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ー住まいづくりはおもしろいー

大人も楽しめる夏休み自由研究その2:東京都台東区上野公園の国立西洋美術館の建築ツアー

 

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 2016年世界遺産に登録された国立西洋美術館では毎週日曜日と第2水曜日、第4水曜日に建築ツアーを開催しています。ル・コルビュジェの建築作品の中を探訪できるツアーに参加してみませんか? 

 

上野駅を降りると目の前にどーんと「ジャイアントパンダの観覧方法を『列に並んだ順にご案内』に変更します」という大きな立て看板が目に入ります。上野の人気ナンバーワンはやはり上野動物園ですね。

でも、今回は動物園の手前にある国立西洋美術館が行き先です。上野駅から右手の方に曲がってすぐの国立西洋美術館。

夏休みの自由研究で悩む前に、おススメ建築ツアーへのご参加いかがでしょう

国立西洋美術館はこんなところ

国立西洋美術館は「戦争で没収した美術品を返すから、飾れるようにちゃんと美術館作ってね」というムチャぶりの要求に応えるべく出来た美術館です。

川崎造船所の社長だった松方幸次郎が、ヨーロッパで収集した西洋美術作品を、第二次世界大戦後にフランス政府が没収。この「松方コレクション」をフランスから寄贈返還するための条件の一つが

「『松方コレクション』を収蔵する新しい美術館を建設」

ということで造られました。

日本政府が、このムチャぶり美術館の建築家として選んだのが、「ル・コルビュジェの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」で世界遺産に登録されたル・コルビュジェでした

 ル・コルビュジェはこんな人

誤解しがちですが、ル・コルビュジェ(本名シャルル=エドゥアール・シャンヌレ=グレ)はフランス人ではなく、スイス人です。スイスの10スイスフラン紙幣にも丸メガネの肖像画がしっかり使われています。

父親が時計職人で、時計製造で知られたスイスのラ・ショー=ド=ファン出身です。

ラ・ショー=ド=フォンはフランスとの境の街。スイスの首都ベルンから東に70キロほど行ったところにあります。70キロって、東京から小田原くらいの距離ですね

時計博物館でも世界的に知られたラ・ショー=ド=フォンですが、小さな時計工場がたくさんあります。時計工場で働いている人も多いので、スイスの小さな町としては、多国籍の方が住んでいる印象でした。街中には、ル・コルビュジェが建てた建築も多数あって、駅前の地図に印がついています。街の英雄って感じですね

ちなみに、時計博物館は夏場のハイシーズン以外、閉じていることも多いので、事前チェックが必要です。ボクは以前、秋に寄って地元のマダムから

「あらぁ・・・閉まっているのに、来たの?はるばる遠い国から」

って気の毒がられました

ル・コルビュジェは「近代建築の三巨匠」の建築家の一人として知られています。他の二人はフランク・ロイド・ライトと三―ス・ファン・デル・ローエです。

ちなみに、ライトはご存じ旧帝国ホテルの建築家、三―スは"Less is more."のフレーズを作った方です。 

さて、ル・コルビュジェは実はちょっと食わせ者ではありますが、そっちのお話はまた今後あらためて。いろいろトンデモナイ事件を起こした輩なので、書くのが楽しみです。

とんでもない奴といえば、ライトもそうでした。ああ、そっちもまたいずれ。建築家ってホントいろいろな人がいますよね

でも、今回は「夏休みの自由研究向け」なので、お子様の勉強に役立つ情報だけをお届けしたいと思います

国立西洋美術館の行き方と「建築ツアー」予約方法・注意点

国立西洋美術館は上野駅からすぐです。とても行きやすいです。ご利用案内をチェックされてからいらっしゃることをおススメします

  • 場所:東京都台東区上野公園7番7号
  • tel:03-5777-8600
  • 開館時間:9:30-17:30 (休館日は休日以外の月曜日、年末年始)入館は閉館の30分前まで。一部の金曜・土曜は20:00ないし21:00まで開館
  • 入館料:常設展は大人500円、大学生250円(何度でも入館可能)
  • 建築ツアー:毎週日曜と第2・4水曜の15時から、約1時間。常設展の入館料だけで参加費は無料です(ツアーの2週間前からウエブ経由で申し込めます)

建築ツアーはウエブサイトから事前に申し込んで参加します。一回あたり20名。参加可能な年齢は10才以上です。小学校高学年のお子様には自由研究のネタとして使えること間違いなしです

実際、しろくま奥さまとボクが参加した時は、小学生とお母様、お父様も何名かいらっしゃっいました。お子様方は、ちゃんとノートにメモされて、自由研究のための準備万端でした。なんて用意がいい、おりこうさん達なんでしょう!

