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オーバーロード:前編 作者:丸山くがね
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外伝:頑張れ、エンリさん-4


 2日の時間を置いて、エンリの生まれ故郷であるカルネ村の壁が見えてきた。しっかりとした丸太が立ち並ぶ姿は鉄壁を思わせるものがあるが、エンリが見てきたエ・ランテルの城壁と見比べるとはるかに劣ってしまうのは仕方が無いことだ。


「いやーやっと見えてきましたね」


 そうエンリに声をかける者がいた。それは馬車にのったゴブリンである。

 今までいなかった筈のゴブリンがどうしてという疑問は簡単に答えられる。


 エ・ランテルにまさかエンリだけで向かったわけではない。ゴブリンたちに守られながら向かったのだ。当然、エ・ランテルに入る前にゴブリンたちを降ろしてきたというわけである。

 ただ、ゴブリンは全てではない。

 エンリを警護して来たのはゴブリンが5体、そしてゴブリン・クレリックにゴブリン・ライダーが1体だ。

 全員で守らなかった理由は新たにエンリの部下になった――なってしまったというべきか――オーガの存在だ。部下になってまだ時間がたってないため、忠誠心に疑問が残る。そのため完全に村の守りを空にすることは出来ない。そんなわけで警戒の意味を込めてゴブリンの大半を残してきたという寸法だ。


「そうですね。あと少しですね」


 カルネ村の壁が見えてきたからといっても、ここは隠れる場所が殆ど無い草原地帯。距離的にはまだまだかなりある。

 馬車はそのまま殆ど草に隠されつつある細い街道を、ゆっくりと進む。



 それからどれだけ進んだろうか。エンリにゴブリンの緊迫感を持った声が届く。


「エンリの姐さん。向こうを見てください」

「え?」


 隣に乗ったゴブリンの指差す方。そちらを見たエンリの視界に一台の幌馬車が見えた。草原の真っ只中を抜けるように走る馬車は、真っ黒な馬2頭に引かれている。エンリの記憶にまるで無い馬車だ。そしてその後方にはその馬車を守るかのように、4体の騎兵がいた。いや、あれは騎兵なのだろうか。

 4色のそろぞれ違う色の馬――赤、白、青、黒。そしてその上に乗った者は全身をフードで隠し、その下は完全に見えない。目にすれば異様な雰囲気をかもし出しているにもかかわらず、その気配はやけに希薄だ。


「あれは一体……」

「……あの御者台に乗ってる女、どこかで見たことが無いですかね?」


 エンリは目を細めて御者台に座る人物を見ようとする。しかしながら距離があるため、流石に完全に把握することは出来ない。


「……分からない……」

「そうっすか……ちと俺達は隠れています」

「あ、はい、お願いします」


 無論、隠れるといっても隠れる場所なんて殆ど無い狭い荷馬車の中だ。村で使うための様々なもの――新しい布とかを積み上げた荷物の後ろに隠れるように移動するのが精一杯だ。ウルフに乗ったライダーは、すこしばかり離れると、走るのを止め、草原に伏せるような形で姿を隠す。


 そんなこんなしている内に、その見慣れない馬車もエンリに気づいたのか、進む方向を微妙に変え、エンリの方へと進んできた。

 僅かにエンリの胸が不安で高鳴る。だが、その不安も直ぐに消えていった。その馬車を操作する御者台に座った女性。その顔に見覚えがあったためだ。


「ルプスレギナさん!」

「ちっす。エンリさん」


 並行するように走る馬車の御者台に座る女性――アインズのメイドであり、輝かしい美貌の持ち主だ。そんなエンリもよく知っているルプスレギナに、挨拶を送る。ちゃんとした街道とは言えないが、一応は街道を進むエンリの馬車に対し、草原を平然と進むルプスレギナの幌馬車。

