニフが口を開いた。


「ならば私が声をかけて、メイドを集めるとしよう」

「君が?」

「単なるメイドならば簡単に集められるが、辺境侯の館ともなればしっかりとした者を集める必要があるだろ。普通であれば友好関係のある貴族のコネを使うものなのだが……残念ながらアインズにはその辺りが無いだろ? フールーダもその辺のコネは無いはずだ。だから代わりに私が貴族達に口をきいてみよう」

「そうか……ではよろしく頼むよ」


 ナザリックであればまるで関係の無い人間達が入り込むということに嫌悪を示しただろうが、そこまでの思い入れの無い場所であればと、アインズは軽く答えた。


「そうなると、君が紹介してくれるメイドたちの住む場所はどこにした方が良いと思う? それなりのメイドなんだろ?」

「そうだな。普通であれば一階などの部屋を宛がうのが普通だが、この館は居住性を最大限考えられた造りだからな。別館の方が生活する場としては格が落ちるから、あちらに用意してくれれば良いさ。それと貴族に声をかけてみるだけだからなんとも言えないが……」


 ジルクニフはニヤリと笑う。いままでアインズが見たことも無いような笑い方だ。


「綺麗どころが集まると思うよ」

「ほう。ナザリックのメイドたちのようにかね?」

「……すまない。それは比較する対象が悪い。訂正して、そこそこ綺麗どころが集まってくるよ、だな」

「綺麗どころか……。確かに見た目もある程度は必要だな」


 未婚の美女が1人いると、男の働きが目に見えて変わるのは会社ではよくあることだ。そんなことをぼんやりと思っていたアインズは続く言葉の意味が一瞬だけ理解できなかった。


「……女性には興味は無いのかね?」

「? なんで女性への興味の話になる?」

「いや……興味がなさそうだから……?」

「メイドの話だからとはいえ……」


 歯切れの悪いジルクニフにアインズは頭を傾げる。

 ジルクニフという男からすると、あまりにも変な態度だ。

 そう考え、唐突に頭に電球が灯る。かつての仲間の一人である、ペロロンチーノのエロゲー講座によくあったシーンが脳内を駆け巡ったために。


「……あぁ、そういうことか。そうだな、女に関する興味はさほど無いな」


 この体が口惜しい。

 アインズは冗談半分そんなことを思う。実際、性欲があれば冗談ではなかっただろうが、その辺が殆ど抜け落ちている現状では、異性を性欲の対象としてみることは殆ど無い。

 常時賢者状態100レベルである。


「そうか。……ふむ、なるほど。ちなみに男性には?」

「……勘弁してくれ」

「そうだろうな。いやすまないな、ちょっとした好奇心だとも。では……とりあえず、仕事を見事にこなせる者を優先させよう」

「そうだな。そちらの方が良いな。綺麗どころはナザリックから連れてくれば事足りるだろう」


 なんとなくだが、ジルクニフの言葉には別の意図もあったような気もしたが、アインズではそこまでを見抜くことは出来ない。微かな困惑を抱くアインズに、それを忘れさせるようにジルクニフは話しかける。


「では次は別館を案内しよう。その次は庭園かな」





 様々な荷物がナザリックより運ばれ、館内に置かれていく。

 基本的な調度品はそのままジルクニフが準備してくれたものを使う予定だが、館の生活環境を良くする為、そして一部の部屋の調度品はより良いものへと交換するための作業だ。

 そのほかに館に魔法的防御を施したり、外部からの侵入者対策を準備したりと、ナザリックより連れてこられた数多くのシモベたちが忙しく働いている。

 そんな騒ぎの中、アインズは館の中を歩く。隣にはセバスが控え、現在の進行している引越し作業の簡単な説明を行う。

 とはいえ大抵の説明に対し、アインズは鷹揚に頷くだけだ。別に部屋の使用目的や誰が使うかなど対して興味もないし、なにか問題が生じるとも思っていない。ただセバスが説明してくるから聞いているだけだ。

 やがて初めてアインズの興味を引く話題が出てくる。


「以上で、部屋の割り当ては終わりです。あとは右の別館の方になりますが、あちらはナザリック以外の者たちにあてがう予定です」


 アインズは顔だけ動かし、セバスを見つめる。

 その反応にセバスの顔もより引き締まる。


「そうか。生活環境はしっかりと整えてやれ。辺境侯は下々の者にも優しいと言うところを見せる必要があるし、辺境侯という地位に相応しいだけの財力を見せる必要がある」

「おっしゃられるとおりです。上に立つものはそれなりの物を見せ付けなければなりません」


 だからといってあの格好はどうなんだろう。

 アインズはそう思うが口には出さない。ただ、一応念は押しておく。

 ナザリックには膨大な金銭が眠っているが、それを無駄に使う気はない。あれは仲間達と集めたものであり、使うならナザリック大地下墳墓の強化などをメインとすべきだ。


「無駄に金をかける必要は無いぞ? まだ税収とかそういったものがまるで無い、土地無き貴族なんだからな」


 いまアインズが持っている金は大半がジルクニフから取り敢えずということで与えられた支度金だ。勿論、欲しいならもっと出すから言ってくれとは言われているが、だからといってそれに甘えるほどアインズははしたなくは無い。


