ハムスケ道中記   作:aux

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休みたい支配者、働きたい僕達

 骨の身体を持ち、漆黒の豪奢なローブを纏う魔王然としたアンデッド。その名はアインズ・ウール・ゴウン。ナザリック地下大墳墓の執務室で、羊皮紙をじっくりと時間をかけて読み込んでいる彼は元人間だ。

 

 元々ユグドラシルというゲームの1ユーザーでしかなかったはずが、 サービス終了を迎えた直後に異世界らしき場所へ転移した。原因は判っていない。

 

 ━━━世界征服なんて面白いかもしれないな

 

 何気なく放った言葉によって、配下達と共にこの世界を手中に収めることになってしまった。世界征服の表向きの拠点として国まで持つ身でもある。

 

 ナザリックに属する者たちはアインズのことを絶対的な支配者として疑わない。配下達の忠誠を無くさないため、そして仲間達が思いを込めて作り上げたNPC達を守るためにも、自分の弱みを出さないようになって久しい。

 

 人間だった頃は一般人だった彼には国家運営は荷が重すぎるのだが、それでも自分の責任を放棄する事などしない。この名前を名乗った時に覚悟は決めている。アインズ・ウール・ゴウンを汚す事は何人たりとも許されないのだ。

 

 現在の名前はゲーム時代のギルド名であり、彼はその長だった。個性の強いメンバーの意見をまとめ、苦楽を共にしながら自分達の居場所を築き上げていった。しかしどんな事でも終わりは来るもので、最盛期は41人いたギルドメンバーも一人また一人と現実に帰っていった。

 

 そんな大切な名前を自分に付けたのは、自分以外にもこの世界に来ているかも知れない仲間の道しるべであり最後までナザリックに残ったギルド長としての自負、それに執着する人間だった頃の僅かな意識の影響だろうか。

 

 責任を全うする事に躊躇はないが辛いものは辛い。いままで何度も急場を凌いできたが、これからは期待に応えられなくなるかも知れない事が恐ろしい。だからこそ自分主導で何が出来るのか考えていた。ついでに息技きの方法も。

 

 聖王国での役目も終わり、王国を飲み込む計画もまだまだ時間があると聞いていたアインズ。それなら多少は自分の好きな事をしていても良いんじゃないかと考えるのも無理はない。

 

 今度ばかりは行き当たりばったりでは駄目だという思いもある。引き返せない場面で一か八かの決断を強いられるといつか致命的な失敗をやらかしそうで常に不安に晒されていた。 今までは運が良かったということを自覚しているアインズだが、対策としては配下に詳細な計画を出してその通り行動する事ぐらいだろうか。

 

 冒険者に関する報告書を読んでいたのに、気付けば今までの事を反芻しながら今後に不安を募らせている。これはギルド運営で培ったのか元々の性格か。少しは楽観的に物事を考えたいと思っているがそれにはまだまだやる事がたくさんあるようだ。

 

 少し前に冒険者組合長であるプルトン・アインザック、魔術師組合長テオ・ラケシルと会談し、新しい冒険者育成のアイデアを出し合った。運営方針の確認や指導方法の確立手段などだが、一番重要だと考えられるのが経験をどう積ませるかだ。

 

 ゲームであればレベルに合った良い狩場を周回するだけでも何とかなるが、この世界は人間に厳しく命がいくつあっても足りない。ある程度育つまで強い護衛を付けたとしても不慮の事故はあり得るかもしれない。かといって死ぬ度に生き返らせるなどでは緊張感などすぐに無くなってしまいかねない。

 

(人数は集まりつつあるけど練度不足の素人が多いし、山小人(ドワーフ)達に作らせた装備で身を固めさせ大規模なモンスター狩りというのも軍隊みたいで違う気がするしなぁ。)

 

 バハルス帝国のように国で組織した騎士団で周辺の脅威を排除するのは治安維持という面では理にかなっているが、潤沢な装備と数による戦術だけでは突出した個の力が生まれにくいようだ。

 

(これはレベリングに通じるものがあるな。人数が多ければ多いほど、経験値の割合が減ってしまうのかも知れない。うーん、これも検証していかないと。)

 

 それに冒険者の強さというのは手段であって目的では無い。危険な戦いの先にある未知を既知にするという、 この世界では強者しか成し得ないある意味で贅沢なロマンこそがアインズの理想とする冒険者像である。

