複合機、揺らぐ「勝利の方程式」 消耗品で稼ぎにくく

エレクトロニクス
2018/8/9 15:15
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 事務機メーカー大手の18年4~6月期決算が出そろった。9日に発表した富士フイルムホールディングス(HD)の同期の営業利益は前年同期比8%増の368億円となるなど、各社とも構造改革の効果が見え始めている。ただ市場環境は相変わらず厳しい。ペーパーレス化が進み需要が伸び悩むなか、トナーなど消耗品で稼ぐモデルにも影が差し始めている。

■最大手リコー、シェア追わず

富士ゼロックスは複合機で領収書を読み取り経費精算を効率化するサービスを強化する。

富士ゼロックスは複合機で領収書を読み取り経費精算を効率化するサービスを強化する。

 「オフィス向けの複合機の入札で、競合他社の雰囲気が変わった」。1日の4~6月期の決算発表で、コニカミノルタの財務担当、畑野誠司取締役は市場に変化の兆しが起きていると明らかにした。同社は18年度の純利益見通しを上方修正。欧米を中心に販売が想定より好調でシェアを伸ばしている。

 背景にあるのは、それまで営業力の強さで定評のあった業界首位リコーの方針転換だ。同社は18年3月期、北米子会社で巨額の減損損失を計上し、連結営業損益が1156億円の赤字に陥った。本業と関連が薄い事業の売却を相次ぎ決め立て直しを図るなか、17年に就任した山下良則社長は「過去の経営との決別」を掲げ、採算が合わない取引は減らしてシェアを追わない覚悟を決めた。

 リコーは売り上げの8割近くを事務機に依存する。キヤノンや富士フイルムのようにカメラや医療機器など別の収益源を持たず、新規事業の育成も遅れている。事務機ビジネスの戦略転換が急務となっている。

■複合機だけでは利益ゼロ

 リコーが営業戦略を転換した理由は、同社が追い込まれているからだけではない。本体を安く売り、トナーや用紙などの消耗品やメンテナンスなどで継続的に稼ぐ「勝利の方程式」が揺らいでいるためだ。

 「複合機単体でみると利益はゼロ」「1時間商談をしても、機器の説明は数分だけ」。事務機器各社の営業員は口をそろえる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリストは「複合機はこれ以上技術的な進歩が見込めず、価格以外で差別化するのが難しくなっている」と指摘する。大手各社は印刷のスピードや省エネ性能を高めることで、消耗品などを含めたサービスの単価を維持してきた。ただ各社の主力機器ではほとんど性能差がなくなっており、値引き競争が広がっている。

 市場そのものは拡大が見込めない。事務機の出荷台数は10年で3割近く減った。米IDCの調査によると、2017年のプリンター・複合機の世界出荷台数は0.9%増の1億台。SMBC日興証券は、A3レーザー複写機・複合機の市場は2020年までに年間で1%ずつ伸びると推計する。当面はアジア市場を取り込めるが、長期的な成長は見込めない。

■サービス化に活路

 大手が活路を見いだすのが複合機を中核にしたオフィスでのIT(情報技術)サービスだ。富士ゼロックスが強化するのは複合機を通じてアナログ情報をデータ化するサービス。領収証を複合機で読み取ってクラウド上に記憶させ、効率的に経費精算できるといったものだ。コニカミノルタは複合機をオフィスの情報を集約するハブと位置づける。各社はオフィスに欠かせないサービスを提供することで、価格競争から抜け出したい考えだ。

 現状を打開するための焦点は、業界再編になりそうだ。光学や機械、通信など複数の技術を組み合わせた複合機は日本メーカーの独壇場だ。首位のリコーをはじめ、キヤノン、ゼロックスなどが世界シェアを分け合う。

■ゼロックス買収が台風の目に

 パソコンやスマートフォン(スマホ)など、他のハードは中国勢の台頭もありプレーヤーがめまぐるしく変わってきた。そのなかで、複合機は主要プレーヤーが長年変わることなく、結果的に機器やサービスで差別化しづらい同質競争に陥っている。

 台風の目はある。富士フイルムは1月にゼロックス買収を発表したが、物言う株主(アクティビスト)の反対で膠着している。ゼロックスは調達先を富士ゼロックスから切り替えてアジアで直販する考えだが、短期間で他社と新たな提携関係を構築するのは現実的ではない。買収の可否によっては新たな火だねになる可能性がありそうだ。(薬文江、清水孝輔)

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