特集 若者にとっての人とのつながり

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1 はじめに

  • 人は,出生から乳幼児期,学童期,思春期を経て,青年期,成人期といった段階を社会と関わりながら過ごしていく。人生のあらゆる場面において,常に人は他者とつながり,助け合っており,他者とのつながりの中で生きていく。
  • 進学・就職などのライフステージの移行時やそれに伴う環境の変化の中で様々な問題に直面する若者にとって,家庭,学校,地域等における「人とのつながりのありよう」は,若者自身が社会的な成長を遂げ自立していく上で大きな影響を与える要素と考えられる。
  • 一方で,若者の中には,学校や職場などの集団の中での人間関係がうまく築けなかったり,維持できなかったりしたことをきっかけとして,不登校,ひきこもりなどの状況にある者や,目立った困難さを抱えているようには見えない若者であっても,周囲と十分なコミュニケーションが取れずに孤立し,または,心を開いて悩みなどを相談できる相手がいないなどといった状況にある者もおり,これらの者は,自分ひとりで悩みを抱え込む状況が続くことにより,様々な問題を複合的に抱えた状態に陥ることが懸念される。
  • 今回の特集は,平成28(2016)年度に内閣府が行った「子供・若者の意識に関する調査」(平成28年12月に全国の15歳から29歳までの男女6000名を対象に実施したインターネット調査。)の結果をもとに,若者のつながりに関する現状とそこから見える課題を考察する。

2 若者にとっての人とのつながりに関する意識調査の概要

  • 本特集では,若者にとっての人とのつながりについて,
    1. ほっとできる,居心地の良い場所としての「居場所」の存在
    2. 悩みを相談できるなど他者とのつながりの状態
    の2つの視点を軸にすえて分析した。
  • 図表1は,家庭,学校,職場,地域,インターネット空間において,それぞれの場における自分と他者とのつながりの有無を両者を結ぶ線で示し,その強さを線の太さで概念的に表わしたものである(図表1)。
    図表1 居場所とつながり

(1)若者の居場所,他者とのつながりの状況

ア 居場所の状況

  • 6つの場所(<1>自分の部屋,<2>家庭,<3>学校,<4>職場,<5>地域,<6>インターネット空間)について,それぞれ自分の居場所だと感じている割合をみると,<1>自分の部屋(89.0%),<2>家庭(79.9%),<6>インターネット空間(62.1%)がそれぞれ比較的高い割合を占めている(図表2)。
    図表2 居場所の有無
  • 6つの場について,自分の居場所であると感じている場の数の平均は3.7で,居場所の数が3つ以上あると回答した者は,全体の約75%を占める。

イ つながりの状況

  • つながりの対象を<1>家族・親族,<2>学校で出会った友人,<3>職場・アルバイト関係の人,<4>地域の人,<5>インターネット上の人の5つのカテゴリーに分ける。
  • 5つのカテゴリーに示された相手とのつながりの強さをたずねた質問に対する回答をみると,<1>家庭・親族と<2>学校で出会った友人との間に,楽しく話したり,悩みを相談したり,本音を言ったりするなどのつながりの強さを感じている若者の割合が大きい一方,<4>地域の人と<5>インターネット上の人との間はつながりが弱いと感じている若者の割合が大きいと言える(図表3)。
    図表3 対象別のつながりの強さ

(2)居場所及びつながりの重要性

ア 居場所及びつながりと生活の充実度

  • 6つの場について,それぞれ自分の居場所と感じている場の数別に,それぞれの回答者の現在の生活について充実していると感じている者の割合を比較する。
  • 生活が充実していると回答した者の割合は,居場所と感じている場の数が多くなるにつれ高くなっている(図表4)。
    図表4 居場所の数と生活の充実度
  • 学校で出会った友人,地域の人とのつながりについて,「何でも悩みを相談できる人がいる」かをたずねた質問に対する回答別に,現在の生活の充実度を比較してみると,いずれのつながりにおいても,何でも悩みを相談できる人がいると感じている者の方が,いないと感じている者に比べて,「充実している」と回答した者の割合が高くなっている(図表5)。
    図表5 つながりの認識別の生活の充実度

イ 居場所及びつながりと自己の将来像

  • 居場所であると感じている場の数と自己の将来像について,居場所であると感じている場の数が多くなるにつれ,生活の自立や社会への貢献,対人関係等について前向きな将来像を描く傾向の回答割合が高くなっている(図表6)。
    図表6 居場所の数と自己の将来像(10年後)
  • 学校で出会った友人,地域の人とのつながりについて,「何でも悩みを相談できる人がいる」かをたずねた質問に対する回答別に,「10年後なりたい自分に近づいている」かをたずねた質問の回答をみると,いずれのつながりにおいても,何でも悩みを相談できる人がいると感じている者の方が,いないと感じている者に比べて,なりたい自分に近づいていると回答した者の割合が高くなっている(図表7)。
    図表7 つながりの認識別の将来像(10年後なりたい自分に近づいている)

