事件前夜、たっち・みーはスルシャーナのNPCの一人――ルシャナから相談を受けていた。出会った当初はやたらとたっち・みーを目の敵にし、色々とイザコザもあったものだが。今では一番仲の良いNPCだ。
そんな彼女が夜間、思い詰めた表情でたっち・みーの自室を訪れた。淹れたお茶が冷め切った頃、ようやく重い口を開く。
「スルシャーナさんの様子がおかしい?」
「はい……そうなんです」
悲しげに目を伏せ、ルシャナはぽつぽつと語り始めた。聞くところによると、どうやら一年程前からスルシャーナの様子が変だという。
たっち・みーといるときこそ以前のように振舞っているが、それ以外では一切笑わなくなったそうな。さらには言動の端々にわずかではあるが人間への敵意、憎悪が見え隠れするとのこと。
仲間のNPCたちにもそれとなく話してみたが、皆盲目的にスルシャーナを崇拝しており、けんもほろろにあしらわれた。それどころか造反の意思ありとみなされ、最近では仲間内からも疎まれているらしい。もうどうしようもなくなり、たっち・みーへ胸の内を吐露しにきたのだ。
「そういえば……」
たっち・みーにも思い当たる節があった。最近、スルシャーナはあまり人前に姿を見せようとしない。子供たちと遊ぶ頻度も目に見えて減っていた。本人は政務が忙しいとぼやいていたし、たっちもそうなのだと納得していた。しかし本当の理由は別にあったのかもしれない。
「私……わたし……
「…………」
これまで一人で悩んできた反動であろう。見る見るうちに彼女の瞳に大粒の涙が浮かび、頬を伝う。堰を切ったように泣きじゃくるルシャナにたっち・みーは我知らず愛娘を重ねてしまった。もう声も、顔すら忘れてしまったが。百年という途方も無い年月は彼から
かつての温もりに思いを馳せ、娘が泣いた時はどのようにしてあやしたか。記憶を頼りに彷徨う手は、自然と彼女の頭に置かれていた。
「……あ」
「大丈夫です、私に任せて下さい。きっと彼の笑顔を取り戻してみせますから」
たっち・みーは身を屈ませ、少女と同じ目線で出来うる限り優しく語りかける。
「ありがとう……ございます。たっち・みー様がいて下さって……本当に良かった」
ルシャナははにかんだように笑う。真珠のような雫を拭いながら。彼女が久方振りに心から浮かべた笑顔は、本当に綺麗だった。
・
翌日、たっち・みーはどう話を切り出したものかと悩んでいた。安請け合いをしてしまったが、元来彼も人の心の機微には疎いほうである。ユグドラシル時代はそのせいでクランのメンバーを一人失ったし、ウルベルトとも折り合いが悪かったのだから。スルシャーナの異変にも気づかなかったくらいだ。
これまでの自分を恥じながらスルシャーナの執務室を目指す。あっという間に辿り着いてしまった。しばしの間、扉の前で行ったり来たり。やがて覚悟を決め、ノックをしようとして、
「おや?」
中庭から聞こえる楽しげな笑い声。其方へ歩を進めると、スルシャーナが子供と遊んでる姿が見えた。逆光で少し判別し辛いが、少年を高い高いしてあげているようだ。
たっち・みーはホッと胸を撫で下ろす。どうやらルシャナの心配は唯の杞憂だったみたいだ。自分の感じた疑念もおそらく勘違いであろう。
「スルシャーナさ――」
声をかけるよりなお早く生じた強烈な違和感。その正体はすぐに判明した。子を支えるはずの白亜の手は脇ではなくその首へ。苦悶に顔を歪める少年は白目を剥き、口から泡を吐いて痙攣していた。
「は、ハハ……ハハは……ハハはハハハ!!」
楽しげな声は少年からではなく。スルシャーナの唇も舌もない口腔から漏れ出ていた。
「何を、何をしているのですかスルシャーナさん!?」
たっち・みーは弾かれたように飛び出し、その手を引き剥がそうとする。恐ろしい力だ、とても
たっち・みーのグレートソードが一閃。スルシャーナの腕を切り落とした。少年を受け止める。携帯していた小瓶を取り出し、急ぎ赤い液体を振り掛けた。
