東京五輪が待ち遠しくない

 われながら気弱な書き出しだが、今回のコラムは大多数の読者から賛同を得ようなどと大それたことは考えていない。10人に1人ぐらいの読者の共感をいただければ幸いである。

 東京五輪の開催まで2年に迫った。競技会場が予定される各地で「あと2年」のイベントが開かれ、テレビもしきりに「待ち遠しいですね」と呼び掛ける。

 私はといえば、全然待ち遠しくない(個人の感想です)。

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 猛暑の日本列島とあって、同じ季節に本番を迎える東京五輪のコンディションを憂慮する声が上がっている。何しろ今年は「命に関わる危険な暑さ」の日々が続く。同程度の暑さになれば、屋外で行う競技の選手の健康が心配になる。

 ただ、私が東京五輪で懸念するのは、「暑さ」よりも「熱さ」の方だ。国民こぞって五輪を盛り上げましょう、という「熱さ」。開催期間前後、社会が五輪一色になる「熱さ」である。

 先のサッカーワールドカップ(W杯)日本代表初戦の日、新聞のNHK番組欄にはこう記載されていた。

 「90分間、日本代表が戦う姿に、ボールの行方に、目を凝らしましょう。そしてシェアしましょう。語り草になるドラマがあるかもしれません。出場国だけが味わえる幸福な時間をともに。行こうぜ!初戦」

 W杯でこの押しつけがましさなのだから、五輪ではいったいどうなるのか。

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 さらに心配なのは、その「熱さ」が「日本人なら五輪に協力して当然。何しろ国民的行事なのだから」という「圧力」に転じることだ。日本社会に根強い同調圧力が一層強まりそうだ。

 五輪の式典演出に関わる人気ミュージシャンが昨年、インタビューで五輪反対論に触れ「もう国内で争ってる場合ではありませんし」「いっそ、国民全員が組織委員会。そう考えるのが、和を重んじる日本らしい」などと語っていた。

 実は東京五輪への反対論、懐疑論は根強い。「復興五輪というが、本当に被災者のためになるのか」「欧米のテレビ放映優先で選手のことを考えていない」-。元競技選手からも批判の声が上がっている。

 こうした異論を「もう決まったこと」「和を乱すな」などの論理で封じ込めるようなことになれば、かえって「より良き五輪」の実現は遠のくだろう。

 「国民全員が組織委員会」…。それはちょっとご辞退申し上げたい。ちなみに東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長は森喜朗元首相である。

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 雑誌「週刊金曜日」(4月20日号)が「東京オリンピックなんて大っ嫌い! 最後の一人になっても2020年開催に反対する大特集」を組んでいた。

 元報道番組キャスターの久米宏さんが「一千億円の違約金を払って返上すべきだ。開催の負の面を考えれば安いもの」と気炎を上げている。さすがは久米さん、歯切れがいい。

 私は久米さんほどの気力はないので、「反五輪」「嫌五輪」というより、「厭(えん)五輪」「避五輪」といったスタンスだ。返上とまでは言わないが、せめて「NOが言える五輪」に、そして「お祭り騒ぎが嫌いな人を巻き込まない五輪」にしてほしいと願うばかりだ。

 (論説副委員長)

=2018/08/05付 西日本新聞朝刊=

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