 

「まあ方法が無ければ作れば良いんだけどな。」

 

 意識的に声に出し考えをまとめていこうとする。そう、狩場がないなら作ればいい。エ・ランテル周辺であれば土地は十分。トブの大森林も一部育成場所の候補にしておく。

 

 効率的な施設建造に関しては守護者達に丸投げする。餅は餅屋である。アインザックやラケシルには基本的な戦闘訓練やチーム作り、冒険者一人一人の役割の見極めなど長年の経験や知識が必要なものを監督して貰う。あとは育成施設に配するモンスターの確保だ。

 

 大量確保するのは造作もないが、生態や生息している環境などの現地調査をして出来る限り情報を集めなければならないだろうと考えていた。ナザリックに楯突くような存在ならば滅んでも構わないが、生物の営みによって作られる生態系の破壊は様々な負の連鎖を引き起こすことは、人間だった頃にいた世界で嫌というほど経験している。

 

(マーレ達の力があれば植物は大丈夫かも知れないけど、生き物はそうはいかなない。そうなったらブルー・プラネットさんに怒られるだろうしな)

 

 腕を組みながら物思いに耽るアインズには少し機嫌の良さそうな雰囲気が漂ってる。例えこの世界にいなかろうとも仲間の考えが自分を導いてくれるといったところか。

 

 ナザリックの力を使えば大抵の事は実現するだろう。しかし配下達は抱えている仕事がありこれからして貰いたい事も山ほどある。

 

 ならばある程度は少数で行う事になるだろう。石橋を叩きまくるアインズでもこの世界で自分達とそれ以外の力の差を実感できてはいる。勿論安全を疎かにする気はなどないが。 協力を依頼すれば断られないくらいには恩を売った人間をつかうのもいいだろう。

 

 後はどの場所を捜索するかだが候補がある。何しろアインズ本人が行きたいと思っていたからだ。しかしアルべドにそれとなく話を振ったところ却下されてしまった。表面上は冷静だったが、説得するのを諦めるほど長時間に渡り諭されたのだ。なにか王国からとある貴族の報告を聞いてストレスを溜めているらしいとデミウルコスから聞いていたアインズ。その後の話し合いで探索の様子を観賞しようという事になって事なきを得た。

 

 黒檀のテーブルに置かれた書類群。その中にある一枚の地図を広げていく。帝国が従属国になった後に送られてきたものだ。範囲は帝国領内だがリ・エスティーゼ王国が自国を測量したものとは比ものにならないほど詳細だった。

 

 地図の上をアインスの指が滑っていく。バハルス帝国首都アーウィンタールからずっと南西にある山岳地帯。そこには帝国で有名な人間種には到底近づけないとされている巨大な独立峰(どくりつほう)がある。

 

 この山はアグレウルという名がつけられている。フールーダから聞き取りをした結果判ったのは、その名前と彼が生まれた頃から今まで噴火はしていないという事、それにほかには無いような薬草が自生しているのではということが指摘されていることくらいだ。

 

 アインズはおもむろに手を伸ばす。骨だけの手が肘の辺りまで空間の中に消えアイテムボックスを探る。 取り出されたのは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)。離れた場所を見る事が出来る便利なマジックアイテムだが、低位の情報系魔法でも阻害されてしまい、さらにはカウンター攻撃を受けやすいデメリットがあった。

 

「一応警戒しておくべきか。リュミエール。」

 

 名前を呼ばれたのは例のように本日のアインス様当番である一般メイド。金色の髪は星のように輝きを持ち、お淑やかな貴族の令嬢のような顔立ちだ。

 

「はい、アインズ様。」

 

 扉の前から走らず、されど歩くよりも早くアインズの前に到着し、優雅に一礼する。かけている眼鏡は一ミリもずれていない。

 

「今から遠隔視の鏡で情報収集をしたいと思っているんだが、万が一魔法で迎撃を受ける可能性もある。6階層に行くのでここで待機しておけ」

「畏まりましたアインズ様。」

 

 そう素直に同意するリュミエール。

 

 以前なら自分の命も投げ出せるという旨の説得をアインズに対してするのだが、以前同じ一般メイドのフィースに対して言った事が伝わっているのだろう。仲間が作り上げた大事な存在をわざわざ危険にさらす必要はないというものだ。

 

