俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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『死神』は『魔王』に対する唯一の懸念のためだけにそれをやった。
見返りを求めぬ『友情』として行った。『友』として確認したかった。
-『教授』視点-
ナザリック地下大墳墓にて、
『魔王』に内緒で『裏工作』をしたいと、『死神』から私にメッセージが来た。
依頼された『内容』にも一部当て嵌まるから、
『教授』たる私は策を弄して、
『死神』がナザリックの面々と接触できる『隙』を作った。
『魔王』にバレないように。
だが、
「そうだともデミウルゴス君。
その変態ドラゴンを取っ捕まえれば、『異種交配』が可能なのだ。
是非、執事長殿に教えてあげるとよい。…きっと喜ぶに違いない」
誰かこいつを止めろ。止めてくれ。
「ああ、シャルティア嬢よ。気になされるな…
ロリでも『異形種』ならセーフ。この『世界』は全て18歳以上なのだ。
『世界』は愛に満ちている。
…これは我が友『聖騎士』の遺言だ」
私の手に負えない。
この『変態』、毎回、会う度に『人格』作って、私の思考をズラしやがる。
断ろうにも、最初のナザリックとの接触で、内部への『伝手』を自力で作りやがった。
確かに、元従属ギルドメンバーなら余裕だろうが、
ここまで『主観』をズラされると私には対処できない。
最悪なのが、『死神』の対応だ。
「貴様が、協力しないと『魔王』様にバレるから連帯責任だ。
…協力してくれなきゃこのスイッチに手が滑るかもしれない」
とか言って赤ん坊みたいに、だだこねやがる。
私を、恨んでいるから本気なのだ。この『死神』。
…私は、協力せざる負えない。
完全に主導を握られると知っていても。
それに、気が付いた。
私、『教授』と『死神』が手を組めば、客観と主観の両方を騙せる。
…この『世界』全てを欺ける。
…『魔王』には絶対バレない。
皮肉にも、私の『能力』を最大限生かせるのだ。この『死神』。
「そうだ!シマバラ君!わかっているじゃあないか!
今すぐにでも、我が従者にもその『理想』を書き写させたいくらいだ!
それは『魔王』様も喜ばれること請け合いだ。
…我が保証する。是非やると良い。寧ろやれ」
しかし、だ。
この『変態』をどうにかしろ。絶対、後で『災い』になる。
「む!」
ピタリと『変態』が止まる。『弱点』が来た。
「…これは、あの『女帝』の気配。
逃げるぞ。我が、仮初の同盟者よ!」
ああ、『王女様』私を助けてくれ。
つい先日のお茶会での無礼は詫びるから。
…できれば『魔王』に助けてもらいたいけど、無理なんだよ。
全て、バレるから。
魔王の『認識』を、『世界』を騙していることが。
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-『イビルアイ』視点-
帝国魔法学院に潜入した私はすぐに気が付いた。
『生徒会長』がゴウン様の、想定以上に近づいてくる。
お茶会やら、食事やら、魔法の研究についてやらグイグイくる。
中身『盟主』が、私に、だ。
…私は、『手紙』が届くまではゴウン様に好きにして良いと命じられていた。
当初の計画では、私の『不自然』を誤魔化すために、
『盟主』として認識してしまう私に配慮して、
『生徒会長』を突き放して良いとまで言われていた。
だが、想定以上に、『盟主』が焦り過ぎている。
私の『不自然』さも気にせずに突っ込んでくる。
『教授』のやり過ぎのせいだ。
『生徒会長』の影響力が完全になくなっている。
…『教授』が全力出したら、ああなるかもしれない。
きっと、ゴウン様も『想定外』なはずだ。
…『教授』の洗脳スキルが想定外。
ゴウン様。『教授』がやり過ぎです。
このままだと、『策』まで持ちません。
そう確信した私は、メッセージを送る。
ゴウン様には、緊急事態のみにと言われたが、もはや私の手に負えない。
…力及ばずに申し訳ありません。
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-『モモンガ』視点-
イビルアイのメッセージを受けた俺は、不味いと思った。
全てが、上手く行きすぎている。
これでは、『手紙』がいらない。
…『手紙』を出せば、『盟主』が即座に鎮圧できてしまう。
『盟主』が動いてしまう。『昇級試験』前に。
『手紙』のアルシェの友がキーアだったという情報のみで動く。
現段階で、学長、『教授』に支配され過ぎている。帝国魔法学院が。
…想定していた『罠』が機能しない。
疑り深い盟主だからと用意していた全ての『策』が不要になった。
本来なら『囮』となるはずのジエットが不要になった。
…本来の『策』では、
ジエットから得た情報を使い、学長の娘『キーア』と接触する。
『盟主』は、手紙通りのような少女『キーア』を見る。
人見知りで警戒しがちな『少女』の解くために時間をかける。
…イビルアイも『盟主』ではなく、基本は『生徒会長』だと教えている。
さらに、『フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド』は、被害者だと伝えている。
とはいえ、イビルアイが潜入初期のなれない状態で、
フリアーネを『盟主』と思い警戒してしまっても、
『生徒会長』を突き放しても怪しまれない『手紙』の内容にした。
さらに帝国魔法学院の『昇級試験』が近い時期だ。