建築ツアーはウエブサイトから予約しますが、夏休み中はとくに結構人気ですぐいっぱいになることもあります。早めの予約が良さそうですね

建築ツアーにはペンを持っていかれないので、小学生の皆さまが参加される時は、ノートと鉛筆かシャープペンを是非持参されることをおススメします。でも忘れても大丈夫。当日、ゴルフ場でスコア付ける時に使うようなこぶりの鉛筆もどきを貸してくださいます。

また、ツアー参加中は、ツアーとはぐれてしまうので、基本的に写真はとれないです。ツアー前後であれば(一部、カメラがダメマークがついている美術所蔵品はありますが)自由に写真は撮れるので、その折に撮るといいですね

ボクらは事前に「美術館の建物」のサイトで資料をチェックしておいたので、見どころを建築ツアー前に撮っておきました。この「美術館の建物」の説明はとても詳しくて自由研究にも役立ちます。当日、この資料(A4カラー資料を4枚組み合わせたA3のパンフレット)は配布されますし、館内のラックでもゲットできます

サイトの説明に一か所だけ「ル・コルビュジェがフランス人」とあるのが間違いなので、ご注意を。建築ツアーのボランティアガイドさんもお話されていましたが、正真正銘、ル・コルビュジェは間違いなくスイス人です。サイトでも「スイスで生まれて」と書いてあります

国立西洋美術館・建築ツアーの集合場所

当日、15時10分前くらいにサイトにも掲載されている集合場所に集まります。インフォメーションカウンターから横に進むとロッカーが並んでいて、その奥にテーブルが出ています。緑色のベストをつけた方々が、説明してくださるボランティアのガイドの方々です。ベストを付けた方にお声がけするとお名前をチェックしてくださいます。

こういうガイドをボランティアでされている方々には本当に頭が下がります。今回は20人の参加者を二つのグループに分けてから出発しました

ガイドツアーで使うトランシーバーみたいなガジェットを渡されるので、これさえあれば、混みあっている館内でもガイドの方の説明を聞き逃すことがなくて心丈夫です

事前に美術館の入口のチケット売り場で常設展のチケットを買う必要があるので、早めにチケットを入手した方が無難です。特別展によってはチケット売り場が長蛇の列の時があるので。

国立西洋美術館と提携している大学の関係者は学生証や教職員証をチケット売り場に提示すれば無料で入れます

ツアーは配布されるパンフレットの順番に進みます。しろくま奥さまとボクは事前にぐるっと常設展を一周して、必要な箇所の写真を撮っておきました。一周しても1時間程度で終わりますし、常設展や建築の説明用の音声ガイドも借りることができます。常設展の音声ガイドは40分で300円。建築の音声ガイドは20分で300円です。

もし建築ツアーが予約できなくても、パンフレットはサイトからダウンロードできますし、当日もラックに常備されているので、それを片手に建築音声ガイドを借りても十分楽しめると思います。個人で音声ガイド片手に回っても十分自由研究には使えると思います

国立西洋美術館・建築ツアーの様子:近代建築5つの要点

パンフレットに沿って進むので、ツアーの皆さまとはぐれないようにしながらル・コルビュジェの作品を堪能しましょう

途中で「あ、説明してる!」と様々な方々がツアーに乱入してくるので、ボクはたびたび唖然となりました。

でも、ボランティアのガイドの方は全然気にされていなかったので、いつものことのようです。

ちゃんとメモをとりながら聞いている小学生のお子さんたちの前に立ちはだかって、ガイドさんの説明をしっかりちゃっかり聞く、手をつないだアツアツ中年カップルとか、本当にもう、おりこうさんのお子様たちの目に毒でした。

ボランティアのガイドの方の説明はとても詳しくて、エピソードも満載なので建築にあまり興味がない方も楽しめると思います。確かに乱入して聞きたくなる内容の濃いツアーではあります

ル・コルビュジェは鉄筋コンクリート製の近代建築を発展させた功績で世界遺産に選ばれました。今、よくある、柱が少ない広いフロアの建造物はルコルビュジェの概念にのっとっているのですね

ル・コルビュジェの主張した近代建築は5つの要素から知られています。パンフレットにも図解入りの詳しい説明があるので小学生でも理解しやすいです。国立西洋美術館、がんばっています!

