俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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完全に踊らされる知性の化け物。
『死神』は『魔王』に対する唯一の懸念のためだけにそれをやった。
見返りを求めぬ『友情』として行った。『友』として確認したかった。


第七話 失敗

-『教授』視点-

 

 

ナザリック地下大墳墓にて、

 

『魔王』に内緒で『裏工作』をしたいと、『死神』から私にメッセージが来た。

 

 

依頼された『内容』にも一部当て嵌まるから、

 

『教授』たる私は策を弄して、

 

『死神』がナザリックの面々と接触できる『隙』を作った。

 

『魔王』にバレないように。

 

 

 

だが、

 

 

 

「そうだともデミウルゴス君。

 

 その変態ドラゴンを取っ捕まえれば、『異種交配』が可能なのだ。

 

 是非、執事長殿に教えてあげるとよい。…きっと喜ぶに違いない」

 

誰かこいつを止めろ。止めてくれ。

 

 

 

「ああ、シャルティア嬢よ。気になされるな…

 

 

 ロリでも『異形種』ならセーフ。この『世界』は全て18歳以上なのだ。

 

 『世界』は愛に満ちている。

 

 

 …これは我が友『聖騎士』の遺言だ」

 

私の手に負えない。

 

 

この『変態』、毎回、会う度に『人格』作って、私の思考をズラしやがる。

 

 

断ろうにも、最初のナザリックとの接触で、内部への『伝手』を自力で作りやがった。

 

確かに、元従属ギルドメンバーなら余裕だろうが、

 

ここまで『主観』をズラされると私には対処できない。

 

 

最悪なのが、『死神』の対応だ。

 

 

「貴様が、協力しないと『魔王』様にバレるから連帯責任だ。

 

 …協力してくれなきゃこのスイッチに手が滑るかもしれない」

 

とか言って赤ん坊みたいに、だだこねやがる。

 

 

私を、恨んでいるから本気なのだ。この『死神』。

 

 

…私は、協力せざる負えない。

 

完全に主導を握られると知っていても。

 

 

それに、気が付いた。

 

私、『教授』と『死神』が手を組めば、客観と主観の両方を騙せる。

 

…この『世界』全てを欺ける。

 

 

…『魔王』には絶対バレない。

 

皮肉にも、私の『能力』を最大限生かせるのだ。この『死神』。

 

 

 

「そうだ!シマバラ君!わかっているじゃあないか!

 

 今すぐにでも、我が従者にもその『理想』を書き写させたいくらいだ!

 

 それは『魔王』様も喜ばれること請け合いだ。

 

 …我が保証する。是非やると良い。寧ろやれ」

 

しかし、だ。

 

 

この『変態』をどうにかしろ。絶対、後で『災い』になる。

 

 

 

「む!」

 

ピタリと『変態』が止まる。『弱点』が来た。

 

 

 

「…これは、あの『女帝』の気配。

 

 逃げるぞ。我が、仮初の同盟者よ!」

 

ああ、『王女様』私を助けてくれ。

 

つい先日のお茶会での無礼は詫びるから。

 

 

…できれば『魔王』に助けてもらいたいけど、無理なんだよ。

 

全て、バレるから。

 

 

魔王の『認識』を、『世界』を騙していることが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-『イビルアイ』視点-

 

 

帝国魔法学院に潜入した私はすぐに気が付いた。

 

『生徒会長』がゴウン様の、想定以上に近づいてくる。

 

 

お茶会やら、食事やら、魔法の研究についてやらグイグイくる。

 

 

中身『盟主』が、私に、だ。

 

 

…私は、『手紙』が届くまではゴウン様に好きにして良いと命じられていた。

 

 

当初の計画では、私の『不自然』を誤魔化すために、

 

『盟主』として認識してしまう私に配慮して、

 

『生徒会長』を突き放して良いとまで言われていた。

 

 

 

だが、想定以上に、『盟主』が焦り過ぎている。

 

私の『不自然』さも気にせずに突っ込んでくる。

 

 

 

『教授』のやり過ぎのせいだ。

 