「オ……オオオ……邪魔……スルナ!!」
眼窩の灯が狂気を孕む。片腕を切断されたスルシャーナはおぞましい呪詛を撒き散らした。それはもはやスルシャーナではなく。生きとし生けるもの全てを憎むアンデッドそのものだった。
残った掌に拍動する心の臓が象られる。あれはかつてのギルド長も得意としていた死霊系の魔法。アンデッドはまだ少年の命を諦めていなかった。たっち・みーは選択を迫られる。泣き笑いを浮かべる少女と、今まさに恐怖に震える少年。躊躇いは一瞬だった。
(申し訳ありません、ルシャナさん。約束……守れそうにない)
「〈心臓――〉」
「
光刃が煌めき、スルシャーナだったものを袈裟懸けに斬り裂いた。
・
パァン、と乾いた音が中庭に響く。主に頬を叩かれたNPCは何が起こったのかわからなかった。困惑の表情でスルシャーナを見つめる。他のNPCも同様だった。唯一、ルシャナだけが全てを察し俯いていた。その目には涙が浮かんでいる。
「あなた方は自分が何をしたかわかっているのですか!」
「お、お許し下さい」
「我々の何が至らなかったのでしょうか……」
怒りに身を震わせるスルシャーナはNPCたちを激しく叱責した。NPCたちは何故自分たちが責められてるのか理解できない。
彼らが駆けつけた時、そこには凶刃を手にしたたっち・みーが立ち尽くしていた。足元には物言わぬスルシャーナ。そして怯え泣き喚く子供。
状況を曲解したNPCたちはルシャナが止めるのも聞かず、一斉に裏切り者へと襲いかかる。主を殺めた狼藉者は一切抵抗することなく、魔法の矢や雷撃、炎を浴びながら何処へと逃走した。今は衛兵たちに後を追わせている。
「う……う……」
「スルシャーナ様!?」
仲間の一人がまだスルシャーナに息があるのに気づく。空虚な眼窩にはまさに風前の灯火が。〈
覚醒したスルシャーナは事の顛末を聞くと烈火の如く怒り出した。
「彼は正気を失った私を救ってくれたのですよ! そしてこの少年の命も……私はもう少しで取り返しのつかない過ちを犯すところでした」
事情を把握したNPCたちの顔が徐々に青ざめていく。知らなかったとはいえ、主の恩人にあろうことか刃を向けてしまったのだ。許されることではない。
「早く彼を連れ戻しなさい! 今すぐに! それまであなた方の顔など見たくもありません!!」
『はっ!!』
ついぞ見たこともない剣幕に気圧され、NPCたちは東西南北に散り散りに飛び出した。一人残されたスルシャーナは両手で顔を覆う。
「たっちさん……私は……なんてことを」
かつてない絶望が彼を苛んだ。
・
たっち・みーにとっては容易く超えられる高さの壁を飛び降り、国境沿いの
「たっち様! たっち・みー様、お待ち下さい!」
背後から迫る聞き覚えのある声。昨晩振りの、出来れば今一番聞きたくないその声は。たっち・みーは後ろめたさと共に振り返る。
「ルシャナさん……」
「はあ、はあ……どうか、どうかお戻り下さいませ!」
ルシャナはばつが悪そうなたっち・みーの手を取り必死で懇願する。その様は祈りにもよく似ていた。
「スルシャーナ様は無事です! 皆も先の愚かな行いを非常に悔いております! どうか、贖罪の機会を」
「……理由はどうあれ、私は彼を手に掛けました。もうこの国にはいられません」
「そんなこと――」
ルシャナの言葉を遮り、たっち・みーは独白する。
「私はスルシャーナさんの豹変の理由が知りたい。だから、彼らのギルド拠点を――天空城を目指そうと思います」
たっち・みーの決意を秘めた言に少女はひどく狼狽する。
「そんな、そんなの嫌です! たっち様はスルシャーナ様にとって必要なお方です! ……私にとっても」
「…………」
涙ながらに訴えるルシャナの手を振りほどき、たっち・みーは背を向ける。
「行っちゃうんですか?」
「…………」
段々と遠ざかる背に問いかける。返事はない。