 二者の差は圧倒的だ。

 その違いは引く馬の数であり、差だろう。


「……凄い馬ですね」

「? 確かにそうかも知れないっすね。アインズ様の保有されるアイアンホース・ゴーレムっすから」


 アイアンホース・ゴーレム。

 フルプレート・バーディング――馬用の全身金属鎧を纏った巨馬にも見えるそれは、エンリの村にいるストーンゴーレムと同じ種類の動く非生物だ。強固な肉体と装甲を持つため、敵のど真ん中に突っ込むことも出来る馬だが、戦闘能力自体はさほど高くない。


 ゴーレムと聞いて、エンリの頭に浮かんだのはストーンゴーレムの力強さだ。それほどのものが2頭で引けば、それは確かに草原も容易く走破できるだろう。千切れ飛んだ草が車輪に絡みついたとしても。

 エンリは馬と幌馬車から視線を動かす。その頃、後ろに隠れていたゴブリンが隠れる必要がなくなったと、エンリの横に戻ってきた。


「お久しぶりです、ルプスレギナさん」

「おお! ゴブリンさんじゃないっすか、ちわっす」

「エンリの姐さんに代わって聞きたいんですけど、今日はどうされたんですか?」

「姐さん……?」ちらりとルプスレギナの視線が動く。「ああ、エンリさんに頼まれたものを届けに、っすよ」

「もうですか?」


 エンリは僅かに驚いた。その後で安堵の息を漏らす。早急に薬草を売りに行って正解だったと


「ええ、早い方がいいだろうと思ってっすよ。それにアインズ様も早急に届けておけといわれましたしね」


 ニコリと満面の笑みを浮かべたルプスレギナに、エンリは眩しいものを見るように目を細める。いつも彼女は太陽のような明るい笑顔を浮かべているな、そんな思いがこみ上げてきたからだ。


 まるで知人のような考えだが、これはアインズがゴーレムを連れてきたときのように、村に来るときは大抵ルプスレギナを側に控えさせていた。その結果、エンリともある程度の面識が出来たからだ。もはや知人といっても過言では無いだろ程度の付き合いはあるとエンリは自負している。


「じゃぁ、これから村にいかれるんですね」

「そうっすよ」

「じゃぁ、あの方達も一緒ですか?」


 エンリの視線の先、それは少しばかり離れたところで追走するように走ってくる4色の馬に乗った4体の騎兵のことだ。


「ああ、彼らはこの辺で待機させるつもりっすよ」

「え? ルプスレギナさんの知り合いの方では無いんですか? 村まで一緒にこられても構いませんけど?」

「いや、まぁ知り合いというか……あれは護衛っすよ、護衛。アインズ様の生み出した直轄の護衛。私よりも強い奴らっす」


 エンリはルプスレギナという人物がどれだけ強いのか知らないが、ゴブリンたちが全員でかかっても相手にならないと話しているのは知っている。それから考えると丘にいる4体の騎兵はどれほどの強さを持つのか。そしてそれを生み出す大魔法使いであるアインズはどれだけ強いというのか。


「あのデス・ナイトさんというのと同じぐらい強いんですか?」


 一瞬だけ、ルプスレギナはきょとんとした顔をしてから、破顔する。


「そうっすね。それぐらいっすよ、きっと」

「ふーん、そうなんですか」


 エンリからするとアインズという存在を除き、最も強く感じるデス・ナイトを比較対象として持ち出したのは当たり前のことだ。ルプスレギナがどの程度強いのかというのは全然エンリからすると想像もつかないことだし。


「で、さっきのあれですけど、冗談きついっすね。さすがにあんなの村まで連れて行ったら皆さんが怯えちゃうじゃないっすか」

「確かにそうかもしれないですね」


 どうなんだろうと思いながらも、エンリは同意する。

 村の人間はゴブリン、オーガとモンスターに見慣れた所為か、平然としてそうな気がしないでもない。しかし混乱する可能性の方が高いのは事実。無駄に混乱を生み出すことも無いだろう。わざわざ向こうから遠慮してくれているのだから。