…『盟主』ならこれを魔法儀式に利用する。
『盟主』なら、まず建築学科の生徒『オーネスティ・エイゼル』を使い、
お人よしのジエットに助けさせる。
オーネスティにジエットは簡単に取り込まれるだろう。
…余裕だ。ジエットの『身内』判定に引っかかる。
ジエットに取って、都合の良い『昇級試験』になるように誘導する。
大貴族の三男がジエットを妨害して、
ジエットの班員が足りなくなる状況を利用して、人数を集めるのに夢中にさせる。
ジエットからキーアと『生徒会長』を遠ざける。
『盟主』にとって、完全に邪魔だからだジエットは。
殺すのも『生徒』だからやや面倒になる。
バレる可能性があるなら遠ざける方向に持っていくはずだ。
イビルアイにもジエットを避けるように言っておいた。
…ジエットの、『身内』判定に引っかからないための『手紙』でもあった。
何せ、ジエットに『利用』されたのだ。キーアは。
キーアは、『手紙』で自分を利用されたことに、気が付いた体でジエットに接する。
これ以上何かしたら、ジエットとその関係者を、『学院』から追い出すと脅す予定だった。
勿論、そんなことしないが。
…する勢いの親馬鹿を『教授』に演じさせている。
全ては、人目のつかないところで儀式をする『手段』として、
『盟主』が昇級試験を利用するために計画されていた。
さらに、『法国』を巻き込んだ演出まで用意していた。
具体的には、
『主演』漆黒聖典。
『ヒロイン』キーア。
『敵役』盟主。
『観客』は被害者だ。
…口止めできる人材を配備していた。
非公式任務でも微妙に伝わる程度の影響力を持つ人物。
『生徒会長』フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドその人だった。
公爵家に残された悲劇のヒロインでもある。
ズーラーノーンに汚染されたグシモンド家はもはや、滅びの運命にあるが、
『盟主』に全ての責任を押し付ける予定だった。
『鮮血帝』に無理を言ってお願いしていたのに。
若禿の特効薬も渡したのに。
…それが、全部、パーだ。
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…イビルアイは、教授のせいだというが、有り得ない。
これは、『教授』を救うための『舞台』だ。
彼女もそれをわかっていた。だから、有り得ない。
『教授』が自らの意思で失敗することは。
…万が一に備え、俺の方でも『失敗』を想定していた何段階もの『策』を用意していた。
故に、この展開にも最低限の『策』はあった。
評議国と魔王国との関係構築を主体に置いた次善策。
守るために、教授の有用性を理解して貰う二流の『策』。
この策では、完全には『教授』を守れない。イビルアイも同様だ。
俺とイビルアイで『盟主』を封じることで、
魔王国への十三英雄、評議国の印象を和らげる。
法国には周囲のズーラーノーン関係者を捕縛してもらう。
イビルアイは主体的に活躍したから、多少法国との関係は改善するはずではある。
対価の法国から完全に守るというのは、できなくはない。
しかし、イビルアイを、ナザリックに縛り付けることになる。なってしまう。
イビルアイが、俺の『側』にいてくれるかは無理だろう。
…そもそもイビルアイとは、『戦力』として取引したのだ。
大体、イビルアイが『魔王』を完全に受け入れるはずがない。
『蒼の薔薇』は、俺がラナーを変えてしまったことを恨んでいる。
実際、それは事実だから。
だから、イビルアイも俺を嫌っているはずなのだ。内心は。
…『生徒会長』には助けた恩を売る。グシモンド家は存続させる。
ジエットは知らん。後日、アルシェに『説得』させるしかない。
もはや、『策』ともいえないゴリ押しだ。
それに、ほぼ俺の得にしかならない。
さらに言えば、この『策』は、イビルアイが、『キーア』として失敗した時の『策』だ。
…『教授』の失敗案は別に用意してある。
…だが、こうならないように、ナザリックにも『監視』はあった。
本来の『作戦』を実行できる許容範囲内の『ズレ』と報告されていた。
…まさか、また俺は嵌められているのか?ナザリック全体から。
…そう、仮定した場合、考えられる可能性はたった一つだ。
一つしかない。有り得ない可能性。
教授とスルメさんが組んだ。
これは、もはや誰にも止められない組み合わせだ。
弱点がない。二人が組めば。本来なら。
主観を騙せるスルメさんと、客観的に騙せる『教授』。
これは、『世界』を欺ける組み合わせだ。
…全てが騙せる。騙しきれる。
だが、有り得ない。
スルメさんが友の子を殺した『教授』を許すはずがない。
教授だって近づかないはずだ。
…『教授』の好奇心が刺激される可能性が僅かにあった。
一応聞いてみるか。『教授』に。
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-『教授』視点-
...『魔王』に勘付かれた。
『死神』が滅茶苦茶やり過ぎたせいだ。
これ、私は悪くない。
私は、本当に最低限で最高の結果を出してやるつもりだった。
だが、『死神』。
ナザリックを動かすのは、どう考えてもやり過ぎだ。
…流石に違和感に気が付く。
『貧乏魔王』は、前にナザリック全体で、嵌められかけたと愚痴っていたから。
だが、『死神』は問題ないという。
私がこれから言うように、言えば全く問題はないと。
...私も確かに問題ないと思う。
だが、これを私に、本気で言わせる気か?
