分裂勘違い君劇場ANNEX

分裂勘違い君劇場に掲載した記事の続き、付録、脚注、補足などの置き場所です。

人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている - 第二章



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この記事は、 『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」できまっている』という本 の最初の5章をWeb化したものです。挿絵イラストは(c) ヤギワタルさん 、キャラアイコンは しらたさん の作です。書籍版と若干異なる部分があります(書籍版はモノクロ)。書籍版の 正誤表はこちら

おいしいのは「正しいとしか思えない間違ってること」



ゴルフは、より少ない打数でボールを穴に入れるゲームだ。



次の表は、2017年の伊藤園レディスゴルフトーナメントの参加者の上位55名から、プログラムでランダムに選び出した5名の初日の成績だ。

フェービー・ヤオさんが一番打数が少ないので、この中では、フェービー・ヤオさんが成績トップだ。

この人たちの2日目の成績は、どうなっただろうか?
あなたの予測値を、次の空欄に書き込むか、どこか別の場所にメモるか、してみてほしい。

































正解は、次のようになる。


どうだったろうか?
予想は当たっただろうか?
予測値は、実際の値と、どれくらい近かっただろうか?

「初日によい成績の人は、2日目もよい成績になるだろう」って思ってた?
「なのに、そうなってないのは、おかしい」って思った?
「ランダムに選んだ結果、たまたま、変に偏ったデータになっただけだろう」って思った?

実は、このトーナメントの上位55名全員分を並べたとしても、同じなのだ。
「初日の成績がよかった人が、2日目の成績もいい」なんて傾向は、ほとんど見られない。

実際、55名全員分のデータで、初日と2日目のスコアの相関係数を計算すると、マイナス0・26になる。
ランダムに抽出したこの5名のデータでは、相関係数はマイナス0・27だ。

相関係数というのは、2つの確率変数の関係の強さを表す。
「1日目のスコアがよいほど2日目のスコアがよい」という法則が完全に成り立つ場合、相関係数は1・00になる。
「1日目のスコアがよいほど2日目のスコアが悪い」という法則が完全に成り立つ場合、相関係数はマイナス1・00になる。
「1日目のスコアと2日目のスコアは、まったく関係がない」という場合、相関係数は0になる。

ここで、相関係数マイナス0・26をどう解釈するかだが、少なくとも、「1日目のスコアがよいほど2日目のスコアがよいという傾向は見られない」ということは言える。

重要なのは、なぜ、あなたは「初日の成績がよければ、2日目の成績もよい」と思ったのか? ということだ。
あなたは、無意識のうちに、ゴルフの成績は、だいたい次のような要因配分で決まると思っていなかっただろうか?



つまり、「ゴルフのスコアは、かなりの部分、実力で決まる。運に左右される部分は、そんなに多くない」って思っていなかっただろうか?
「運もあるけど、大部分が実力で決まるのだから、初日にいい成績だったプレーヤーは、実力があるはずだ。実力があるプレーヤーは、2日目の成績もよいはずだ」と思っていなかっただろうか?

