第5回 ディープラーニングで一変するCGの世界

「顔の研究」という一つのテーマを入口にして、アニメなどのコンテンツ制作支援についてまで話が広がった。最初にも述べたように、森島さんの研究は別に「顔」に限定されるわけではなく、むしろ、「画像情報処理を通して、人を幸せにする」というモチベーションに支えられている。

 そして、もう一点、特筆すべきなのは、これらの研究のほとんどが、森島研の学生さんによるものだということだ。森島さん自身、黒子に徹することが多いし、研究に専念する博士研究員(ポスドク)もあまり置かない。あくまで学生を訓練し、国際的な研究の舞台に立たせることに注力し、研究成果も出すというスタイルを貫いている。

 これまで聞いてきた事例の中でも、森島さん自身が「駆け出し」だった時代のものを除けば、ほとんど、研究室の学生が、筆頭著者に立って論文を書いた成果ばかりなのである。

 なぜかと聞くと、非常に示唆に富む回答が返ってきた。

早稲田大学の森島繁生教授。当然、教授は研究者であると同時に教育者でもある。
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「僕らもそうなんですけど、日本の閉じた社会の中にいると、結局そこの中でグルグル回ってるだけで、世界になかなか飛び出していこうとしないじゃないですか。今の世界では、すごい優秀な人たちがあちこち飛び回りながらいろんなチャンスを得ているわけです。うちの学生も、アドビのインターンとかに行くんですけど、そこに来ているアジア系って大半が中国人で、若干韓国の人がいて、日本人は彼だけみたいな、そういう状況が常にあって。世界的な視野では、日本の教育、経済、社会の状況はかなりよろしくないのに、すごく狭いとこで完結しちゃうのはまずいですよね。そこで、国際的な視野を持って活躍できる卒業生を送り出すというのが大きな課題なんです」

 大学が、研究機関であると同時に教育機関である以上、この発想はとても自然だ。とはいえ、すべての研究室がこんなふうだというわけではない。おそらく、森島さん自身の強い信念、あるいは背景にある考え方の方向性が強く作用しているのだろう。