「帰ってきますよね? またスルシャーナ様と、皆で一緒に暮らせますよね?」
「…………」
ルシャナは精一杯の思いの丈をぶつけるが、その歩みは止まらない。その時、たっち・みーが小さく呟いた。
「……約束」
「え?」
「約束――守れなくて申し訳ありません」
それっきりたっち・みーは口を閉ざす。決して振り向くことなく、スルシャーナの国を立ち去った。泣き崩れるルシャナをおいてけぼりにしたまま。
・
たっち・みーはひたすら国から国へと渡り歩く。異形種の肉体とリング・オブ・サステナンスのおかげで強行軍での旅路が可能だった。途中、立ち寄った国や旅の行商人などから情報を集める。曰く、謎の大爆発である国が一夜にして滅んだ。曰く、大地が切り裂かれ深い谷ができた。曰く、竜の大群をみた。曰く、曰く、曰く。眉唾な情報や明らかな虚偽も混ざっていたが、ワールドチャンピオンたちと
玉石混交の中、とある情報がたっち・みーの目に留まった。一度足を踏み入れたら二度と戻って来れないという死の砂漠。越えたその先に、楽園のような都市があるという。オアシスにできたその都市は天から無限の水が降り注ぎ、かつてない栄華を極めているらしい。真偽を確かめようと砂漠にたくさんのキャラバンが訪れ、誰一人戻って来ないという。余程居心地が良く永住したのか、はたまた辿り着けずに何処かで干からびているのか。ではその情報は誰からもたらされたのか。皆人伝に聞いただけで知らぬという。なんとなく、あのワールドチャンピオンたちのような気がした。
日除けの分厚いローブを購入し、たっち・みーは単独砂漠入りを果たす。ラクダに良く似た生物の購入ももちろん検討した。しかし、移動速度上昇や体力増加など魔獣のための
たっち・みーはその一歩を踏み出した。足が砂に沈む。アイアンブーツの中に否応なしに進入してくる流砂に若干の後悔を抱きつつ、ただ一心不乱に歩き続けた。
・
「ようこそおいでくださいました、たっち・みー様」
「我らが主様方がお待ちです。どうぞ此方へ」
顔を薄いベールで覆った民族衣装の美女が二人、たっち・みーを出迎えた。筆舌し難い艱難辛苦を乗り越え、たっち・みーはついに砂漠越えを果たしたのだ。おそらく、単独でこの都市に辿り着いたのは彼が初であろう。容赦なく照りつける日光、襲い掛かる巨大な蠍やギガントバジリスク、昼夜でまるで別世界な灼熱の昼と極寒の夜。人骨や木乃伊、行き倒れたキャラバンの成れの果ての数々。正直、もう一度やれと言われても絶対に拒否するだろう。
美女たちの後を言われるがままに続く。生い茂る木々に豊富な水が天空城から降り注ぎ、巨大な湖を形成していた。日干し煉瓦で組み立てられた白い漆喰が特徴的な家々が、湖を中心に立ち並ぶ。思ってたよりたくさんの人々が生活を営んでいた。市が開かれとても活気がある。
壷を頭に載せ器用に運ぶ女性や丸めた絨毯らしきものを担ぐ人。値下げ交渉に熱くなる客と店主。元気に走り回る子供たち。とてもあのワールドチャンピオンたちが作った都市とは思えない。スルシャーナが長年かけて築いた都市と方向性の違いはあれど、さほど遜色ないレベルだった。他に気づいたことといえば、心なしか美女の割合が多く、男や老人はあまり見当たらないことくらいだろうか。
「此方へ」
橋を渡り湖の中心部へ。そこには魔方陣が展開されていた。ナザリック地下大墳墓でも階層移動の際に使用していた〈
・
アースガルズの天空城はその名に恥じぬ荘厳さでたっち・みーを迎え入れた。古の城を連想させる外観は、過去に実在した古城や修道院を参考にしたのだろう。一際高く聳え立つ鐘楼にいくつかの尖塔。ゴシック様式を基に建築された城は、城壁内に城下町が広がる独特の作りだった。案内人たちに連れられ城門を潜る。
そこはまさしく別世界だった。
『ようこそいらっしゃいました、たっち・みー様』
