「脱欧入亜」へ漂流する英国

EUからTPPへ

2018年8月7日(火)

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2018年7月20日、北アイルランドを訪問したメイ英首相。EU離脱後の経済協力構想に対する支持を、有権者に訴えた

 明治維新から150年。福沢諭吉の「脱亜入欧」は明治の基本思想だったが、日本がめざした英国はいま逆に「脱欧入亜」に傾斜している。欧州連合(EU)からの離脱(BREXIT)交渉は難航を極めており、このままでは合意なき「無秩序離脱」を余儀なくされる。そのなかで英国は日本が先導する環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を模索し、アジア太平洋に活路を開こうしている。150年後の日英逆転は、かつての「大英帝国」の漂流ぶりを浮き彫りにしている。

150年後の日英逆転

 明治維新を受けて派遣された米欧使節団(岩倉具視使節団)は、米欧先進国と日本との落差を身をもって感じたはずだ。「脱亜入欧」が明治の基本思想になったのは当然だった。とりわけ産業革命さなかの英国で使節団は、ロンドン・シティーや各地の製造工場を視察し、富強の源泉を見出したと「米欧回覧実記」は記している。英国は日本にとって大きな目標だった。日露戦争を前にした1902年の日英同盟は日本の国際戦略の土台になった。夏目漱石や南方熊楠のように、英国で学んだ文人も多い。

 その英国がいまEU離脱をめぐってもがき、日本にTPP参加を求めてきている。メイ政権はEU離脱後の方針をまとめた「白書」でTPPへの参加を検討することを明記した。来日したフォックス国際貿易相は、安倍首相にTPP参加を打診した。フォックス国際貿易相は日本経済新聞との会見で、「(EUからの離脱期限である)2019年3月を過ぎれば、交渉に入ることができる」として、早期加盟をめざす姿勢をのぞかせた。

 TPPに参加する日本、カナダ、オーストラリア、シンガポールなどの各国が自由貿易を信奉し、TPPが世界の成長センターになれると踏んでいるからだろう。TPPが「大英帝国」の流れをくむ英連邦の国々を含んでいることも、英国が引き寄せられる背景にあるようだ。

TPPの国際政治力学

 英国のTPP参加表明に対して、日本政府は基本的に歓迎する姿勢である。TPPはトランプ米大統領が就任早々、離脱を表明したことで構想そのものが頓挫する恐れがあった。そこを何とか「TPP11」といわれる11カ国だけでの再出発にこぎつけたのは、日本外交の大きな得点といえる。トランプ発の保護主義に対して防波堤になったのは事実だ。11カ国から加盟国をさらに拡大できれば、この先進的な自由貿易協定の存在意義も高まる。

 いまのところタイ、フィリピン、インドネシアなど東アジア諸国連合(ASEAN)諸国からの参加の可能性はあるが、英国の参加によって欧州に「飛び地」ができれば、新たなタイプの自由貿易協定として期待しうる。もちろん、英国の参加にはTPP先行11カ国すべての合意が条件だが、リーダー役の日本が受け入れれば、受け入れ合意は成立しやすいだろう。

 実はトランプ大統領のTPP離脱表明を受けて、日本の外交筋にはひそかにEUを離脱する英国にTPP参加を働きかけようという考え方が浮上していた。米国抜きのTPPにあってリーダー役を担う日本とEUを離脱する英国との利害の一致があったといえる。

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岡部 直明

岡部 直明(おかべ・なおあき)

ジャーナリスト/武蔵野大学 国際総合研究所 フェロー

1969年 日本経済新聞社入社。ブリュッセル特派員、ニューヨーク支局長、論説委員などを経て、取締役論説主幹、専務執行役員主幹。早稲田大学大学院客員教授、明治大学 国際総合研究所 フェローなどを歴任。2018年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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