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オーバーロード:前編 作者:丸山くがね
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外伝:かつてのナザリック『姉弟の関係』


「じゃぁ、モモンガさん。やまちゃんとあんちゃん連れて、アウラのところにいますね」

「はい。了解です」

「約束の時間の20時には絶対戻ってきますから」

「分かりました。ただ、炎の巨人狩りの面子が時間よりも先に集まったら呼びますから、そのときは急ぎで来てくださいね」

「了解でーす」


 返答するモモンガの前にいるのは肉感的とも言えるようなピンク色の塊だ。

 スライム系の外装でこんな色にするものはあまりいない。てらてらした光沢のスライムが、プルンプルンゆれる様はあまり見栄えの良いものではないからだ。

 そんな何処となく内臓を思わせる姿が、意外に俊敏な動きをしながら、モモンガから離れるように移動を仕掛けたその時――


「ぶくぶく姉ェ」


 ――第三者の声が届き、硬直するようにスライムは立ち止まる。それからぐにゃりと動いた。前後というものが分かりづらいスライム系の外装だが、恐らくは声のした方を向いたんだろうなと流石にモモンガにも予測は立つ。


「おい。私をその名で呼ぶとは、次に実家に帰ったときが楽しみだなぁ」


 地獄の底から聞こえるような静かで重い声に、その人物は気押されるように硬直する。


「……怒るぐらいならそんな名前付けんなよ!」

「あーん? 私がネタにするのはいいんだよ。それとアインズ・ウール・ゴウンのメンバーもな。でもお前は駄目だ、弟」


 必死の抵抗をばっさりと切られたのは、華美な装飾の施された鎧で全身を包んだ戦士風の男だ。込められた魔法の力が周囲に放射され、光の翼を背負っているようにも見える。

 そんな全身鎧を纏い、顔も仮面で覆っているその人物を、男と判明するのは声質がそうだからだ。そして勿論ギルド長であるモモンガがその人物を知らないわけが無い。


「あ、どうも。ペロロンチーノさん」

「こんばんわです。モモンガさん」


 互いにペコリと軽く頭を下げあう社会人同士。プルプルと震える肉塊はペロロンチーノ横に並ぶと、塊から手が伸び、全身鎧を触りだす。


「ほんと、その鎧、どこかの聖衣みたいだなぁ」

「姉ちゃん、クロスって?」

「15年ぐらい前にアニメがリメイクされただろ? モモンガさんも知らない?」

「ええ。私、アニメとかはあんまりなもので」

「俺も……」

「お前はエロゲー原作しか見ないからな」

「そんなこと……ないよ……いやマジで。姉ちゃん、モモンガさんの前で俺の評価落とすようなことしないでくれよ……」


 両方の肩を落としたペロロンチーノになんと声をかければ良いのか。モモンガが言葉に詰まっていると、肉塊は今だ追撃の一手をやめない。


「……事実を事実といって何が悪いのかしら」

「姉が『ひぎぃ』とか『らめぇ』とか言っていた作品のアニメ化なんて見るわけねぇだろ!」

「……知ってはいるんだな?」


 うぐっと声を詰まらせるペロロンチーノ。なんとなく場が悪そうに立ち尽くすモモンガ。


「……なぁ、普通の作品にも出てるんだからエロ系は引退してもいいじゃん。5つも6つも名前変えながらエロゲーに出るのはやめね?」

「給料的にも拘束時間的にも美味しいんだよ?」

「それでもさぁ……」

「別に本番してるわけでも――」

「止めてくれ! 家族の生々しい話は聞きたくないんだ! しかもモモンガさんがいるんだぞ!」


 こんなときに存在をアピールするのはやめてくれないかなと、端っこで小さくなろうとしていたモモンガは呟く。


「もう、声優なんて辞めろよ!」


 ピシリと空気が変わったようにもモモンガは感じ取れた。恐らくはここは仲裁に入るのが最も正しいギルド長なんだろうが、残念ながら怒れる女性プレイヤーの前には立ちたいとは思わない。

 故意的にペロロンチーノの助けを求めるような視線は無視をする。


「ほう、言うじゃないか。お前だって私が水野のサイン貰ってきたときは無茶苦茶喜んでいたくせに。あのときなんだっけ? 私が声優についてくれたからです、とか土下座しながら言っていたよなぁ」


 うぐっと言葉に詰まるペロロンチーノ。それに何を思い出したのか、肉塊はプルプルと震える。


「そーいや、あいつ私と仲が良いだけあって、結構下ネタ好きだよ?」

「うるせー! 俺のみずっちは紅茶を嗜むお嬢様なんだよ! 姉ちゃんみたいにエロゲーに出る奴とは違うんだよ!」


 水野というのが誰なのか、モモンガは分からなく困惑するが、やがてペロロンチーノが良く話題にしていた声優だということを思い出す。

 つい最近出たゲームの音声案内もやっていると言う話だ。


「……あいつだって名前変えてエロゲー出てんじゃん。私と始めてあったの、エロゲーでだよ? 現実、見ろよ」

「違うんだよ! あれは野水って奴で俺のみずっちとは別人なんだよ!」


 狂乱したようにオーバーなゼスチャーで、思いのたけを迸らすペロロンチーノ。

 肉塊は恐らくという言葉がつくが、思いっきり引いたように体をのけぞらした。そしてプルプルと体を動かし、もう疲れたといわんばかり雰囲気でモモンガに向き直る。


「そうか。男って大変だな……。あっと、モモンガさん。二人とも待ってると思いますし、これで行きますね」

「あ、……ええ、ではまた後で……」


 モモンガとしてはショックを受けているペロロンチーノをここに置いたまま行ってしまうのは避けて欲しいが、それを言っても仕方が無い。遠ざかっていく肉塊と、がっくりしているペロロンチーノを眺め、ため息を1つついた。

 そしてぼやく。


「なんだかなー……」


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