『生徒会長』の影響力が完全になくなっている。

 

…『教授』が全力出したら、ああなるかもしれない。

 

 

 

きっと、ゴウン様も『想定外』なはずだ。

 

…『教授』の洗脳スキルが想定外。

 

 

ゴウン様。『教授』がやり過ぎです。

 

 

このままだと、『策』まで持ちません。

 

 

そう確信した私は、メッセージを送る。

 

ゴウン様には、緊急事態のみにと言われたが、もはや私の手に負えない。

 

 

…力及ばずに申し訳ありません。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-『モモンガ』視点-

 

 

イビルアイのメッセージを受けた俺は、不味いと思った。

 

 

全てが、上手く行きすぎている。

 

 

これでは、『手紙』がいらない。

 

…『手紙』を出せば、『盟主』が即座に鎮圧できてしまう。

 

 

『盟主』が動いてしまう。『昇級試験』前に。

 

『手紙』のアルシェの友がキーアだったという情報のみで動く。

 

 

現段階で、学長、『教授』に支配され過ぎている。帝国魔法学院が。

 

…想定していた『罠』が機能しない。

 

 

疑り深い盟主だからと用意していた全ての『策』が不要になった。

 

 

本来なら『囮』となるはずのジエットが不要になった。

 

 

 

…本来の『策』では、

 

ジエットから得た情報を使い、学長の娘『キーア』と接触する。

 

『盟主』は、手紙通りのような少女『キーア』を見る。

 

人見知りで警戒しがちな『少女』の解くために時間をかける。

 

 

…イビルアイも『盟主』ではなく、基本は『生徒会長』だと教えている。

 

さらに、『フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド』は、被害者だと伝えている。

 

 

とはいえ、イビルアイが潜入初期のなれない状態で、

 

フリアーネを『盟主』と思い警戒してしまっても、

 

『生徒会長』を突き放しても怪しまれない『手紙』の内容にした。

 

 

さらに帝国魔法学院の『昇級試験』が近い時期だ。

 

…『盟主』ならこれを魔法儀式に利用する。

 

 

『盟主』なら、まず建築学科の生徒『オーネスティ・エイゼル』を使い、

 

お人よしのジエットに助けさせる。

 

 

オーネスティにジエットは簡単に取り込まれるだろう。

 

…余裕だ。ジエットの『身内』判定に引っかかる。

 

 

ジエットに取って、都合の良い『昇級試験』になるように誘導する。

 

大貴族の三男がジエットを妨害して、

 

ジエットの班員が足りなくなる状況を利用して、人数を集めるのに夢中にさせる。

 

 

ジエットからキーアと『生徒会長』を遠ざける。

 

『盟主』にとって、完全に邪魔だからだジエットは。

 

殺すのも『生徒』だからやや面倒になる。

 

バレる可能性があるなら遠ざける方向に持っていくはずだ。

 

 

イビルアイにもジエットを避けるように言っておいた。

 

 

…ジエットの、『身内』判定に引っかからないための『手紙』でもあった。

 

何せ、ジエットに『利用』されたのだ。キーアは。

 

 

キーアは、『手紙』で自分を利用されたことに、気が付いた体でジエットに接する。

 

 

これ以上何かしたら、ジエットとその関係者を、『学院』から追い出すと脅す予定だった。

 

勿論、そんなことしないが。

 

…する勢いの親馬鹿を『教授』に演じさせている。

 

 

全ては、人目のつかないところで儀式をする『手段』として、

 

『盟主』が昇級試験を利用するために計画されていた。

 

 

 

さらに、『法国』を巻き込んだ演出まで用意していた。

 

 

具体的には、

 

『主演』漆黒聖典。

 

『ヒロイン』キーア。

 

『敵役』盟主。

 

『観客』は被害者だ。

 

…口止めできる人材を配備していた。

 

非公式任務でも微妙に伝わる程度の影響力を持つ人物。

 

『生徒会長』フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンドその人だった。

 

 

公爵家に残された悲劇のヒロインでもある。

 

