日常生活で知らぬ間に毒物に触れて命を落とす。市民生活が脅かされる事態である。英国で女性が神経剤ノビチョクの犠牲になった事件だ。関与が疑われるロシアに説明を求めたい。
八日に死亡した女性と一時危篤状態に陥ったパートナーの男性は、三月に起きた元ロシア情報部員の暗殺未遂事件で使用されたノビチョクの残留物に接触したとみられ、被害男性の自宅からノビチョクの入った小瓶が見つかった。
暗殺未遂事件から四カ月も経過したのに毒性が消えなかったことになる。汚染された物がまだ残っている恐れがあり、市民の不安は払拭(ふっしょく)されていない。
暗殺未遂事件では元情報部員の娘も被害に遭った。「新人」を意味するノビチョクは旧ソ連で開発された。英当局はロシアが事件に関与したと断定したが、ロシアは反ロキャンペーンだと反発する。
二〇〇六年、ロンドンで起きたロシアの元情報将校リトビネンコ氏の毒殺事件では、英当局は実行犯を特定し、プーチン大統領が暗殺を指示した可能性を指摘した。
一四年にウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜され約三百人が死亡した事件では、国際合同捜査団がロシア軍所有のミサイルが使用されたと断定した。
一四年のソチ冬季五輪のロシアによるドーピング不正では、国際オリンピック委員会(IOC)が国家ぐるみだと認定した。
だが、ロシアはこれらすべてへの関与を否定している。知らぬ存ぜぬを押し通す姿勢が国家イメージと信用を損ねている。
一方の英国にもロシアにつけ込まれる弱みがあったと指摘されている。英国では近年、反プーチンのロシア人亡命者らの不審死が相次ぎ、その数は十四人に上るという報道もある。
例えば一三年にロンドン郊外の住宅で首つり遺体で見つかったベレゾフスキー氏だ。エリツィン政権時代の政商であり、プーチン政権誕生にもひと肌脱いだが、後にプーチン氏とたもとを分かった。
ロンドンの金融街シティーや不動産業界はロシアマネーで潤っていることもあり、英政府はロシアとの間にあつれきが生じるのを嫌って、一連の疑惑に目をつぶってきたのではないかという批判も出ている。
欧州連合(EU)離脱問題でごたつくメイ英政権。自由主義陣営は連帯して英国を支える時なのに、結束を乱すトランプ米大統領の行動はロシアを利するだけだ。
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