山小人(ドワーフ)の姫君 作:Menschsein
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「では、念のためにもう一度確認するが、リ・ブルムラシュールから東へ60キロの地点だな?」
「はい。その通りでございます。シャルティアが位置を把握していますのでご安心ください」
(どうしてそこに行く必要があるんだ? 例の計画って何なのか概要を説明してくれよ。伝言《メッセージ》って、会話が1対1になる分、『他の守護者達に説明することを許そう』が使えないから不便だよなぁ……)
「シャルティア、マーレ。移動するぞ。シャルティア、リ・ブルムラシュールから東へ60キロの場所だ。転移門《ゲート》を開け」
「了解でありんす」
「あ、あの。アルベドはどうします?」とマーレが怯えながら言う。
アルベドはウェディング・ドレス姿でうつ伏せに倒れていて、意識が戻るのにはしばらくかかりそうだ。
「放っておこう……。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは装備したままのようだし、自分でナザリックに帰還するだろう」
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転移門《ゲート》を通った先から見下ろせる場所。そこに人影がある。
ん? あれは蒼の薔薇のメンバーだな。しかし、どうしてパンドラズ・アクターとナーベもいるのだ? 私が魔導王として帝国に行っている間、エ・ランテルにいるように命じておいたはずだが……。
俺は、“蒼の薔薇”と“漆黒”の前に姿を現せば良いのか? だが、そうなれば戦闘になることは明白だが……。
俺はどうしてこの場に来たんだ? デミウルゴスの思惑を測りかねていると、突然始まる、“蒼の薔薇”と“漆黒”の戦闘。
一体何が起こっているのか……。アインズの理解が追いつかないまま、アダマンタイト級冒険者同士の戦いは進んでいく。
青の薔薇のチームとしての戦い。アインズ・ウール・ゴウンの仲間たちと戦った日々をアインズに思い出させた。
特に、「墳墓」を攻略する前の、
・
「またドロップなしかよ……」と、エンシエント・ワンが肩を落とす。既に40回ほどボスを周回したところだ。レアアイテムをドロップするということで、
「課金アイテムで、ドロップ率は上げてるんですけどね。あと10周して出なかったら今日のところは諦めよう」とたっち・みーがリーダーとして方針を決定する。
「あと10回ですか!? あのボス、無駄にHP高いし、体力削るの、なんの作業ゲーって感じですけど…… あいつ物防高いし、魔法職のレベルをもうちょっと上げてから出直しませんか?」とウィッシュIIIがウンザリしたように言う。
「まだまだこれくらいって感じですよ。生産職はもっとエグイことが多々ありますよ……。この前の連休で、ずっと鉱山に篭もってツルハシを振ってたけど、目当てのレア鉱石が一個も出なかったし……」と鍛冶職人である“あまのまひとつ”が言う。
「それって、もしかしてスターシルバーの事ですか? ウシャク鉱山の最奥部で掘れるっていうのは、ガセネタだったって2chに書いてありましたけど……」とモモンガが言う。
「マジかよ…… 俺の連休が…… まぁ、アポイタカラを貯めこめたから良いけどね」
「凄い前向きですね。見習わなきゃなぁ」とモモンガが感心したように言った。
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結局、最後の最後でやっとドロップしたんだったな。最後はみんな諦めムードだったけど、ドロップしてみんな喜んで……。一緒に苦労して、仲間の絆がより強くなったと感じたんだった。
きっと、外からあの時の
原因は、パンドラズ・アクターであった。本当にどうしてあんな設定にしてしまったのだろうかとアインズは後悔しか湧いてこない。パンドラズ・アクターが、蒼の薔薇から攻撃を受けた際のリアクションがいちいち鼻につくというか、アインズ自身が恥ずかしくなる。効いてもいないくせに、よくあんなわざとらしいオーバーなリアクションができるものだと心底嫌気がさしてしまう。
そして何より恥ずかしいのが、パンドラズ・アクターがどういうつもりで蒼の薔薇の攻撃にリアクションしているのかが分かってしまうことだ。