魔王が、私を見つめる。やや冷たい目だ。
疑っている。
『真実』の可能性に確実に気が付いている。
「『教授』。私が言いたいことはわかるよな?」
『魔王』からの質問は、意外と遠回しな言い方だった。
…ああ、わかった。
『貧乏魔王』は、私を、私達を疑ってはいるが信じ切れていない。
自分の有り得ない『仮説』を。
…合っているよ。それ。
「『魔王』は私が自分の意思で作戦に失敗したとでも言いたいのか?」
そう、私の意思ではない。『死神』の依頼だ。
本当は、私は内心嫌だった。
…『魔王』が私を守るために作った物を勝手に変えるのは。
「…嘘ではないな。では、次の質問だ」
きた、本命だ。
「スルメさんとお前は裏で繋がっているか?」
そう。ここはどうしても避けられない。
だから、誤魔化すしかない。
「…私は君を愛しているんだ。
わざと君に迷惑をかける真似は決してしない」
答えになってない。
だけど、効く。
この『魔王』に取って、致命的な『隙』だから。
「そ、そうか。…疑って悪かった。
そもそもこれは俺の利点にしかならない。
…『偶然』か。有り得なくはない。
どんなに備えても、『想定外』は必ず起こり得る...か」
偶然じゃないよ。想定外じゃない。全部仕組まれている。
だけど、言わない。言えない。
「『最善策』に拘って、コンコルド効果による失敗は避けたい。
しかし、スルメさんをどう説…
いや、何でもない!今のは、何でもないからな!
俺は帰る。…邪魔したな」
そうまくし立てて、魔王は転移した。
...私の下を去った。
...帰っちゃったよ。あいつ本当に。
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『魔王』には本当の気持ち、ストレートな『愛』が効くのだ。
それは、彼にとって、致命的な弱点だ。
…昔のゲームとかによくある話。
ヤバい。私の罪悪感ヤバい。
『素』で邪悪を行使できる私が、『教授』が罪悪感を抱いている。
私は数分悶えた。苦しくて。
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…さて、気持ちを切り替えよう。
今の今まで、アイテムで気配を消してもらっていたキーノに、
これからの『説明』をしないといけない。
『親』の、私の『愛』の告白を受けて動揺した『魔王』。
それを見た『娘』の動揺はいかに!
...『親子』間での恋愛の修羅場とか昔の、昼ドラじゃないんだぞ。
あの『死神』、シャルティアと余計な約束しやがって!
…良く考えたら、経緯こそ違うが、最初に考えていた、私の『策』でもあった。
アレ?
そんな馬鹿な。あの『変態』と私の『思考』が一致しただと…
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我に返った私は、キーノを嗾けてみた。
『魔王』への愛を。
…キーノは完全に嵌った。
『魔王』の虜だ。もはや。
本当に、チョロすぎる。このロリ吸血鬼。
...さて、チェックメイトだ。魔王も前のようにはいかない。いけない。
今度は、『魔王』が完全に避けられない。
…たった一つの『心配』でここまでするとか、やっぱりあの『変態』頭おかしい。
私には、ここまで深い『友情』は、やはり意味不明だ。
最後の最後に、全て気がつくこの『策』。
しかし、その『過程』は決して気が付かれない。
『死神』から全て打ち明けられて、許すんだろうなぁ…『魔王』なら。
…寧ろ喜びそうだ。そこまで心配してくれて。
ああ、本当に忌々しい『死神』だ。
それは、本当は、私がやりたかったことだから。
…クソが!