ズーラーノーンに汚染されたグシモンド家はもはや、滅びの運命にあるが、

 

『盟主』に全ての責任を押し付ける予定だった。

 

 

『鮮血帝』に無理を言ってお願いしていたのに。

 

若禿の特効薬も渡したのに。

 

 

 

…それが、全部、パーだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…イビルアイは、教授のせいだというが、有り得ない。

 

これは、『教授』を救うための『舞台』だ。

 

 

彼女もそれをわかっていた。だから、有り得ない。

 

『教授』が自らの意思で失敗することは。

 

 

…万が一に備え、俺の方でも『失敗』を想定していた何段階もの『策』を用意していた。

 

 

故に、この展開にも最低限の『策』はあった。

 

 

 

評議国と魔王国との関係構築を主体に置いた次善策。

 

守るために、教授の有用性を理解して貰う二流の『策』。

 

 

この策では、完全には『教授』を守れない。イビルアイも同様だ。

 

 

俺とイビルアイで『盟主』を封じることで、

 

魔王国への十三英雄、評議国の印象を和らげる。

 

法国には周囲のズーラーノーン関係者を捕縛してもらう。

 

イビルアイは主体的に活躍したから、多少法国との関係は改善するはずではある。

 

 

対価の法国から完全に守るというのは、できなくはない。

 

 

しかし、イビルアイを、ナザリックに縛り付けることになる。なってしまう。

 

 

イビルアイが、俺の『側』にいてくれるかは無理だろう。

 

…そもそもイビルアイとは、『戦力』として取引したのだ。

 

 

大体、イビルアイが『魔王』を完全に受け入れるはずがない。

 

『蒼の薔薇』は、俺がラナーを変えてしまったことを恨んでいる。

 

実際、それは事実だから。

 

だから、イビルアイも俺を嫌っているはずなのだ。内心は。

 

 

…『生徒会長』には助けた恩を売る。グシモンド家は存続させる。

 

 

ジエットは知らん。後日、アルシェに『説得』させるしかない。

 

 

もはや、『策』ともいえないゴリ押しだ。

 

 

それに、ほぼ俺の得にしかならない。

 

 

さらに言えば、この『策』は、イビルアイが、『キーア』として失敗した時の『策』だ。

 

…『教授』の失敗案は別に用意してある。

 

 

 

…だが、こうならないように、ナザリックにも『監視』はあった。

 

本来の『作戦』を実行できる許容範囲内の『ズレ』と報告されていた。

 

 

…まさか、また俺は嵌められているのか?ナザリック全体から。

 

 

 

…そう、仮定した場合、考えられる可能性はたった一つだ。

 

一つしかない。有り得ない可能性。

 

 

教授とスルメさんが組んだ。

 

 

これは、もはや誰にも止められない組み合わせだ。

 

 

弱点がない。二人が組めば。本来なら。

 

主観を騙せるスルメさんと、客観的に騙せる『教授』。

 

 

これは、『世界』を欺ける組み合わせだ。

 

…全てが騙せる。騙しきれる。

 

 

だが、有り得ない。

 

スルメさんが友の子を殺した『教授』を許すはずがない。

 

 

教授だって近づかないはずだ。

 

 

…『教授』の好奇心が刺激される可能性が僅かにあった。

 

 

一応聞いてみるか。『教授』に。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

-『教授』視点-

 

 

...『魔王』に勘付かれた。

 

 

『死神』が滅茶苦茶やり過ぎたせいだ。

 

 

これ、私は悪くない。

 

私は、本当に最低限で最高の結果を出してやるつもりだった。

 

 

だが、『死神』。

 

 

ナザリックを動かすのは、どう考えてもやり過ぎだ。

 

…流石に違和感に気が付く。

 

 

『貧乏魔王』は、前にナザリック全体で、嵌められかけたと愚痴っていたから。

 

 

だが、『死神』は問題ないという。

 

私がこれから言うように、言えば全く問題はないと。

 

 

...私も確かに問題ないと思う。

 

 

だが、これを私に、本気で言わせる気か?