「うんじゃ、まずは色々とお渡ししたいですし、村の中で目が付かなくどこか広い場所があったら教えて欲しいんですが?」

「家の中の方が良いんですか?」

「あー」ルプスレギナが立てた親指で幌馬車を示す。「魔法の武器とか鎧なら使用する人間にフィットする感じで形を変えるんですが、普通の鎧とかになると多少形を整える必要があるんっすよ。その鍛冶仕事をする奴が中にいましてね。あんまり村の人には見られたくは無いかなっと」

「そうなんですか……」


 幌馬車の中は隠れて見えないが、どんな人物がいるのか、とエンリはごくりと唾を飲む。


「なら、おれたちの住居に来るといいと思いますぜ」

「ああ、そうですね。ゴブリンさんの住居なら充分広いですし」

「そうっすか? ならそこまで案内してくれるっすかね?」

「構いませんぜ。なら俺だけそっちに移りましょうか?」

「あー、飛びのるっすか?」

「……そいつは勘弁してください。そんな速度は出てませんが、落ちたら怪我は確実ですからね」

「まぁ、そうっすね。なら一端止めてもらってもいいっすかね、エンリさん」

「はい。分かりました」




 村の人間に頼まれていたものを渡し、エンリがゴブリンたちの住居となっている家屋に到着したのが、ルプスレギナにおおよそ30分遅れてぐらいだった。

 ゴブリンたちの住居はオーガたちを部下にしたことによってより大きく改築されており、この村でも最も大きな建物へと変わっていた。しかもオーガが暴れても良いようにと屈強に改築したために、家屋というより四角い箱を思わせた。


 エンリは近づくと、オーガですら通れるように大きく作られたドアの左右で座っていたゴブリンが慌てて立ち上がる。


「エンリの姐さん! お帰りなさいませ!」

「お帰りなさいませ!」


 かなり大きな声での挨拶に、エンリは言葉を返さずに頭を軽く下げる。

 エンリは自らの顔が真っ赤に熱せられているが感じ取れていた。正直恥ずかしいからその挨拶はどうにかして欲しいのだが、ゴブリンもオーガも決して止めようとはしない。ゴブリン・リーダーに士気を保つために必要ですとか言われてしまえば、エンリとしても断る力が抜けてしまうというものだ。


「えっと、入れてもらえますか?」

「勿論です、姐さん!」


 ゴブリンが力を入れて扉を開く。オーガが通れるサイズの扉であるために、そこそこの重量がある。エンリでも開けられるが、それは結構力を入れる仕事だ。

 開いた扉から中に入る。

 中は薄暗い。窓に当たる部分が完全に下ろされているために、明かりがまるで入ってこないためだ。ゴブリンやオーガは闇視を持っているためこの暗さでもまるで苦にはならないが、エンリからすると少々歩きづらい暗さだ。


「えっと……」


 入った直ぐ横手を探ったエンリの手に小さな棒のようなものが当たる。目的の物を見つけたエンリはキーワードを唱えた。


「光れ」


 闇を切り裂くような白い光が周囲に広がる。《コンティニュアル・ライト/永続光》が付与されたマジックアイテムである。

 その光を捉え、走ってきた者たちがエンリの顔を見て、深々とお辞儀をした。


「お帰りなさいませ! 姐さん」

「お帰りなさいませ!」

「オカエリナサイマゼ、アネザン」


 ゴブリン、オーガの声を受けつつ、軽く頭を下げるとエンリは問いかける。


「ルプスレギナさんはどっちに?」

「はい、案内します」


 ゴブリンに案内されるように、広い室内歩く。

 ゴブリンの家屋は大きく分けると3つ――中央部分と左右に別れている。片方がゴブリンの住居で、片方がオーガの住居だ。案内されたのは中央部分だ。そのある場所。最も大きいはずの場所に近づくに連れ、むっとした熱気が伝わってきた。本来であればそんなものが伝わってくるはずが無い。


「これは?」

「はい。ルプスレギナさんが連れてきた鍛冶師が鍛えなおしている熱気ですね」


 耳をすませば確かに金属を叩く軽快な音が聞こえてくる。エンリがマジックアイテムの起動を解除している間に、ゴブリンが扉を開ける。そこからはさきほどを倍する熱気が流れ出し、エンリの顔を叩いた。


