地球温暖化で「ホットハウス・アース」の危険性 CO2削減でも=国際研究
マット・マクグラス環境担当編集委員
「ホットハウス・アース」――低予算のSF映画のタイトルのように聞こえるが、「温室と化した地球」とは、科学者にとっては深刻極まりない概念だ。
今後数百年にかけてうだるような暑さが続き、海面がそびえ立つほど上昇する、そんな状態に地球が向かっていく、その境界線を超えてしまうまで、あとわずかだというのだ。
たとえ世界各国が二酸化炭素(CO2)削減目標を達成したとしてもなお、我々はこの「不可逆な道」に転がり込んでしまうかもしれない。
ストックホルム大学ストックホルム・レジリエンス・センターが発表した研究結果によると、地球全体の気温が2度上がればこの現象が起きる。
気候変動を扱う国際研究チームが米国科学アカデミー紀要(PNAS)に寄せたこの論文では、向こう数十年で予想される温暖化によって、今は人類を守っている地球の自然現象が、人類の敵になる可能性があると指摘した。
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地球上の森林や海、地面は毎年45億トンもの炭素を吸収している。吸収されずに大気中に残る炭素は、気温上昇の原因となる。
しかし地球温暖化が進むと、こうした炭素吸収源は炭素の発生源となり、気候変動問題を悪化させるという。
地球が産業革命以前の気温から2度高い気温に近づけば近づくほど、何百万トンもの温暖化ガスを含有している高緯度の永久凍土や、アマゾンの熱帯雨林といった自然界の味方が、現在吸収している以上の炭素を吐き出してしまう可能性が高くなる。
各国政府は2015年、気温上昇を2度未満に抑え、上昇幅を1.5度以下を維持するために努力すると約束した。しかし研究チームによると、分析が正しければ現在の炭素削減計画では不十分だ。
ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム所長はBBCニュースに対し、「つまり気温が2度上がると、制御メカニズムを地球そのものに委ねることになるかもしれない」と話した。
「今は我々人間がコントロールを握っているが、気温上昇が2度を超えた段階で地球のシステムは友人から敵に変わる。人類の運命は、均衡を乱した地球のシステムに完全に委ねられる」
地球の気温は現在、産業革命前の水準から1度高く、10年ごとに0.17度上昇している。
ストックホルム大学の最新研究では10種類の自然システムを対象として、「フィードバック・プロセス」と名付けた。
フィードバック・プロセスには森林や北極の海氷、海底のメタンハイドレートなどが含まれ、現時点では人類が炭素と気温上昇による最悪の事態から逃れる手助けをしてくれている。
もしこのうちのひとつが敵となり、大気中に大量のCO2を排出し始めると、他のフィードバック・プロセスもドミノ倒しのように連鎖するのではという懸念がある。
「ホットハウス・アース」とは?
一言で言うなら、よろしくない。
研究論文によると、ホットハウス・アース期に入った地球では過去120万年で最も高い気温を記録することになる。
気温は産業革命以前と比べ4~5度高い水準で安定する。あらゆる氷が溶け出し、海面は現在より10~60メートル上昇するだろう。
つまり、地球の一部は人が住めない状態になる。
ホットハウス・アースの影響は「甚大で、時に突然で、間違いなく壊滅的」だと研究チームは指摘する。
唯一良い面があるとすれば、最悪の事態は向こう1~2世紀の間には訪れなさそうだということだ。しかし、一度始まってしまったら止める手立てがない。
英国や欧州を襲っている熱波はホットハウス・アースの影響?
現在世界中で起きている異常気象が、ただちに気温上昇が2度を越える危険に関係するとは言えないと、論文の執筆陣は説明する。
しかし、これまでに考えられていた以上に、地球は温暖化に敏感だという証拠かもしれないと言うのだ。
ロックストローム教授は、「こうした異常気象から学び、証拠として受け止め、もっと注意深くならなくては」と話す。
「産業革命前比プラス1度でこうなるなら、他の異常気象についても、予想より唐突に起こり得ると言われても、少なくとも驚いたり退けたりしない方がいい」
このリスクは前から分かっていたのでは?
自然界の仕組みがいかに協力で、いかに繊細か、我々はこれまで過小評価してきた。それが、研究チームの言わんとするところだ。
これまでは今世紀末までに気温が3~4度上がれば、気候変動は地球全体の緊急事態となると考えられてきた。
しかし今回の論文は、気温が2度以上高くなると、今は気温上昇を防いでくれている自然システムが大量の炭素発生源へと変わり、地球が産業革命以前から4~5度高い気温になる「不可逆な道」を歩み始めてしまうと主張している。
何か良いニュースは?
何と答えは、「ある」だ。
ホットハウス・アースへのシナリオは回避できるが、その為には地球との関係を根本的に見直さなければならないだろう。
研究の共著者でコペンハーゲン大学に所属するキャサリン・リチャードソン教授は、「気候変動など地球規模の変化は、人類が地球全体で地球のシステムに影響を及ぼしていることを示している。つまり、国際コミュニティーが地球との関係を管理し、未来の惑星の状態に影響を与えられることを意味している」と話した。
「この研究では、その為に利用できるいくつかの手段を特定した」
つまり、今世紀半ばまでに化石燃料を使うのを止めるだけでなく、木を植えたり、森林を守ったり、どうやって太陽光をさえぎるか、大気中から炭素を取り除く機械を開発するかといったことにも労力を割いていかなければならない。
研究チームは人類の価値観や公平性、習慣、技術について総合的な再定義が必要だと指摘する。我々は皆、地球の世話役にならなくてはいけないのだ。
他の科学者の見解は?
この研究論文は極端だという意見もあるが、多くの科学者は結論はまともなものだと支持としている。
英イースト・アングリア大学のフィル・ウィリアムソン博士は、「この研究では、人類が気候に与えた影響の結果として、地球が『自発的に』冷却化する機会を人類が越えてしまったと指摘している」と説明した。
「人為的な気温上昇の影響で、今世紀末までにさらに0.5度上昇すれば、2度の気温上昇で起きるらしい臨界点越えが発生する。そうなると、ホットハウス・アースなど不可逆の変化がさらに起きることになる」
一方で、研究チームはこのように深刻な問題を人間は理解できるはずだと、人類に信頼を寄せているが、それは見当違いだという声もある。
英ユニバーシティー・コレッジ・ロンドンのクリス・ラプリー教授は、「人類史を振り返れば、これは能天気な希望だろう」と指摘した。
「右翼ポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭し、『国際主義エリート』の主張を拒絶している。さらに、気候変動そのものを否定している。そういう状況にあって、受け入れ可能な『中庸状態』に人類が地球を導けるようになるなど、必要な要素が揃うなど、可能性は限りなくゼロに近いはずだ」