(3)どのような若者が孤立しがちなのか

ア 暮らし向きとの関係

  • 現在の暮らし向きの認識別に,6つの場について,自分の居場所と感じている場の数の割合を比較してみると,居場所であると感じている場の数は,現在の暮らし向きを良いと感じている者の方が,低いと感じている者に比べて多い(図表8)。
    図表8 暮らし向き別の居場所の数
  • 現在の暮らし向きの認識別に,家族・親族,学校で出会った友人,職場・アルバイト関係の人,地域の人とのつながりについて,「何でも悩みを相談できる人がいる」かをたずねた質問に対する回答をみると,いずれのつながりにおいても,現在の暮らし向きを良いと感じている者の方が,低いと感じている者に比べて,「そう思う」と回答した者の割合が高くなっている(図表9)。
    図表9 暮らし向き別のつながりの認識

イ 就学や就業との関係

  • 就学・就業の状況別に,6つの場について,自分の居場所と感じている場の数の割合を比較してみると,無業者においては,居場所の数が少ない者の割合が他の区分より高くなっている(図表10)。
    図表10 就学・就業の状況別の居場所の数
  • 就学・就業の状況別に,職場・アルバイト関係の人,家族・親族,学校で出会った友人,地域の人とのつながりについて,「何でも悩みを相談できる人がいる」かをたずねた質問に対する回答をみると,いずれのつながりにおいても,無業者において「そう思わない」と回答した者の割合が他の区分より高くなっている(図表11)。
    図表11 就学・就業の状況別のつながりの認識

3 孤立を防ぐ手立てについて

  • 若者がひとりで問題を抱え込み困難な状態に陥ってしまうことを防ぐためには,普段から,家庭の他にも自分がほっとできる居心地の良い場所を持つとともに,何かあった時に支えとなってくれる人との関わりを築いておくことが大切であると考えられる。
  • 現在の暮らし向きに対する認識が良くないと感じる群や無業者については,孤立化する可能性が他の群に比べて高いと考えられることから,経済的支援や就労支援に加えて,若者を孤立から守りその成長を支援する居場所とつながりを作り出す取組が求められる。
  • これらの課題に対応するためには,行政が実施する各種の支援策だけでなくNPO法人等民間団体による,若者に寄り添い,若者をつないでいく,きめ細かな取組に期待されるところも大きいと考える。
  • 最後に,社会の中で孤立化することが心配される環境にある若者に対し,ほっとできる居心地の良い場所を提供するとともに社会の様々な人と結び付ける取組について,事例を紹介し本特集の結びとしたい。
  • 事例紹介

    若者の居場所・出番づくりを地域で支える取組

    ~NPO法人 With優(うぃずゆう)「会員制居酒屋 結(ゆい)」~

    NPO法人「With優」は主に山形県置賜(おきたま)地域を活動の対象としており,学校に行けない・行かないことを選択した若者,今の社会の中で生きにくさを抱えた若者等の自立支援を中心に,地域のどんな人も自分らしく,いきいきと幸せに生きていけるような地域社会を目指して活動している。

    結の様子

    同法人は,長い間仕事に就いていなかったり,自宅にいてなかなか社会に出られなくなっていたりする若者,高校等の学校に行きづらくなっていたり,行けなくなっていたりする若者を対象に,相談やジョブトレーニング,様々な自立支援プログラムを通して,就労支援,復学・転学支援を実施している。

    家の外に居場所がなく,他人とコミュニケーションをとる機会が少ない者については,ますます社会から疎遠となってしまうことが懸念される。このような若者の就業支援のために,同法人は居酒屋での就労支援という形態を選択し,「会員制居酒屋 結」を立ち上げた。

    結は,一度も就労経験のない若者やなかなか社会に一歩を踏み出せない若者が,就労に向けた訓練の機会を持つための場であり,この趣旨を理解し,応援してくれる人が会員になって利用する。居酒屋であれば,比較的容易に客とのコミュニケーションの機会が確保されるとともに,会話の中から社会生活を送るために必要なソーシャルスキルも学ぶことができる。また,コミュニケーションが苦手な若者については,まずはバックヤードで調理や皿洗いなどを担当するなど,当事者の状況に応じて,訓練の内容を調整することができる。特に,同店を訪れる客は事業の趣旨を理解した上で会員になる仕組みをとっているため,対人サービスで生じがちなお客様と従業員との間の問題を回避することができる。このような環境が,同店で訓練を受ける若者が安心して社会につながるための準備の場所として機能することにつながっていると考えられる。結での中間就労は,最も成長を感じることができる訓練だとして若者に人気があり,実績のあるプログラムになっている。平成25(2013)年2月の立ち上げからこれまでに結を巣立った若者は35名,また,平成29(2017)年3月時点の会員数は3,750名に上っている。

【考察】

無業者である若者のうち,特に就労経験のない者については,社会体験の意味合いを持つ活動への参加など,雇用対策に限定されない幅広い支援が必要であると言われる。

この事例では,就労を目指す若者が地域の人との交流を通じて自信をつけ,自立に向けた準備を整えることができている。そこでは,就労支援トレーニングの機会を提供する者と提供される若者を集めた場の整備にとどまらず,自立を目指す若者を温かく見守り,地域社会の一員として育てていくコミュニティが徐々に形成されてきていると考えられる。

このほか,

  • 高校の学校図書館における若者の孤立化に対する予防的支援の取組(神奈川県立田奈高等学校「ぴっかりカフェ」)
  • 地域の人々の集まりの場へと発展する子供食堂の取組(兵庫県尼崎市瓦宮「そのっこ夕やけ食堂」)

を紹介。

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