 光が差し込む。

 そこは言うなら中庭に当たる部分であり、ゴブリンやオーガが剣を振るったりするために使われる場所だ。村の中で剣を振るっても問題は無いのだが、余り喜ばれるものではないし、子供が寄ってくれば危険だ。そのためこういった場所で剣を振るっている。

 そんな目的に使われるために、この家屋でも最も広い場所には、殆どのゴブリン、オーガたちが集まっていた。


「お前ら! 姐さんのお帰りだぞ! 声を合わせろ!」


 ゴブリンリーダーの声にあわせ――


『お帰りなさいませ!』


 無数のだみ声が調和され、騒音となってエンリの耳に届く。


「はい、ただいま」


 ぺこりと頭を下げたエンリに、今度は綺麗な声が届いた。


「お待ちしてたっすよー、エンリの姐さん」

「止めてください、ルプスレギナさん……」

「アハハハ。いやー、似合うっすよ、エンリの姐さん」


 似合うといわれ、一瞬だけ複雑な表情をエンリは浮かべるが、直ぐにルプスレギナの冗談だと判断し、すこしばかり不満げに頬を膨らませる。

 そんなエンリの不満を金属が叩かれる音が吹き飛ばす。熱を放つそちらに視線をやったエンリは驚く。


 そこにいたのは2体の金槌を持った燃え上がる生き物だ。全身は真紅の鱗に包まれており、炎が鱗の隙間から漏れ上がり、全身を完全に覆いつくしている。下半身は蛇であり、上半身はトカゲにも似た爬虫類だ。

 そんな2体のモンスターが交互に胸当てを叩いている。時折、2体のモンスターが触ると徐々に胸当ては赤く染まりだし、その状態になると再び叩くという作業を繰り返している。

 心奪われたように眺めるエンリに、説明するようにルプスレギナが声を発する。


「サラマンダーの鍛冶師っすよ」


 ルプスレギナの話にあった鍛冶仕事を行うものというのが、あのモンスターかとエンリは感心半分で眺めていた。


「……とりあえずは約束のオーガ用鋼鉄製ブレストプレート5着と同じく鋼鉄製グレードソード5本。ゴブリン用の鋼鉄製高品質マチェット6本、鋼鉄製高品質チャインシャツ13着。用意したっすよ」

「ありがとうございます」


 エンリは頭を下げると、持ってきた金貨を大量に詰め込んだ袋――5キロ以上はあるそれをルプスレギナに差し出す。


「アインズ様から貰った金貨に、私が稼いだ金貨を足してあります。お約束の金額は揃っていると思いますが、一応お確かめください」

「ほい、確かに」中身を一切確かめずに、ルプスレギナは肩から担ぐように背負う。そしてエンリの視線に含まれた感情に対し、笑みを見せる「中身の金額とか……ぶっちゃけ気にしなくても良いっすよ。アインズ様が渡した金貨さえ返してもらえればこっちは問題無しなんすから」


 実際、ルプスレギナが持ってきた装備品を普通に買ったら、エンリの提示した金額では心許ない。かなり疲労した使い古しでも買えるかどうか微妙なラインだ。つまりこれだけの武装をエンリが受け取れるのは、ほぼアインズの好意だと言うことだ。

 それであればエンリが仕事をする際に、アインズが渡した金貨200枚だけで全て終わらせてしまえばよいという考えも浮かぶかもしれない。しかしながらアインズはそこまで寛大ではない。自ら金貨を集めようとする気があるのか、それともこちらに寄りかかってくるだけの存在か。それが知りたかったという試しの部分もあったということだ。


「アインズ様はちゃんと金貨100枚を稼いでくるなら、武装を渡す価値はあるとおっしゃっていました。エンリさん。あなたはアインズ様の試しをクリアされたんですよ」


 突如、口調の変わったルプスレギナに飲まれるようになりながらも、エンリはなんとか意思表示として頭を下げる。そんなおどおどとした小動物を思わせるエンリに優しく微笑み、ルプスレギナの雰囲気が再びいつものものへと戻る。