「用事が終われば〈伝言(メッセージ)〉で知らせよう。そうだ待っている間飲み物と軽食の用意をしておいてくれ、6階層での用が終わればここで会議を行う予定だ。」

 

 勿論アインズが飲み食いするわけではない。ある程度地形を確認した後、現地調査をする人員を決めなければならない。その後計画を話し合いながらお茶会と洒落込もうというわけだ。

 

 命じられた事に喜びで顔を紅潮させながら了解の旨を伝え、扉へ向かっていくリュミエール。ついでに天上に張り付いてアインズを護衛する八脥刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)にも 6階層へ行くように命じた。アインズは一人になれるイミングを逃さない。

 

 椅子の背に身体をもたれさせ一息つく。長時間(かしず)かれる事に慣てきているとはいえ一人の時間というのは貴重だ。豪華で広々とした部屋にいるにも関わらず、誰も乗っていないエレベーターで放心しているサラリーマンのようだった。

 

「よし。行くか。」

 

 しばらく心を休めたアインスは、気合いを入れ直して立ち上がる。この探索は思いついてから楽しみにしていたものだったのだ。自分が行く事は出来なくとも気持ちが高ぶるのは止められない。

 

 味気ない現実を振り払うようにユグドラシルにのめり込んでいた時のような高揚感。 たとえその時の仲間が居なくても、その子供といえる者たちが居てくれるのだから。

 

 そしてアンデッドである事を忘れるなとでもいうように高まった感情が抑制される。思わず舌打ちをしたくなる瞬間だが、逆に助けられてもいるので、なんとも微妙な気持ちになってしまった。

 

「まったく。せっかく気分転換できていたのにな。」

 

  そうぼやきながら丸めた地図をアイテムボックスに突っ込み、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓6階層の守護者であるアウラ・ベラ・フィオーラは、広大で自然溢れるこの階層の中にある湖にいた。その側には漆黒の毛皮を持つ巨大な狼、フェンリルのフェンが寄り添っている。アウラが使役する魔獣のなかでもお気に入りの一体だ。

 

 今日はトブの大森林に建造した偽ナザリック兼緊急避難場所に異常がないか点検し、ついでにその周辺を見回りながらナザリックに帰ってきた。ナザリックで食事をとるためだが少し時間が空いていたので、走り寄ってきたフェンを連れて水浴びに来ている。

 

 フェンを先に水浴びさせ今度は自分もというところで、この階層にナザリックの支配者が転移してきたことにいち早く気付いた。

 

 もしかすると自分に用事かあるかも知れない。主を待たせるのは良くない事なので、フェンに別れを告げアインズの気配のする方向へ軽やかに疾走する。

 

 すぐに円形闘技場に到着し、通路を通ると闘技場の中央にアインスが立っている。空中に浮いた鏡を集中して見ているその後ろ姿に大きな声をかけた。

 

「いらっしゃいませ、アインス様!今日はどうなされたのですか?」

「ああ、邪魔しているぞアウラ。ちょっとした情報収集なのだが、この鏡はカウンターに脆弱なんでな。周りに何もない場所が必要だったんだ。」

 

 その言葉にアウラは内心、首を捻った。そのような事は配下達に任せればいいのに、と。

 

「遠方の調査ならば、ニグレドに任せればいいんじゃ?」

 

 ニグレドとはアルベドの姉として創造され情報系魔法に特化している。アインズもそれは分かっているが、会うためには特殊な演出(トラウマ)があるため少し苦手でもある。

 

 それに出来る事は自分でやるという自由は欲しい。最終的にはナザリックの利益に繋がる事かも知れないが、今回は自分の息抜きにする気満々だ。

 

「確かに大がかりな捜索や、緊急を要する案件などにはニグレドがうってつけだが今回は軽く見る程度だ。現地に行く者に詳しく調査をさせるつもりだからな。」

「なるほどー。」

 

 アインズの斜め後ろから上半身だけを横に傾け鏡をのぞき込んだアウラは、そこに映るかなり巨大であろう山の景色を目にした。天候か悪く頂上は見えないが、雲から下に伸びる山肌は麓までなだらかな曲線を描きかなりの面積があるように見える。

 

「ここは山小人(ドワーフ)の住処とは違うところですね。ここを調査されるんですか?」

「うむ。といっても私が行くわけではないがな。」

 