 

 

魔王が、私を見つめる。やや冷たい目だ。

 

疑っている。

 

『真実』の可能性に確実に気が付いている。

 

 

 

「『教授』。私が言いたいことはわかるよな?」

 

『魔王』からの質問は、意外と遠回しな言い方だった。

 

 

…ああ、わかった。

 

 

『貧乏魔王』は、私を、私達を疑ってはいるが信じ切れていない。

 

 

自分の有り得ない『仮説』を。

 

 

…合っているよ。それ。

 

 

 

「『魔王』は私が自分の意思で作戦に失敗したとでも言いたいのか?」

 

そう、私の意思ではない。『死神』の依頼だ。

 

本当は、私は内心嫌だった。

 

 

…『魔王』が私を守るために作った物を勝手に変えるのは。

 

 

「…嘘ではないな。では、次の質問だ」

 

きた、本命だ。

 

 

「スルメさんとお前は裏で繋がっているか?」

 

そう。ここはどうしても避けられない。

 

だから、誤魔化すしかない。

 

 

「…私は君を愛しているんだ。

 

 わざと君に迷惑をかける真似は決してしない」

 

答えになってない。

 

 

だけど、効く。

 

この『魔王』に取って、致命的な『隙』だから。

 

 

「そ、そうか。…疑って悪かった。

 

 そもそもこれは俺の利点にしかならない。

 

 …『偶然』か。有り得なくはない。

 

 どんなに備えても、『想定外』は必ず起こり得る...か」

 

偶然じゃないよ。想定外じゃない。全部仕組まれている。

 

だけど、言わない。言えない。

 

 

「『最善策』に拘って、コンコルド効果による失敗は避けたい。

 

 しかし、スルメさんをどう説…

 

 いや、何でもない!今のは、何でもないからな!

 

 俺は帰る。…邪魔したな」

 

そうまくし立てて、魔王は転移した。

 

 

...私の下を去った。

 

 

...帰っちゃったよ。あいつ本当に。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『魔王』には本当の気持ち、ストレートな『愛』が効くのだ。

 

それは、彼にとって、致命的な弱点だ。

 

 

…昔のゲームとかによくある話。

 

 

ヤバい。私の罪悪感ヤバい。

 

 

『素』で邪悪を行使できる私が、『教授』が罪悪感を抱いている。

 

 

私は数分悶えた。苦しくて。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…さて、気持ちを切り替えよう。

 

 

今の今まで、アイテムで気配を消してもらっていたキーノに、

 

これからの『説明』をしないといけない。

 

 

 

『親』の、私の『愛』の告白を受けて動揺した『魔王』。

 

 

それを見た『娘』の動揺はいかに!

 

 

...『親子』間での恋愛の修羅場とか昔の、昼ドラじゃないんだぞ。

 

 

 

あの『死神』、シャルティアと余計な約束しやがって!

 

 

…良く考えたら、経緯こそ違うが、最初に考えていた、私の『策』でもあった。

 

 

アレ?

 

 

そんな馬鹿な。あの『変態』と私の『思考』が一致しただと…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

我に返った私は、キーノを嗾けてみた。

 

『魔王』への愛を。

 

…キーノは完全に嵌った。

 

 

『魔王』の虜だ。もはや。

 

 

本当に、チョロすぎる。このロリ吸血鬼。

 

 

 

...さて、チェックメイトだ。魔王も前のようにはいかない。いけない。

 

今度は、『魔王』が完全に避けられない。

 

 

 

…たった一つの『心配』でここまでするとか、やっぱりあの『変態』頭おかしい。

 

私には、ここまで深い『友情』は、やはり意味不明だ。

 

 

 

最後の最後に、全て気がつくこの『策』。

 

しかし、その『過程』は決して気が付かれない。

 

 

『死神』から全て打ち明けられて、許すんだろうなぁ…『魔王』なら。

 

…寧ろ喜びそうだ。そこまで心配してくれて。

 

 

 

ああ、本当に忌々しい『死神』だ。

 

 

それは、本当は、私がやりたかったことだから。

 

 

…クソが!

 

 







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