ガガーランのあの籠手も、アインズ自身は全く記憶にないが、パンドラズ・アクターは、あの篭手にそれらしい特殊効果があるから、ダメージがあるように振る舞っているのだろう……。アインズ自身には記憶がない装備だが、マジック・アイテム・フェチのパンドラズ・アクターだ。宝物殿に転がっている価値の無いアイテムですらも、興味を持って調べたのだろう。
「アインズ様。あの者達を皆殺しにすればいいんですかえ?」
「ひとまず、高みの見物と行こうじゃないか。蒼の薔薇もチームワークに関しては、流石アダマンタイト級冒険者だ。称賛に値するぞ」とアインズは言う。
「アインズ様がそうおっしゃるなら、称賛に値するのでありましょう」とシャルティアは言っているものの、先ほどと同じようにつまらなそうに爪を磨ぎ始める。
(守護者もチーム戦をもっと…… 蒼の薔薇を見習うべきだな。ザイトルクワエの時もむちゃくちゃだったじゃないか…… もっとチーム戦を勉強して欲しいものだがな)
特に、蒼の薔薇の連中、相手の弱点属性を想定して、対策をしてきているあたり素晴らしいな。だが、どうやってモモンの正体を突き止めたのかに疑問が残るな……。王都で冒険者たちに顔を晒したときに、幻術を見ぬく
イビルアイも、ナーベを抑えようと頑張っているじゃないか。ナーベも、第3位階魔法以下しか使わないようにしているといえどもな……。それにしてもイビルアイは戦術も多彩だし、戦闘の“経験”という意味では、ナーベを完全に凌駕しているようだな。子供とはほんと思えんな……。どんな修羅場を生きてきたんだよ……。それに、あの忍者も、良い動きをする。前衛を抜けて、後ろの後衛を狙うとか、そんなふうに攪乱されると、やりづらいんだよな……。ナーベの死角に入ることを狙っていて、ナーベもやりにくそうだ。
ぷにっと萌えさんの「誰でも楽々PK術」を蒼の薔薇が使いこなしていたとしたら、もっと良い線を行くと思うんだがな……。まぁ、事前に「誰でも楽々PK術」を使って敵の情報を丸裸にしていたら、その段階で自分たちでは勝てないと悟るはずだがな。
それにしても………………………………………… 俺は、いつ登場すべきなんだ? このまま戦っている最中に横やりを入れる形で乱入して漁夫の利を得るのか? だが、その利ってなんだ? 戦いが始める前に出ていくべきだったのか? のんびりこのまま観戦してても良いのだろうか?
それに、俺は蒼の薔薇のピンチを助ければ良いのか? それとも、モモンの方を助ければ良いのか? デミウルゴス、その辺りをしっかり打合せしてくれないと困るじゃないか……。
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それにしても…… 長いな。いつまでポーションを投げ続ける気だ? イビルアイが使っているマジック・アイテムも、ナザリックでは何の価値もないが、この世界では結構な貴重なアイテムであろうに……。もったいない……。
パンドラズ・アクターも、戦術に嵌っているようにして状況を変化させる気がないみたいだしな……。役者《アクター》として、観客を飽きさせるのはどうなんだ? あいつまさか…… 演技を楽しんでるんじゃないだろう……うわぁ………… と、安定化されたな。
もしかして、パンドラズ・アクターも俺の登場を持っているわけじゃないよな? 蒼の薔薇を勝たせても良いんだよな?
(だれか教えてくれよ……)
それに、モモン倒されてもいいの? というか、モモンの正体が俺だって分かったから蒼の薔薇は戦っているわけだよな? でも、モモン倒されたら、エ・ランテルどうするんだ? アルベドなら真相を知っているだろうが、カッツェ平野に放置してきてしまったしな……。逆に、蒼の薔薇を助けても、モモンがアインズ・ウール・ゴウンだってばれているのに、助ける意味がないだろ……。別人だったと分かっても、魔導王アインズ・ウール・ゴウンが助けたとして、意味があるとも思えんしな……。
考えても、埒が明かないか……。ん? パンドラズ・アクターもいかにも瀕死ですって感じになってきたし、最終局面か?
って、アイツ!! 断末魔の叫びとか、恥ずかしいこと言うつもりじゃないだろうな? じ、辞世の句を詠んだりする可能性もあるぞ…… そ、そいういえば、“ユグドラシル”のサービス終了前に、俺が霊廟で化身《アヴアターラ》を造りながら仲間達に語りかけていたのを全部聞いているよな…… パンドラズ・アクターに変身させて、造る際のモデルにしたし…… 「ぶくぶく茶釜さんの出演作、積み残しがまだあったのにぃ!」とか叫んだら今後一切、宝物殿から出さんぞ!!
