月間約700億ページビューと圧倒的な集客力のポータルサイトを持つヤフー。マーケティングの横断組織を率いる友沢大輔氏はベネッセコーポレーションやリクルートホールディングスなどで、一貫して顧客データなどの活用を進めてきたデジタルマーケターだ。ヤフーで取り組むデジタルマーケティングの目標を聞いた。
■データ活用、足りない力補う武器に
――マーケティングに携わるようになった原点は。
「新卒で入社したベネッセです。進研ゼミのダイレクトメール(DM)に漫画を載せていて、それをオフィスでユーザーに見せては意見を聞いていました。その声に応じて毎年、DMや教材を変えていったのです。コストは、ほぼ度外視なんですが(笑)。ユーザーに向き合うことを学びました」
「データ活用の出発点もベネッセです。クリエーティブ力が高くなかったので、統計学で顧客情報を整理し、お客さんを分析したのです。例えば、DMの過去の傾向から、入会して3カ月以内に反応がないと退会しやすいとわかります。そういう人にコールセンターから電話してもらうなど、離脱防止策を講じていました。今でいうデータドリブンマーケティング(データの活用に重点をおいたマーケティング手法)ですね」
――デジタルマーケティングの世界で「アドテクオタク」といわれるそうですね。広告(アド)の技術(テクノロジー)への関心が高い?
「リクルートでは、全社横断のインターネット系マーケティングを手掛けました。色々な媒体の広告枠を買い付けて自社サーバーから広告を配信し、そこからサイトに来てもらうというような、変なことばかりしていましたね。この試みは大赤字でしたが、当時は媒体を持つ会社と直接取引をするのは珍しかった。色々な知見が得られ、社内で表彰されるなどしました。それが『アドテクオタク』と呼ばれるようになったゆえんかなと思います」
■ヤフーへの転職、ビッグデータに魅力
――ヤフーに入社したのはなぜですか。
「ずっとデータを扱ってきた私としては、ヤフーに検索、ニュース、天気、乗り換え案内、ショッピングなど、ユーザーの毎日の行動に関わる膨大なデータがあるのが魅力で、こうしたビッグデータを活用したいと思っていました。広告の面では、ヤフーが自ら広告主になるような形で新しい技術を実験し、成功したら顧客に使ってもらうという流れにすれば、もっとうまくできるはずだとも考えました」
――ヤフーに入って6年です。どんな仕事をしてきましたか。
「最初の3年は広告事業で新しい事例をつくりました。当時、まだ動画広告は普及していませんでしたが、外部と連携して動画や音声などを用いた色々なパターンの広告をつくり、ヤフーのトップページをジャックするというような実験をしていました」
「後の3年はマーケティング&コミュニケーション本部という組織づくりです。ここで実験もしています。例えば、11月11日を『いい買い物の日』として、『Yahoo!ショッピング』のポイントを普段より多くつける販促を始めました。あとは『けんさくとえんじん』というキャラクターをつくったり、東日本大震災をきっかけに『防災模試』などの多角的なキャンペーンを実施したりしています」
――ヤフーのブランディングですか。
「幸いヤフーを知らない人はいないので、いかに愛してもらうかが大事です。これまでヤフーのサービスは土管みたいなもので、色がないことがいいとされていました。ただ、それだと企業と協業しにくく、ユーザーから愛される存在になれないんです。こういう新しいアイデアを生み出せる組織に育てていくのが最近の仕事ですね」
■デジタルマーケティング、獲得至上主義は問題
――新しいアイデアをどうやって実現していますか。
「日本のデジタルマーケティングは、『獲得』に注意が向きすぎています。ユーザー1人当たりの獲得単価は500円といったように、目標数値をはっきり決めています。赤字を防ぐスマートなやり方ですが、これではヒットは打ててもホームランが出ない。数字で見えるのはデジタルの良さですが、弱点でもあるのです」
「ヤフーには、費用対効果が明確にできないことにも挑戦するための通称『ラボ費』という費用があります。各サービスの担当者が何か実験しようとするとき、重複を避け、一貫性を保つためにマーケティング側で意思決定して一定の額を出すようにしています」
「ヤフーアプリへのログインを促す『毎日スロットくじ』や『けんさくとえんじん』のようなものは、最初は効果がよくわからないのでまずマーケティング側でやります。あとは米フェイスブックなどの競合で新しい広告商品が出たら、試してみたりもします」
――デジタルマーケティングのコツは。
「鮮度は精度を超えるというのが私の持論です。最高のアルゴリズムを作るのに1年かかるとしたら、待っていられません。早くやった方がいい。極論すれば、デジタルの良さは、社員がコストをかけずに交流サイト(SNS)でテストできることなんです。そのスピード感で試行錯誤しながら方程式を作り出し、撤退するか続けるかを素早く決めるのです」
■組織は3年周期で変わる
――リクルートではマーケティング組織を畳む経験をしていますね。
「リクルートでは、一度マーケティング機能を集約しました。マーケティングが成熟して優秀な人材が出てくると、サービス側に引き抜かれる。サービス側でもマーケティングのレベルが上がっていく。だったらマーケティング機能をサービス側に分散させればいいのではないか、という議論になったのです」
「この半年で、この種の相談を受けることが多くなりました。組織は3年周期ぐらいで変わっていくのかなと思います。人事や営業はやることが明確ですが、マーケティングはそうではない。時代に合わせて組織も人の能力も変えていくべきで、ミッションを固定すべきではないと思います」
――マーケターから見て、ヤフーの課題は何ですか。
「データ活用の面では、DMP(自社と外部の様々なデータを一元管理・分析する基盤)事業などをはじめ日々進化しています。これが第1段階です。第2段階はマルチデバイス対応です。PCでもスマートフォンでも、デバイスを超えてユーザーとコミュニケーションをする。第3段階がオンラインとオフラインを相互に活用するオムニチャネルで、電子看板まで連携してくるイメージです。日本の場合、第2段階のスマホとPCの連携もまだやりきれていません。技術はともかく活用はこれからです」
友沢大輔
1994年、ベネッセコーポレーション入社。その後、ニフティ、リクルート、楽天でデータを活用したマーケティングを担当。2012年7月、ヤフーに入り、マーケティングイノベーション室室長に。15年、マーケティング&コミュニケーション本部の新設に伴い本部長に。
(安田亜紀代)
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