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アメリカを壊した黒幕「26165部隊」「74455部隊」の謎

彼らがトランプを大統領にしたのかも…

すべてロシアに筒抜けだった

“GRU”という組織をご存知の読者は、日本ではあまり多くはないかもしれません。ロシア連邦軍参謀本部情報総局。ソ連時代から続く、ロシアの情報機関です。

その傘下には、「スペツナズ」として知られる特殊部隊や偵察衛星のほか、サイバー攻撃を司る部隊も所属します。いま、このGRUのメンバーをめぐって、アメリカは大きく揺れています。

いわゆる「ロシアゲート」の捜査にあたっているロバート・モラー特別検察官は、7月13日、GRUのエージェント12人を起訴しました。起訴状では、この12人は「共謀者(conspirators)」と呼ばれています。誰と共謀したのか?ロシア政府、そして――明言はしていませんが――トランプ政権、ということでしょう。

29ページに及ぶ起訴状には、GRUに所属する「26165部隊」と「74455部隊」のサイバー部隊が、ロシアゲートに関する諜報活動を行っていたことが記されています。

これら2つの部隊には、役割分担がありました。

「26165部隊」の主たる任務は、トランプ大統領が当選した2016年の大統領選において、クリントン陣営、民主党議会選挙対策委員会(DCCC)、及び民主党全国委員会(DNC)のコンピュータをハッキングし、メールと文書を盗むこと。その際、「26165部隊」のメンバーは、身元やロシア政府との関係を曖昧にするために、架空の名前と住所を使ってハッキングをしていました。

一方、「74455部隊」の任務は、「26165部隊」が盗み出したメールや文書をネット上、つまり「ウィキリークス」などのサイトに暴露することでした。

中でも標的となったのは、クリントン陣営の選対会長、選対本部長及び上級外交アドバイザーのメールです。彼らは「スピアフィッシング」や「スプーフィング」という手法で、ターゲットのログインパスワードを盗みました。

スピアフィッシングは、「銛で魚を突く」こととインターネット詐欺の手口「フィッシング」をかけた言葉で、ターゲットに偽のメールなどを送りつけ、パスワードを盗み出す行為。スプーフィングは、いわゆる「なりすまし」です。これらの手口を駆使して、GRUはクリントン陣営の選対会長のメールを5万通以上盗み出すことに成功しました。

“Wikileaks”のヒラリー・クリントン氏メールアーカイブより

二つの部隊はクリントン陣営、民主党議会選挙対策委員会、民主党全国委員会の関係者300人以上を標的としていました。16年6月ごろまでには、民主党全国委員会の3つのコンピュータに不正アクセスを成功させています。

 

加えて、彼らははクリントン陣営が行っていた「オップ・リサーチ」の内容もハッキングしていました。

オップ・リサーチとは、一言で言えば「敵陣営の候補の弱みを握るための情報収集」です。大統領選挙では、相手候補のネガティブな情報を探すのが当たり前になっています。

つまりトランプ陣営は、クリントン陣営が集めた「トランプ氏の弱み」の内容を把握し、動きを事前に察知して、対策を講じることができたというわけです。太平洋戦争で、日本軍の作戦が米軍に筒抜けだったのに、日本軍はそれをずっと知らなかったことを思い出します。