女性の容姿への「残酷な心理実験」の結果が示す社会のひずみ

日本人の脳にせまる⑦

外見が良くて得なのは女より男…?

女性は世界の人口の約50%を占め、世界の総労働時間の3分の2近く働いているが、手にするのは世界総収入のわずか10分の1であり、世界の総資産の1%以下しか所有していない、という。ハンフリー公共問題研究所の報告である。

とはいえ、「女の魅力」があることで美しい女性はより得をしている、と考える人も多いかもしれない。「美人はそうでない人よりも生涯年収が何千万も高い」と見積もった人もいる。

実際のところはどうなのだろうか?

性的魅力を持っていることと仕事上の評価や成功との関係は、そうクリアカットには決まらない。複数の研究が、「女性では容姿の良さがマイナスに働き、美人は平均的な女性よりも損をしてしまうことがある」としている。

外見が良いことで性的類型化が起こりやすくなる。このことは男性では有利に働く。外見の良い男性では性的類型化が起これば「男性的」に見られる、すなわち、力強く、職務遂行能力が高く、決断力がある、などとみなされるので、仕事上の評価には外見の良さが有利に働く。

一方、女性はそうではない。「女性的」であることは少なからず消極的であり、堂々としておらず、意欲や決断力にかけ、セクシーすぎる、と偏見を持たれてしまう。あるいは、そうであるべきだと暗黙の圧力が、異性からばかりでなく同性からも加えられる。

そのステレオタイプに当てはまらない、容姿に優れた女性がいたとすると、周りから「性格が悪い」だの「結婚しない」だの「子どもをつくらない」だのと攻撃され、いつの間にかステレオタイプ的にふるまうように社会が彼女を「洗脳」していくのだ。

 

「美人はほかの人よりも、人間ではなく記号やモノとして扱われる傾向が強くなってしまう。すると、人間ならば保持しているはずの能力に劣ると思われてしまうために、部下や一兵卒としては良くても、管理職やビジネスパートナーとしては適任であるとみなされにくくなってしまう」とする調査結果がある。

1979年にコロンビア大学ビジネススクールのヘイルマンとサルワタリが行った調査がそれだ。外見の良さは女性が高給の事務職で雇用される場合には有利に働くが、管理職として雇用される場合には不利になる、と報告されている。

またこれに続く研究では、「美しい女性はコミュニケーション能力が必要とされる職種では高く評価されるが、それ以外の場、例えば決断力を必要とし、強いプレッシャーが掛かっている中、高い指導力を発揮して難局を切り抜けていくといった場面では低評価となる」ということが明らかになった。

ヘイルマンとサルワタリは、「残念ながら、女性が組織のコアメンバーとして出世していくためには、できるだけ自分を『女性としての魅力に乏しく』『男性的に』見せかける必要がある」と述べている。無論、自分の女らしさを捨てることが組織で出世していくための必要条件になるなど、あってはならないことなのだが、という補足つきではあったが、実際には彼らの研究から40年近く経過した今でも、状況はほとんど変わっていないのではないか。