右手にメイドたち、左手に執事たちが幾人も列をなし、一糸乱れぬ動きで深々とお辞儀する。見上げる程に高い天井には豪奢なシャンデリアが色取り取りの光を。銀の燭台には
数百人が一同に会せるくらい広いエントランス・ホールには大階段が続き、その最上段からこの城の主たちが客人を見下ろしている。彼らは皆
「ようこそ、たっち・みー。我らが同胞よ」
「歓迎するぜ」
「お前よく徒歩であの砂漠渡ったなー」
「てか飛んで来いよ」
「マジうけるんですけどー」
「辛辣だなお前」
ワールドチャンピオンたちはたっち・みーに様々な言葉を投げかけた。十人十色だが概ね初めての来訪者を歓迎している様子が伺える。
出鼻を挫かれてしまった。たっち・みーは声を張り上げここに来た目的を高らかに宣言しようとして、
「身に余る歓待、感謝します。私は――」
「まあまあ、せっかく来たんだしゆっくりしていけよ」
「ごはんにしよーよー」
「……はい?」
気がつくとたっち・みーのために豪華な晩餐会が催されていた。白いテーブルクロスがかかった無数の円卓に、アーコロジーでもお目にかかれないようなご馳走が並ぶ。鼻腔を擽る匂いにたっち・みーは一瞬自分が何のために此処まで来たのか忘れそうになった程だ。頭を振り正気を保つ。兜を小脇に抱えたまま、この晩餐会の主催者、即ちワールドチャンピオン序列一位の元へ向かった。
「やあ、愉しんでいるか?」
「……おかげさまで」
男の言葉にたっち・みーは皮肉げに返す。男はソファーにもたれ懸かり右手にワイングラスを、左手で美女の腰を抱いていた。
「貴方に聞きたいことがあります」
「……ん?
心を読むかのような発言にたっち・みーは目を見開く。男はグラスを傾けながら愉しげに嗤う。
「何も特別なことなど願ってないさ。ただ、我らが生きやすいように世界を改変したに過ぎぬ」
「!? そのせいでスルシャーナさんが……彼らがどんな思いをしたと思ってるんですか!!」
激昂するたっち・みーはスルシャーナの精神が種族に侵食されつつある話をぶち撒けた。意外にも大人しく傾聴する男は一言「くだらん」と一蹴する。
「その男が弱かっただけに過ぎない。精神的にも肉体的にも、な。アバターの属性に精神が侵されるなど……その証拠に我やお前は別段変わりないではないか」
「それ、は……」
たっち・みーが言葉に詰まる。言われてみればその通りだ。二の句を告げずにいるたっち・みーに男は不快げに片眉を上げた。
「そのような弱者は不要であろう。決めたぞ、目障りな
「巫山戯ないで下さい! そのような暴挙、許す筈がないでしょう!」
声を荒げるたっち・みーを男は鼻で笑う。
「おや? 貴様は我らの仲間になりに来たのではないのかね?」
「違う! 私は……!」
瞬間、場の空気が一変した。男が抱いてたはずの女はいつの間にか姿を消し、忙しなく働いていたはずの給仕やメイドたちの姿も見えなかった。気がつくとその場には
「やーれやれ、やっぱりこうなったか」
「馬鹿だなあ、最後のチャンスだったのに」
衣服に速攻早着替えのクリスタルが仕込まれていたのだろう。たっち・みーを取り囲む男女はいつの間にか
唯一、私服のままの男はワイングラスの中の液体を愉しげに揺らす。
「最後にもう一度だけ聞こう。我らの同志となれ、たっち・みー」
此処で断るということは即ち死と同義だった。
「――お断りです」
それを承知の上でたっち・みーは誘いを蹴り飛ばした。兜を被りグレートソードを構える。
「そうか、残念だ――やれ」
男が赤い液体を飲み干すと同時に、七人のワールドチャンピオンは一斉にたっち・みーへと襲い掛かった。
「
「
「
「次元断層」
幾重にも次元が斬り裂かれ、また断層が生じる。ワールドチャンピオン同士の、ユグドラシルトッププレイヤー同士のぶつかり合いは一方的な展開を見せていた。
「ぐっ……」
当然であろう。たっち・みーが如何にして剣戟を織りなそうとも、その七倍の剣閃で返されるのだから。白の