ちなみに近代建築の5つの要点とは以下の5つの要素です。「これがあれば近代建物」のいわば基準でしょうか。実際に国立西洋美術館で「5つの近代建築の要素」がどう表現されているか、ボランティアのガイドの方が案内くださいます

  1. ピロティ:小学校とかにもピロティってありますよね。下がちょっと広場になっていて、人も風も通る空間です。国立西洋美術館でも一階に広々としたピロティがありました。柱が目立つのがピロティ部分です。今は少し削られてしまった中側のスペースが広がったので、ピロティというほど広々とした印象ではないです。
  2. 屋上庭園:もちろん国立西洋美術館にもあって、建設当初は職員の憩いの場として利用されていたとボランティアのガイドさんが説明してくださいました
  3. 自由な間取り(平面):柱で床を支える構造を取り入れたので、壁で建物を支える必要がなくなりました。広いフロアが使えるようになりました。美術館を入ってすぐ右手の「19世紀ホール」には縦7本、横7本の合計41本の柱のいくつかを見ることができます。コンクリートの柱は、建設当初、木材で枠を作って流し込んだので、コンクリの表面に木の肌が見えてとてもステキです。ル・コルビュジェ本人も「この技術の高さはすばらしい」と絶賛したそうです
  4. 横長の窓(水平をに連続する窓):ヨーロッパの建築の小さい窓でなく、広々と横に長い窓が採用され太陽光がたくさん建物内に入るようになりました。窓からの採光で絵画を鑑賞することがル・コルビュジェの目指すところでした。残念ながら、太陽光は絵画を傷めてしまうので、のちに窓は閉じられて蛍光灯の光に変わられてしまいましたが
  5. 自由な立面(ファサード):以前は建物の構造の一部として外壁が重要な役割を果たしていましたが、近代建築は柱で建造物を支えるので、外側の壁のデザイン性がアップしました。国立西洋美術館でも、玉石が埋め込まれた外壁デザインははずせるようになっています。玉石は愛媛県から取りよせたモノですが、あまりにもパネルからぽとぽとはずれて落ちるので修復する必要があったそうです。しかし当初使っていた石が入手できなくなって、その後は品質が近い石を世界中から探して、フィリピンの石を使用したとボランティアのガイドの方の説明でした

ル・コルビュジの「無限成長美術館」計画

ル・コルビュジの考える理想的な美術館は、アンモナイトのように、ぐるぐると増設していく美術館でした。実際に館内を案内していただきながら、ぐるぐるすることでそれを実感できます

途中にある階段は片側に手すりがないため昇ることはできませんが、それもぐるぐるの一部になっていて、らせん状の展示会を本来は巡ることができます

今は閉鎖されていますが、中3階には館長室もあって、らせん状の上から館内の様子を見ることができるそうです。建築ツアー参加者は展示場から上を見上げて、暗く誰もいない部屋を「あれが館長室ですよ」と教えてもらいました

また、49本のコンクリートの柱の横に、もう一本、少し楕円状の筒状の柱のようなモノが通っているのですが、これは雨どいだそうです。雨どい一つにも気を配ったデザインだったのですね

実際のル・コルビュの図面には、ひとつも寸法が入っていなかった

ル・コルビュが日本政府から依頼されて起こした図面がモチーフのファイルがショップにも売っていますが、正直、「それは単なるスケッチだよね?」のラフスケッチレベルです。

ショップでも売っているスケッチは2種類あって、1つは美術館のスケッチ、もう一つは回りも含めたいくつかの建物群のスケッチでした

ボランティアのガイドの方の説明によると、

「頼まれてもいないのに、ラフ・スケッチが示すように、ル・コルビュは、西洋美術館の周りを文化的なエリアにしようと考えて計画していた」

そうです。実際、今、東博(東京国立博物館)や国立科学博物館、文化会館など、国立西洋美術館の周りには文化的な施設もたくさんで「ル・コルビュが思い描いた通り」になったわけです

ただ、問題はこのラフスケッチですよね。日本政府から頼まれたのに、ル・コルビュジェおじさま、これはないでしょっていう殴り書きのスケッチです

それを詳細な図面に書き起こしたのが、ル・コルビュジェのアトリエで学んだ三羽烏、坂倉準三、前川國男、吉阪隆正です。この三人がまったくセンチメートルが入っていないスケッチから師匠の意図を組んで設計図を起こしました。偉大すぎる仕事人のこの三人衆。

