山小人(ドワーフ)の姫君 作:Menschsein
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ラキュースは、
もし、モモンが生者であったなら、吸血鬼《ヴァンパイア》との戦いでの疲労で手元が狂いました、という笑い話で終わらせる手筈になっている。
しかし、ラナーの仮説が正しかったのであれば……。モモンの討伐は、推定二百以上……。時間が長引けば、ヤルダバオトなどの仲間を呼ばれる可能性がある。推定二百以上が二匹。また、ホニョペニョコなる吸血鬼《ヴァンパイア》も実際に討伐したのかどうかですら眉唾ものとなる。
それに、イビルアイ、ガガーラン、ティア、ティナの四人で戦って辛勝であった蟲の化け物など、魔導王の手数がどれほどであるかも分からない状況だ。また、“美姫”ナーベも、イビルアイと同等、もしくはそれ以上の力を持っている。
長期戦になれば、勝ち目はない。それは明白だ。蒼の薔薇のリーダーとして、この作戦は最後まで迷った……。チームの安全を考えれば、避けたいことだ。しかし、この奇襲で無理であったら、今後何をしても無理だ。真っ向から向かっていって勝てる相手でもない……。
できれば、この一発で終わって欲しい……。
「
ラキュースから発せられた神々しい光は、ガガーランの遺体へとは向かわず…………
狙った通り、モモンを直撃する。
「ぐぁ」とモモンは苦しげな声を発する。
イビルアイは、手筈通りに
「体力を一割弱ほど削った」とイビルアイは言い放ち、
イビルアイはこの作戦の前、『もしモモン殿が魔導王であるということがあれば、ナーベは私が責任を持って抑える。しかし、モモン殿が冤罪であったなら、私は蒼の薔薇のチームを抜ける』と明言していた。ラキュース自身、分かりやすいイビルアイの言動を見て、彼女の中で、蒼の薔薇というチームと彼女の恋とで揺れていることは感じていた。
イビルアイが直ぐに動いてくれたことに感謝をする一方、ラキュースは自分の渾身の
「ダメージを負っている、つまり、モモンは、魔導王アインズ・ウール・ゴウンです」とラキュースが叫ぶ。打ち合わせの通りに……。
「クソ、クソがぁあああああああ!!」とモモンは叫ぶ。銅プレートの冒険者に対しても礼儀を尽くす冒険者モモンとかけ離れた汚い言葉。冒険者モモンとは、虚像であったのだとラキュースは悟る。
「そして、魔導王って言われて、それを否定しないってことが、お前はクロなんだよ!!」と狸寝入りしていたガガーランが起き上がり、巨大な刺突戦鎚《ウォーピック》で、モモンの頭部に打撃を加えた。
モモンが被っていた兜は吹き飛ぶが、モモンがダメージを負った気配はない。そしてそれは想定済みだ。
「擬死《フォックス・スリープ》かぁぁぁ!」と、怒り狂うモモンは叫ぶ。
「正解だ。物理は効いてねぇみたいだが、こんなのはどうだ?」と、ガガーランはモモンの体を羽交い締めにする。命を救って貰った亜人からガガーランが死ぬ気で習得したとされるコブラツイストと呼ばれる秘技だ。
「
「やはりアンデッド……
そしてそれと同時に、ティアは、中級治癒薬《ミドル・ヒーリング・ポーション》をアインズに向かって投げつけていく。
「……顔面に大当たり。エ・レエブルとリ・ブルムラシュールのポーション買い占めた。お陰で蒼の薔薇は財政難……」
「はははっ。いまのコイツ。大した力はないぜ。王都での活躍が嘘のようだ。このまま行けるぜ!」とガガーランはモモンを羽交い締めしたまま叫ぶ。
悪魔騒動の時のモモンであれば、ガガーランの渾身の力など、障害とすらならず、簡単に振りほどいていたであろう。ラキュース自身、ガガーランの秘技でモモンを抑えきれるとは思っていなかった。モモンの武器である双剣をガガーランかティアが奪い、モモンの攻撃能力を素手に限定できれば恩の字であると考えていた。嬉しい誤算である。
「くそがぁぁぁ」とガガーランを必死に振りほどこうとするモモン。しかし、その努力はガガーランの必死の食いつきによって徒労となる。
ラキュースとティアは、ありったけのポーションをモモンへと投げつけていく。ナーベがモモンの救援に現れないところを考えると、イビルアイとティナの戦いも、蒼の薔薇が戦況を支配しているのだろう。
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ポーションを投げ続けるラキュースとティアの肩が限界に達したころ、戦いのピリオドを迎えた……。
モモンは泥酔した者のように千鳥足となる。
「そういえば、たっちさんに助けられたときも…… こうやってPK集団に囲まれていたぶられていたときに、助けてくれたんだったけ…… みんなごめん……。ぷにっと萌えさん…… PK戦術ってされる方はかなり嫌ですね…… ごめんなさい。みんなで作ったアインズ・ウール・ゴウン…… 守れませんでした……」
蒼の薔薇にとっては意味が理解出来ない、モモンの最後の断末魔の叫び。しかし、モモンの眼窩の奥の、赤黒い光が宿りが、光を失っていき、そしてその光は完全に消える。
ラキュースは、勝った……。 人類は救われる……。 挙がらなくなった右肩にポーションをかけながらそう思った……。