しかし、現実は、運の要素が、あなたが思っているよりも、ずっと大きいのだ。
イメージ図にすると、次のような感じだ。



まさか。とてもそうは思えないわ。

それでは、この写真を見てほしい。



うわ。目がこっちを見てる。

いや、これは、ただの窓だ。

しかし、これが窓に過ぎないと知っている今ですら、
「この窓を見て、『目』に見えないようにする」
ということは、かなりの努力を要する。

「これは、屋根につけられた窓であって、目なんかじゃない」
と、どんなに思っても、ちょっと油断すると、すぐにまた目に見えてしまう。

運を実力だと思いこむ人の脳の中でも、これと同じことが起きている。

「これは、実力ではなく運だ」ということを、いくら説明されても、
どれだけの証拠を突き付けられても、
どうしてもそれは、実力に見えてしまう。

やっぱり、直感的に、とてもそうは思えないわ。

じゃあ、ちゃんと科学的に分析した事例を見てみよう。

たとえば、あるバスケットボールの選手が、3回も4回も連続でシュートを決めたとする。

すると、勢いづいて、さらにもっとシュートが入りそうな気分になってくる。
英語では、そういう状態を「ホットハンド」と呼ぶ。

当然、味方は、このホットな選手にボールを集めようとするし、敵は、このホットな選手を2人がかりでブロックしようとしたりする。

認知心理学者のエイモス・トベルスキーらは、このホットハンドを分析し、「ホットハンドなど存在しない」ということを突き止めた。(註5)
たしかに、シュートが入りやすい選手とそうでない選手はいるが、ある特定の1人の選手のシュートが入ったり外れたりする順番は、完全にランダムであることが確かめられたのだ。
「勢いづいて、シュートが入りやすくなる」とみんな思っていたが、それはただの思いこみだったのだ。
つまり、人々は、完全にランダムな現象の中に、ありもしない法則性を見出し、その法則性を利用して、なんとかして勝利をつかもうと頑張っていたのだ。

ここで、最も重要なのは、その研究結果に対する、人々の反応だ。
予想外の結果だったので、メディアに大きく取り上げられたのだが、ファンも、選手も、監督も、大方の関係者は、それを無視したのだ。
彼らにとって、ホットハンドが実在することは、直感的に、疑いようのないことなのだ。

ほとんどの人間は、どんなにその反証となるエビデンスを突き付けられても、「直感的に正しいと思える間違ったこと」が正しいとしか思えず、それを信じ続けるのだ。

これが、思考の錯覚の持つ、最も恐ろしい性質だ。

バスケットボールの監督も、選手も、ファンも、とびきり頭が悪いからじゃないの?

決して、そんなことはない。
彼らは、我々と、なんら変わらない人たちだ。
あなたも私も、彼らと同じく、ほとんどの場合、どんなに証拠を突き付けられても、「直感的に正しいと思える間違ったこと」が正しいとしか思えないのだ。
頭の良し悪しに関係なく、人間とは、そういう生き物なのだ。

次の図で示すように、「直感的に正しいと思える、間違っていること」と「直感的に間違っていると思える、正しいこと」という、2つのエリアに、「錯覚の悪魔」が棲んでいる。

人間の目には、この悪魔は見えない。
彼らは、思考の死角に棲んでいるからだ。

そして、この「見えない」という性質が、この悪魔に恐るべき力を与えている。
この悪魔は、とてつもない力で、あなたの人生を支配しているのだ。
あなたは、そのことに、まったく気がついていない。

ホットハンドは、この悪魔の住み処で生まれた。
だから、人間は、「ホットハンドが実在しない」ということに、長い間気がつかなかった。
しかも、気がついた後ですら、その現実を受け入れることができない。

逆に言うと、後述するように、この悪魔を見る力を手に入れれば、あなたは自由を手に入れ、自分の人生どころか、他人の人生すら、コントロールすることができるようになる。



少し先走り過ぎたので、話を戻す。

転職するにしろ、起業するにしろ、運を実力だと思いこむ思考の錯覚は、非常に重要な意味を持つ。
「自分には実力があるから」という理由で転職/起業しようとするのは判断が間違っている可能性が高いし、「自分には実力がないから」という理由で、転職/起業を躊躇するのも、判断が間違っている可能性が高いからだ。

実際には、転職先の企業でパフォーマンスが発揮できるかどうかを決めるのは、運の要素がかなり大きい。あなたが思っているよりも、はるかに大きいのだ。

うーん。
理屈はともかく、「成功は、ほとんど運次第だ」と、あきらめちゃうのはダメなんじゃないかなぁ。
なにか、「これをやれば成功できる」っていう成功法があるんじゃないの?

これについては、次の3つのポイントがある。

・個々の成功は運次第だとしても、成功確率を上げる方法はある。
・実際に、成功がほとんど運次第なら、その現実を直視せずに、たいして効果のない成功法にしがみついても、成功確率は上がらない。成功がほとんど運次第だという現実を踏まえたうえで、成功確率を上げることに徹したほうがずっと効率がいい。
・「成功は運次第だと認めたくない」という自分の感情と、ちゃんと向き合わないと、判断がゆがんでしまう。



というわけで、この後の予定。
まず、運がコントロールできない中で、成功確率を上げる方法を見てみることにする。
そして、その後、なぜ、人間は、そんなにも成功が運次第だと認めたくないか? についての研究をご紹介する。
ただし、それらの話を理解するための前提知識として、「ハロー効果」を理解しておく必要があるので、次に、それらについて、簡単な解説をする。




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