半分こできるからパピコが良いんじゃなくて、
半分こする相手がいるからパピコが良いんです。
そんな大切なことに気づけた、平成最後の夏です。
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いつも仕事に忙殺されてる彼氏が、有給取って花火大会に誘ってくれた。うれしかった。「久々のちゃんとしたデートだ♪」って思った。
彼氏、友達にウソみたいに花火が一望できる特等席教えてもらったんだって車走らせてたけど、
どんどん車は山の中に入っていって、運転中「あれ、おっかしいなぁ…」とかつぶやいて、まあ早い話思いっきり道に迷って、
やっとこさ山道を抜けると、ポプラが一軒あったけど花火大会の気配は全然ない。時計を見れば、開始時刻をとっくに回ってた。
花火を楽しみにしてた高揚感はすっかり冷めちゃって、いい歳して張り切って着た浴衣は窮屈だし、車のエアコンの効きが悪くてお化粧は崩れるしで、私は小さな駄々っ子みたいにわかりやすく不機嫌になって、「ごめん」って申し訳なさそうに謝る彼に対し、とくに何も返さなくて、「なんか冷たい物でも買ってくるね」っていう彼のやさしさも無言で突っぱねてしまった。
ポプラで買い物する彼。助手席に座ったままの、「つい感情的になってしまった自分」を嫌う自分。
せっかくのお休み、こんなふうに過ごしたかったわけじゃなくて、「ふたりであんなふうに過ごしたいな♪」っていう理想みたいなものがちゃんとあって、でもなんでか私の感情はその理想に届いてはくれない。
些細なミスや感情のすれ違いで、私の気持ちはどうしようもなく曇ってしまう。そんな”穢れた醜い私”が不意に顔を出す。それがただただ歯がゆくて、悔しくて、そしてひどく恥ずかしかった。
「なんか廃れたコンビニでさ、ゆきが好きそうなの、これしかなかった」って言いながら半分こしたパピコを差し出してきたけど、私はまだ感情の適切な置き場所を見つけられずにいて、だから無言でフロントガラスが切り取った景色にじっと目を向けていた。
そんな私の態度に呆れたのか、いよいよ彼も喋るのやめちゃって、私は私でいまさら話し出すわけにもいかなくて、車内は沈鬱の底に落ちていった。
効きが悪いエアコンも音だけは立派で、外では忙しなく蝉が鳴く。
そんな”何もかも”を遮断するように、私はうつむいた。「彼に伝えなきゃいけない言葉」を心で知りながら、でも素知らぬふりをして下を向いた。
「あ…!」と彼が言った。顔を上げて前を見る。
花火だった。
コンビニ近くの公園で、見ず知らずの誰かが打ち上げる市販の花火が見えた。咲いてはすぐに消えゆく不格好で粗雑な光だったけれど、空気も大地も全然震えない安っぽい光だったけれど、それは確かに花火だった。
「あ、花火…」と思わずこぼす私。「うん、花火」と彼が言う。
「うん、花火」と言葉を重ねる私。「花火だね」と彼がつぶやく。
さっきまでふたりの間にあった、固く固く結ばれた緊張感のようなものが、緩やかに解きほぐされていくのを肌で感じた。私が彼を見ると、彼も私を見ていて、視線がぶつかって、少しだけ笑った。
「はい、少し溶けちゃったけど」と彼が再度私にパピコを差し出してきたのをきっかけに、お互い言葉があふれた。
「はい、少し溶けちゃったけど」「うん…ありがと」「おいしいよね、これ」「パピコ好きだけど、チョココーヒーよりホワイトサワーの方が好きなんだ、私」「そっか、ごめん…」「あ…ううん、いいんだ。これも全然嫌いじゃないし」「そっか」「うん」「おいしいね」「うん、おいしい」「あの、じゃあさ…」「なに?」「じゃあ、今度はホワイトサワー買うね、ぜったい」「…今度?」「うん、今度」「今度って?」「今度は今度!今度の花火大会の時」「そっか、今度か♡」「うん、今度♪」「楽しみだな~、いつかの”今度”♡」「うん、楽しみにしてて!」「あのさ…」「ん?なに、ゆき?」「あの…なんか…ごめんなさい…でした」「いいよ全然。俺も”ごめんなさい”だからw」「うん♡」「うん♪」
っていう夏を、平成最後にください神様!!!!!
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