7月末に決定された日銀の金融政策の「変更」については前回の当コラムで言及したところであるが、その後、日銀内部での日銀プロパーとリフレ派委員との間の「暗闘」をうかがわせるような記事が出たこともあり、リフレ政策の後退、すなわち再デフレリスクの懸念を指摘する声も出てきているようだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56796
このような批判の背景には、日本のインフレ率が一向に上昇してこないばかりか、逆に低下しつつあることが指摘できる。
6月の全国消費者物価指数(CPI)におけるコア・コア指数(変動の激しい生鮮食品・エネルギーを除く総合指数)は、4月以降、3ヵ月連続の低下で前年比+0.2%となった。
日銀が独自に発表する「消費者物価の基調的な変動(日銀が色々な統計的な処理を施して物価の「正しい」トレンドを示したもの)」をみてもほぼ全てのインフレ指標が低下基調に転じている。
今回の政策変更の過程で、日銀内部でどのような議論があったのかはわからない。だが、前回の当コラムで言及したように、変更自体はほとんど「ゼロ回答」に近かったと思われることから、決定会合前後数日に発生した多少の混乱を除けば、ここまでのところ、マーケットの流れを変えるには至っていない。
だが、日銀の政策目標であるインフレ率が低下基調にある中、これまでのリフレ政策の後退を印象づけるような政策変更をこのタイミングで行うことは、それが仮に市場参加者の「無知」による「ノイズ」だとしても好ましいことではなかったのではなかろうか。
その一方で、雇用環境の改善はとどまるところを知らず、いまだに継続中である。特に、今年に入ってから、「非労働力人口(職探しをしていない無職者)」が大きく減少している点は特筆に値する。
日本の非労働力人口は2012年12月時点では4561万人だったが、直近時点(2018年6月)では4300万人となっている(図表1)。
もちろん、非労働力人口の中には専業主婦や学生、高齢者なども含まれており、そのすべてが「Discouraged Worker(就業可能であるにもかかわらず職探しを放棄してしまった人)」ではないが、現政権発足から約260万人の人々が就職、もしくは求職活動を始めたということは非常に喜ばしいことである。
通常、非労働力人口の減少は求職者の増加を意味することが多く、求職者がいきなり就職することは難しいことから、失業率の上昇を伴うことが多い。だが、今回の場合、失業率も低下を続け、直近時点(6月)では2.4%まで低下している。完全失業率が2%前半で推移するのは1993年初め以来である。
このように、現在の日本では、インフレ率と完全失業率の動きは全く異なる状況が続いている。