児童虐待をどう防ぐかは依然として社会の課題だ。政府は対策を進めてきたが、痛ましい虐待死はなくならない。孤立や貧困が弱い子どもたちを追い詰めている。あらゆる手を尽くすべきだ。
地域の支え合いが弱まり孤立が深まっている。非正規雇用が増え貧困も広がっている。その先に虐待が起こる。
必死に生きる親子を社会から孤立させない取り組みこそ求められている。
SOSをノートに書き残し両親の虐待で亡くなった東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5つ)の事件を受け政府が緊急対策をまとめた。
柱は、緊急時の子どもの安全確認の徹底と、児童相談所で相談や指導、支援を担う児童福祉司を約二千人増員することだ。今の約三千二百人から大幅に増やす。
虐待の対応には専門職が不可欠だ。人材確保は喫緊の課題である。公務員は削減の方向だが、必要な人材は増やすべきだ。
安倍政権は子育て支援として教育・保育の無償化を打ち出し、消費税増税分の一部を財源に充てる方針だ。それも必要だろうが、虐待対応は命がかかっている。児童相談所の体制強化に必要な財源は優先的に確保すべきではないか。
人材の育成には時間もかかる。政府は一過性に終わらせず継続して取り組む必要がある。
目黒区の事件は、転居元と転居先の児童相談所間で情報共有が不十分だった。緊急対策では迅速な対応が必要な事案は対面による引き継ぎを行う。徹底した共有を図ってほしい。
警察との情報共有も進める。既に愛知県は四月から、県の児童相談所が把握した虐待を疑われる情報全件を県警と共有している。関係機関同士での情報や危機感の共有が、どこに暮らしていても切れ目のない支援につながる。
児童相談所は子どもたちの命を守る最後の砦(とりで)だ。だが、虐待を防ぐにはそこに至る前からの支援が大切になる。
緊急対策では、自治体の乳幼児健診が未受診など関係機関が安全を確認できていない子どもの情報を九月末までに把握する。
問題を抱える家庭は疲弊していて自ら声を上げることもできない場合が多いだろう。支援の必要な家庭を早く見つけ出す取り組みをさらに進めるべきだ。
全国の児童相談所が二〇一六年度に対応した虐待件数は、十二万件を超え過去最多となっていることを忘れないでほしい。
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