「承知しております。アインズ様よりお預かりしております費用の範囲内で、品物を揃えさせていただきたいと考えております。ただ、人数によっては調度品の数が足りなくなる可能性がありますが、その場合は帝都内で購入いたしましょうか?」

「……アウラが開拓した避難所に、木が余っていたはずだ。それを使って生産しろ。作るための外装は図書室にあったはずだ」

「では鍛冶長に任せて作り出させます」

「そうだな。それとそれ以外の素材は宝物殿に投げ込んである。パンドラズ・アクターに協力を仰ぎ、そこから持ち出してかまわん」

「畏まりました」

「それでメイドたちは何人ほど連れてくるんだ?」

「はい。一先ずはナーベラル、ルプスレギナ、ソリュシャンを同行させました。遅れてですが、ユリ、シズ、エントマを連れてくる予定です」

「お前直下のメイドたち全員ということだな。ナザリックの方に問題は生じないか?」

「問題はございません、アインズ様。現在のナザリック第9階層、及び第10階層はペストーニャの管理下、なんら問題は生じておりません。私が王国に向かった際に、仕事を一部委譲しておりましたが、その経験が生きているものかと」

「なるほど……問題がないというならば構わない。ただ、それで連れてきたメイドの数を考えれば少々この館は広い。だからといって無理をさせないように働かせろ。ジルクニフがメイドを連れてきてくれるまで、その少ない人数で上手く活用して欲しい」

「はい、そのことで一つご提案が」

「なんだ?」 

「私が王都で拾ってきた娘達のことですが、あの者たちはこれまでナザリックのメイドとして働かせておりました。今回こちらで働かせようかと考えております」


 一瞬だけアインズの頭に『1人寝が寂しいからか』という言葉が浮かんだが、それは言っては不味いだろうと飲み込んだ。


「……上手く行くのか? ジルクニフが連れて来るメイドたちは恐らくは優秀な者たちばかり。そんなメイドたちと比べて劣っていた場合が問題だ。ナザリックはその程度のメイドが働ける場所だと見なされないか?」

「問題ないかと思います。彼女達にはしっかりと教え込みました。その辺りはペストーニャの保証つきです」

「ほう……」

「それに人間のメイドを連れていたほうが何かと良いと思いました」


 アインズは黙って考え込む。セバスの言うことも道理だと。

 人間以外のものばかりで構成された場合、人間の行動が理解できずに変なミスを犯す可能性だってある。


「確かにメイドの数が少ないと思われるのも業腹だな。よかろう、つれて来い」

「ありがとうございます」

「それで警備に関してだが――」


 アインズにとっての心配はそこだ。

 レイ将軍から兵を借りる予定にはなっているが、アインズはそれをあまり信頼していない。弱すぎるだろうと予測できるからだ。そのため見せ物として役立て、内密にナザリックからの警護部隊も配置させるつもりである。

 帝国の確固たる地位についたアインズに直接的な敵対行動をしてくる存在は無いと思いたいが、実際に無いとは言い切れない。そして帝国、王国の表の見える範囲内にはプレイヤーがいないことは確定だろうが、見えない所にはいる可能性だって皆無ではない。

 そして何より法国の問題がある。フールーダから得た情報をアインズなりに分析した結果、想像される最悪の答え。


「――あそこにはプレイヤーの匂いがある……」

「プレイヤーですか?」

「……いや、何でもない。聞かなかったことにしろ。それより警護のことが聞きたい。どうなっている?」

「はい。庭園にはアースワームを放ち、地中よりの監視を行わせる予定です」


 アースワームはその名の通り、大地の長虫――ミミズを巨大にさせたような外見の、毒々しい色をしたモンスターだ。それだけで判断すればさして恐ろしくはないように思えるが、実際は大地から現れて人を丸飲みにする肉食ミミズであり、酸の体液を射出し、ドルイドの魔法を幾つか使用する、というやっかいなモンスターでそのレベルは60を超える。単純なレベルで比較するなら、戦闘メイドよりも強いモンスターだ。


「それに屋根などにガーゴイル、家屋内にナイト・ゴーレムとシャドウデーモンを配置する予定です」

「そんなところか。それでアースワームだが、レイの貸してくれる騎士を襲ったりはしないだろうな?」


 今のところナザリック内で命令無く、同じ陣営の者を攻撃したと言う報告は上がっていない。リザードマンやヒドラが安全に暮らしているように。しかし本当に大丈夫かと問われれば疑問が残る。特に知性がなさそうなモンスターが相手だと。


「問題はないかと。念を入れて蠱毒の大穴に入れて寄生させましたので、完全に支配下に入っていると思われます」

「……そうか。あそこに入れたのか……なら大丈夫か」

「そしてアインズ様のお部屋に代表される幾つかの部屋には防護の準備を整えております。さらに脱出路の準備を複数用意いたします」

「脱出路の準備は非常に重要だ。転移以外の手段は当然あるのだろうな?」

「もちろんでございます。現在穴を掘っている最中です」

「よろしい。それだけ聞ければ十分だ。取り敢えずはそのままセバスの指揮下で、お前が必要だと思われる工事を行え」

「承知いたしました」

「では私は準備が整うまで、ナザリックの自室で待機するとしよう。なにかあった場合は即座に報告せよ」

「承りました」


 頭を下げたセバスを横目に、アインズは転移魔法を発動させナザリックへと帰還する。フールーダと相談した上で、スレイン法国への対応を考える必要があると思いながら。

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