「アインズ様。余興が終わったようでありんす」と、シャルティアは欠伸をしながら長い爪で蒼の薔薇を指差す。
「それでは行こう。蒼の薔薇を生け捕りにするぞ。マーレ、
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「彼方では決着がついたようだぞ。ナーベ。このまま尻尾を巻いて逃げるなら、見逃してや…… なんだ?」とイビルアイは、ナーベと対峙している状況にも拘らず、魔法の気配を感じ取り、その魔法を紙一重で回避する。
「新手か?」とイビルアイは周囲に気を配る。
その生まれたイビルアイの隙を逃さず「ナザリックの支配者、偉大なる不死の王、アインズ・ウール・ゴウン様の御前で頭が高い」とナーベラルの右手がイビルアイの後頭部を掴み、そして力任せに地面へと顔を叩きつける。
「ぐがぁ」
「良いのだナーベラル。一緒に戦った戦友としてのよしみだ。イビルアイの無礼を許してやろう。さて、イビルアイ。残るはお前だけだぞ。マーレの拘束魔法を避けるとは、流石だな」
「出しゃばった真似をお許しください」と、ナーベラルが支配者に対する礼を尽くす。イビルアイが250年という歳月を生きていて、これほどまでも見事な所作は見たことがなかった。ナーベがいつの間にか、メイド服へと替わっていることに暫く気付かないほど、イビルアイはその所作に目を奪われた。
そしてイビルアイの間に、主を守るかのように控えている吸血鬼《ヴァンパイア》、闇妖精《ダークエルフ》、ナーベ。そしてその奥には、
(なんという。なんと美しい頭蓋骨だろうか……)
従者に守られながらも堂々と立つ魔導王。イビルアイは、先ほどのナーベの美しい所作を一瞬で忘れてしまうくらいの美と直面をした。股間の辺りから脳天を貫くような電流がびくびくと走りつづけているのを感じる。冒険者モモンの比ではない。動くはずのない心臓が爆発してしまいそうだった。
(ち、ちがう。私が愛しているのは、モモン殿だ。あ、でも、モモン殿の正体が、魔導王なのだから同一人物なのか?)
「さて、イビルアイよ。大人しく捕まってくれたら手荒な真似はせんぞ?」
(おぉ…… やはりモモン殿と同じ声…… 胸に染みる声を聞き間違うはずが無い。って、落ち着け! 今は仲間の危機なのだぞ!)
「降服を行動で示して欲しい。まずは、その仮面を外すのだ」
(アンデッドであれば不老だ。そして吸血鬼《ヴァンパイア》である自分も不老。モモンの子を孕めないと悩んだのは愚かだったな。悠久の時をずっと寄り添って暮らせるではないか……。いや、そんなことを考えている場合ではない! 今、私の行動に仲間の命がかかっているのだぞ……)
イビルアイは、仮面を外すことを選ぶ。
「やはり背丈から推測していたが、子供か……。
(こ、子供扱いか……。私の肉体は12歳程度で成長を止めているからな……)
「恐れながらアインズ様。彼女から流れる血の匂い。彼女は私の眷属。吸血鬼《ヴァンパイア》でありんす。血の香りからして、吸血鬼王侯《ヴァンパイヤ・ロード》でありんす」
(な、見抜かれた? だが、同類か? それに、あの女の胸。明らかに盛っている……。それでカヴァーできれば、私にもチャンスがあるということか?)
「そういうことだったか。納得がいった。マーレ、イビルアイを拘束するのだ。イビルアイ、抵抗しようなどと考えるなよ?」とアインズは念を押す。
「私からエントマへ連絡を致しますか?」とイビルアイをマーレが拘束し終わった後、ナーベラルが口を開いた。
あっ、そういえば、名誉負傷章《パープルハート》として、イビルアイを殺す際には、エントマに声をかけると約束していたな…… とアインズは思い出す。アインズ自身、すっかり忘れていた。
(しかし、戦闘力でもエントマに勝るイビルアイを、エントマの私怨のために殺させるには惜しい。あ、そうだ)
「シャルティアよ。お前の眷属ということであれば、イビルアイはお前に任せよう。ただし、エントマとの件があるから、イビルアイが害されることがないように注意をしろよ。私からエントマにも説明をしておこう」
「畏まりました。ただ、アインズ様。この女が害されることがないようにということでありんすが、私も彼女を傷つけたりしては駄目ということでありんすか?」とシャルティアは林檎のように紅い自らの唇を舌でなめ回していた。
「ん? お前が傷つけて殺してしまってはここで捕らえて生かす意味がないだろう? 仲間を傷つけられた気持ちは分からんでもないが、目的のためだ」とアインズは答える。
「残念でありんす」とシャルティアは肩を落としている。
「よし、では、ナザリックへと戻るぞ」とアインズが宣言した時、目の前にデミウルゴスとアウラ、そしてルプスレギナが現れる。
「大変遅くなって申し訳ございません」と、デミウルゴスが深々と頭を下げ、それにアウラ、ルプスレギナも続く。
「良いのだ。デミウルゴスが遅れたのは、ナザリックのために粉骨砕身で働いていたためであろう。それを誰が咎めることなどできようか?」
「寛大なアインズ様に感謝致します」とデミウルゴスは、さらに頭を地面に着けんばかり頭を下げる。
「良いのだ。それで、聞かせてもらおうか? ここへ私を呼んだ理由を?」とアインズは支配者の威厳を持ってそれを尋ねた。