 アインズは、これから 本格的に力を入れていく新たな冒険者の育成計画をかいつまんでアウラに伝える。その過程でアウラにこの任務がうってつけだという話になった。

 

「アウラはテイマーでもあるからな。そういう意味でもアウラが適任かもしれないな。」

「あたしにお任せください!でもアインズ様は来られないんですよね。」

 

 すこししょんぼりした表情でアインズを窺う。表情をころころ変える子供の自由さに保護者的な心がうずくが、アルベドとの約束もある。

 

「確かに一緒に行く事は出来ないが調査の様子をナザリックでモニタリングする事になっている。それだけでも私は楽しめるぞアウラ。」

「そうだったんですね、では恥ずかしい所をお見せしないように頑張ります!」

 

 意気込むアウラの頭をなでながら、ふとこの世界のモンスターもティムできるのか疑問に思った。山小人達を尋ねた際、アゼルリシア山脈にいたフロストドラゴンの一匹をアウラに与えた。

 

 そのドラゴンはアウラが元々使役していたフェンリル達のようにテイムした事になっているのか、ただ殺されるかもしれないという恐怖から従っているのか。この世界でテイムできても裏切る可能性はあるのかどうか。

 

(あまり試したくは無いが、そういう実験も今後していかなければならないか?)

 

 ナザリックに属する者以外、深く信用する事はないだろう。そうアインズは考えているが、外部の存在にどの程度の事を任せるのか段階を設けていかなければ効率も何もあったものではないだろう。

 

(まあ下手の考え休むに似たりというしな。これは保留だ保留。)

 

 今後の課題は明日以降の自分に任せ切り替える。遠隔視の鏡に映った映像を見ながらアングルを変え、周辺の地形を確認していく。

 

 山の周辺をぐるりと回ると、まず目に付いたのは大きな川だ。山麓に広がる森林をかき分け、北と南へ分かれて大量の水を運んでいる。

 

 トブの大森林には比ぶべくもないほ小さいが、上空や横からは中を見通せないほどにはこの森林の密度は濃い。山から離れていくに従いほぼ草原といった感じだ。見渡しが良くモンスターの影が見あたらないようだ。そのほかには湿地帯や一部砂漠化しているような場所もある。

 

「なかなか広いな。まあアウラにすれば難易度が高い調査ではないだろうが。」

「勿論です。私のペットを数匹送り込めば事足りますが、今回は掃除ではなく調査なんですよね。」

「ああ、これに関しては時間をかけて良いぞ。うん、見落としがないかしっかりとな。」

 

 調査に時間が掛かればそれだけ訳の分からない報告書に目を通す時間が短くなる。ただ先送りにしているだけなのだが、楽しみが先にあればどんな苦行でも頑張れるというアインズが到達した一つの答えでもあった。

 

「それでアウラ、お前が連れて行きたい者の候補はあるか?意見を聞かせてくれ。」

 

 そう言われ、顎に手をやり思案する。弟のマーレを連れて行かないと拗ねるだろうか?まあその時になったら交替してあげればいいか、などと姉らしい事を考えていた。

 

 ありのままの状態を調査するために出来れば少数で行いたいというのが主人からの要望だ。であれば連れて行くペットは十体以下がいいだろう。

 

「アインズ様。あたしのペットは隠密に特化しているものもおりますが、そうじゃない者も連れて行くにはどうすればいいでしょうか?」

「ああ、それならば宝物殿に行けば使えるアイテムがあるはずだ。パンドラズ・アクターに言っておこう。」

 

「有り難うございます。そうだ、モンスターを調査するといったらあいつはどうですか?」

「あいつ?」

「はい。同族を探すと約束して貰ったと言っていましたよ。」

 

 同族探し。自分にも通じる言葉を聞き思い出す。そういえば(しもべ)にした当初、その外見からまったく期待していなかったが以外にも役に立ってくれた存在がいた。

 

「あいつか。確かに私の役に立ってくれたのにもかかわらず、褒美らしい褒美も与ていなかったな。」

 

 特徴的なその姿を思い浮かべる。魔導国の運営も優秀な配下のおかげもあって軌道に乗っている。アインズが姿を変えて演じている冒険者の一員ではあるが、少しの間居なくなっても影武者のパンドラズ・アクターなら巧くやるだろう。

 