  • 坂倉準三:旧帝大の文学部美術史専攻。神楽坂からすぐのアンスティチュ・フランセや麻布の鳥居坂の国際文化会館などで知られています。確かに、アンスティチュも国際文化会館も上が平らの造りが国立西洋美術館とも似ています。コンクリートを多用したスタイルで、ル・コルビュジェの近代建築の概念を継承しています
  • 前川國男:旧帝大工学部建築科卒業。ホテルオークラで有名な谷口吉郎と同じ年の卒業。第24代日銀総裁の前川春雄の実兄です。坂倉準三とともに国際文化会館の建築にもたずわりましたが、一番有名なのは上野の文化会館です。国立西洋美術館の真向かいに建ったので、二つの建物の間には地面に黒い線がタイルでひかれていたり、建物の高さがまったく一緒だったり、三角形が可愛らしい太陽光をとりいえるトップライトが文化会館にもあったりして、兄弟ビルであることを示しています。また、今、話題になっている新宿の紀伊国屋書店のビルも前川の作品です。耐震基準を満たしていないとのことですが、壊されてしまうのでしょうか
  • 吉阪隆正:父親が内務官僚でスイス駐在が長かったためフランス語に堪能。帰国後早稲田高等学院に入学、早稲田大学理工学部建築学科卒業。登山家としても知られていて、富山のヒュッテアルプスや立山の黒部平駅の増改築も担当しています。ボクも行ったことがある八王子の大学セミナーハウスも吉阪の作品です。コンクリート打ちっぱなしの特徴的な建物です

坂倉準三、前川國男、吉阪隆正の三人衆がいて本当によかったです。ル・コルビュジェの作品といいながら、この三人の頑張りがなかったら、どうなっていたことやら

国立西洋美術館はル・コルビュジェ以外にも楽しめるポイントがたくさん

他にも国立西洋美術館は見どころ満載です。

免震レトロフィット構造

建築ツアーの最後は地下のトイレの脇の免震レトロフィット構造の説明で終了です。国土交通省のサイトに概要の説明があります。さらに、国土交通省関東地方整備局のサイトに更に詳しい説明があります。簡単に言うと、免震のためにゴムを建物の下部に入れ込むという仕組みです

ル・コルビュジェを記念したランチ・プレートセット

国立西洋美術館の右手奥にあるCaféすいれんではなんとル・コルビュジェ・レンチプレートセットがあります。カフェの名前「すいれん」は「松方コレクション」の松方幸次郎本人がモネから買い付けたのだ「水蓮」の絵からの由来です。

本館の四角い形を連想させる四角いお皿に、三角形のトップライトを模した三角のパンやクリームパスタ、デザート、ドリンクで1,880円。記念に一度召し上げるのはいいかもです。しろくま奥さまとボクが頂いた時のデザートは「メロンパン」だったので、ウエートレスさんに聞き返してしまいました。確かに、メロンパンが四角く切られて下にちょっとババロアみたいのがついていました

国立西洋美術館の新館は前川國男の作品

建築ツアーでは新館の方も回るのですが、天井の大きな目玉のような照明がとても印象的です。ボランティアのガイドの方の説明によると、なんとかル・コルビュジェの意向を継承したいと考えた前川が、太陽光を取り入れるカメラのレンズのような照明を天井にたくさんつけたそうです。

でも、実際にはすぐに動かされなくなってしまったそうで、理由は

「巨大カメラレンズのような構造が動く音がうるさすぎる」

だったそうです

なんというか、建築家の思いが空回りって感じでしょうか。新館にいらした際は是非天井にもご注目あれ

偉大なる松方ファミリー

「松方コレクション」の松方幸次郎は、西町インターナショナルにある有名なヴォリーズ設計の「松方ハウス」の松方正熊は兄弟です。松方家の系図によると、幸次郎は三男、正熊は八男です。父は第四代、第六代総理大臣の松方正義です。

西町インターナショナルの創設者松方種子は松方正熊の娘で、種子の姉はライシャワーの夫人、かの松方ハルです。

いやはや、国立西洋美術館の松方ファミリーは華麗なる一族なのですね。それでか、「松方コレクション」には有名なロダンの彫刻の他にも、まばゆいばかりの宝石や、パリの日本人の御婦人の肖像画などもたくさん収蔵されています。

大人も子どもも楽しめる国立西洋美術館です 。皆様、是非いらしてくださいね