「うんじゃ、とりあえずわたしはこいつを馬車の方に置いてくるんで」


 ルプスレギナが中庭を出て行くと――


「――エンリの姐さん」


 神妙な顔でゴブリン・リーダーがエンリの前に立つ。その後ろにはゴブリン、そしてオーガたちが並んでいた。


「今回は俺達のために金を出してくれてありがとうございます!」

『ありがとうございます!』


 一斉に調和の取れた声で感謝の言葉がエンリに投げかけられる。そして乱れぬ動きで頭を下げる。


「そんな気にしないでください」


 慌てて、顔の前でパタパタと手を振るエンリに、ゴブリン・リーダーは深い感謝を込めて語る。


「何をおっしゃいますか。危険を承知で行った仕事で貰った金銭を全て支払ってまで、俺達に武装を整えさせてくれるとは……どれだけ感謝しても足りません」

「ほんと、気にしないでください。戦う皆さんの武装を整えるのは当たり前なんですから」


 くぅっとゴブリンの幾人かが泣きそうな顔する。

 そこまで感動しなくても、とエンリは思う。命を懸けて戦う人に最大限のバックアップをするのは当然だろう。逆にそうすることで最大の戦力を発揮してもらえば、村だって守られるということなのだから。

 逆にそんなに感動されるとそちらの方が申し訳なくなる。


「姐さんの心は、しっかりと伝わりました。俺達全員、新たな武装でより優れた結果をお見せします!」

『お見せします!』

「あ……ははは、えっと……はい、期待してます……」

「そんな皆さんに、こんなおまけを持って来たっすよー」

「ル、ルプスレギナさん?!」


 いつの間に戻ってきたのか。エンリの後ろにニンマリと笑ったルプスレギナが立っていた。

 そしてどんと抜き身のグレートソードがつき立てられた。刀身には微かな白光が宿っていた。それは何かの光の反射しているのではなく、内部から輝いているようだった。

 そしてエンリはそんな剣のことを物語で聞いて知っていた。


「……これはもしかして魔法の剣ですか?」

「そうみたいっすね。特別強いものではないっすけど、一応は魔法の剣っすね」


 エンリの恐る恐るという質問に対し、ルプスレギナの返答は明瞭かつはっきりとしたもの。二者の価値観の基準がまるで違うことを明白にしている会話でもある。

 そしてエンリはその答えを聞き、おどおどした。


「こんなのお支払いをするお金がないです……」


 魔法の武器は最低レベルでも、通常の武器の数倍は値が張るもの。そんな容易く買えるものではない。


「ああ、気にする必要は無いっすから。この前……そこそこ前ですけど、色々とマジックアイテムを得る機会がありまして。……まぁ、外見はいじってますから安全っすよ」


 最後のルプスレギナの言葉の意味が少々分からないのだが、つまりは只でくれると言う。

 エンリは戸惑う。ここまでのものを只で貰う理由はないし、目的が理解できないからだ。只よりも高いものは無いということだ。

 しかし……。


「ありがとうございます。アインズ様に宜しくお伝えください」

「はい。了解したっすよ。……しかし悪い意味じゃないっすけど、断るかと思っていたっすよ?」


 確かにエンリとしても最初は断ろうかと考えた。しかし――


「魔法の武器じゃないと倒せないモンスターもいるって聞きますから。この恩はしっかりと覚えておいて、どこかで返せばいいかなと」

「ふむー。状況判断も的確……。どこで遠慮すべき場所かも理解できているか……」

「そ、そんなことは無いですよ。ほんと、たまたまですから!」


 照れるエンリをルプスレギナは真剣な顔で眺め、それから誰にも聞こえないようなほど小さな声で呟いた。


「流石はアインズ様。人の評価も適切とは……。単なる小娘ではないと、こちらも多少評価を上げておく必要ありか」


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