 先ほどのアイテムの事もあり自らが生み出した黒歴史と<伝言>で話しながら、アウラと共に執務室に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 人間の大国を縦に分けるアゼルリシア山脈の南端には、トブの大森林という名の険しい密林が広がっている。かつてそこには森の賢王と呼ばれる強大な魔獣が存在していた。この異名は以前己の縄張りで人間の戦士が言ったものを気に入り、見逃したことで外に広まったものだ。

 

 人間の何倍もの巨躯を白銀の毛並みで纏い、尾は硬い鱗に覆われヘビのようにしなり、前足に生えた爪は生半可な鎧など意味を成さない程鋭い。英知を宿したその瞳は相対した者の真意を見抜く・・・と言われていた。ちなみに雌である。

 

 眠っていたはずの自分がいきなり恐怖に襲われ飛び起きた後、何かに突き動かされるように走り回っていた矢先、絶対の忠誠を誓うべき主君との邂逅を果たした。あのとき殺されずに済んで良かったと今は思う。

 

 その後ハムスケという名を貰い、主の為に己を鍛え、アインズ・ウール・ゴウンの忠臣としての自覚を持って生きているつもりだ。

 

 そんな彼女は今夢の中にいる。大森林に生きていた頃は腹がへっては獲物を狩り、満腹になったら寝るという所謂食っちゃ寝生活をしていた。長年染みついた習性というのはそうそう抜けるものではないと言う事だろう。

 

 普段は魔導国首都エ・ランテルにある馬小屋に詰めているが、今いる場所はナザリック地下大墳墓の地表部分にある墓地。草木が綺麗に刈り整えられ、暖かい日差しが降り注ぐ一角で暢気にいびきをかいていた。

 

 こんなところで寝こけている理由は、エ・ランテルからナザリックに運ぶ物資の運搬を手伝ったからである。要は暇だった。ハムスケの主な仕事は漆黒の英雄と人間達に呼ばれている冒険者モモンの騎乗魔獣として付き従う事なのだが、最近ではその機会もめっきり減っている。

 

 ナザリックの仕事も手伝おうとしたハムスケだったが、NPC達それぞれに割り振られている大事な仕事を渡すわけは無い。それでもしつこく食い下がったハムスケに、困ったNPC達から連絡を貰ったユリ・アルファお手製の料理で餌付けされた後地上の警備を任された。そこはアインズ自らが服従を認めたペット、無碍には出来なかったようだ。

 

 満腹になった獣は眠るもの。その例に漏れず、ハムスケも良い日差しに照らされてしまうとついつい睡魔に負けてしまったのだった。

 

 その時地面を踏みしめる足音が聞こえた。暢気に寝こけるハムスケを目指して来るのは戦闘メイドプレアデスのナーベラル・ガンマ。ナザリックの外では美姫ナーベとして同じくモモンに付き従う冒険者仲間でもある。

 

「ハムスケ。ハムスケ起きなさい。」

 

 やや呆れ顔だが嫌悪の色はない。元は野生に生きていた獣なのだからという思いもあるが、最近はその主への一途な忠誠心に多少は認めてやっても良いかと考えるようになっていた。

 

「アインズ様がお呼びになっています。早く起きなさい。」

 

 アインズという名前に髭がぴくりと反応し、丸く大きな瞳が開いていく。

 

「むむぅ。ナーベラル殿ではござらんか。・・・眠ってしまって申し訳ないでござる。」

 

 口から出ていた涎をぬぐい、自分が地上の警備をしていたのを思い出した。

 

「それは良いから。その寝ぼけた顔のままでアインズ様に会うなど不敬よ。早くシャキッとしなさい。」

 

 不敬など忠臣にあるまじき行いだ。ガバッと起きあがったハムスケは四本足を踏ん張って意味く臨戦態勢になった。どうやらまだ寝ぼけているようだ。ナーベラルの氷のように冷たい視線に寝ぼけ状態から強制的に覚醒したハムスケは歩きながら間いかける。

 

「殿のお呼びが掛かるという事は、冒険者関係の事でござろうか?」

「それはわからないわ。しかしアインズ様の勅命を頂けるというのは僕としてこれ以上ないほどの栄誉であり、同時に失敗が許されないものでもあるわ。肝に銘じておくように。」

 

 それを聞いて気持ちを引き締めるハムスケ。何にせよ暇だったのはここまで。望んでいた主のための仕事が出来る喜びと、若干の緊張を胸に抱き転移門がある中央霊廟へと向かっていった。

 







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