もしここに粘液盾がいれば。あの斬撃の雨を全て防ぎきってくれるのに。サムライがいれば安心して背中を任せられるだろう。ニンジャなら一瞬の隙をつき、敵将の首を搔き切るに違いない。バードマンの超遠距離射撃もほしいし、女教師の怒りの鉄拳も心強い。ある程度ダメージを与えれば蛸の大錬金術師の超位魔法や、それすら超えた山羊の悪魔の〈
自分が倒れても問題ない。頼もしいギルド長が皆をまとめ上げてくれる……
そこまで夢想して、夢から覚める。一瞬の白昼夢。どれもこれも、自分が遠い過去に自ら捨て去ったものだった。
ここにいるのは孤独な聖騎士ただ独り。新たに出来かけた繋がりも、自身の手で断ち切ってきたばかりだった。
「はは……」
自嘲気味な笑いが自然に口を出る。自分は結局、いつも無くしてから気づく。本当に大切なものに、取り返しがつかなくなってから。
「……あまりに一方的だと興が削がれるな。たっち・みー、これを見よ」
何かを思いついたリーダーの男は虚空へと手を伸ばし、斬るのに全く向いてなさそうな剣を取り出した。遠目にも膨大な力を秘めしその剣は、ワールドチャンピオンたちは狼狽えさせた。
「ちょっ……」
「何考えてるんリーダー!?」
「それ破壊されたらちょー困るんですけど!?」
それぞまさに彼らのギルド武器。万一、億が一破壊されでもしたら天空城を含め、三十人の百レベルNPCや傭兵モンスター、物資、財宝などその他全てが消滅してしまう。彼らの唯一の弱点と言って過言ではない代物だった。
「何、八対一など圧勝して当然。ちょっとした余興よ」
リーダーはカラカラと愉快そうにギルド武器を弄んだ。ギルメンたちは頭を抱える。ワールドチャンピオンの中でも最強を誇る存在は、それ故に慢心していた。
「そら、貴様の勝利条件は此処にあるぞ」
最後の足掻きをみせろと言わんばかりの挑発的な行動。たっち・みーは咆哮をあげながら一直線にリーダー目掛け疾走する。
「ッチ……」
「待て!」
蛇を思わせる
「
刹那、身を翻したたっち・みーの白刃が二人の首をまとめて切断した。
・
「ふむ、まさか此処までやるとはな」
流石二人目にワールドチャンピオンとなった男よ――予想以上の奮闘振りにリーダーは気を良くし、手放しで絶賛した。彼の気怠げな拍手が冷え切ったホールに響く。たまたまクリティカルヒットしただけかもしれない。それでも、両腕を切断され血塗れで伏すたっち・みーは、土壇場でワールドチャンピオンを二人道連れにしたのだ。
「巫っ山戯んなよ、おい!」
「こちとらあんたのせいでやられたんだぞ!?」
殺された二人はたまったものではない。城内に存在するリスポーン地点から復活を果たした彼らは憤怒の形相でリーダーを責める。自分たちが殺されるとは毛頭思ってなかったので死亡対策は怠っていた。結果、互いに五レベル、死亡ペナルティによりダウンしてしまったのだ。
「ほう、貴様らがデスペナ対策を怠ったのは我の責とな」
「う……」
真紅の双眸に睨み付けられ、それ以上何も言えなくなる。
「阿呆が。貴様らがたっち・みーより弱かった、それだけの話よ。この程度で油断するとは情けない」
無能な部下たちから視線を外し、男の興味はたっち・みーへと移った。このまま放置するだけで後数刻も持たず絶命するだろうが、彼のリスポーン地点は知れない。復活を果たした後、雲隠れるのは想像に難くない。それではあまりにももったいなかった。何度も勧誘を断られたが、その技量は充分利用価値があった。男はある決断を下す。
「傾城傾国を持て。今すぐに、だ」
「おい、それは……!」
「性能実験は必要だろ? 喜べ、あのドレスは貴様のものだ」
「本当!? わーい!!」
有無を言わさぬ口調でリーダーが命ずる。こうなればもう誰一人逆らうことはできなかった。逆らえば最後、末路は床に転がるたっち・みーと大差ないのだから。念願の服を着れると紅一点の女だけが能天気にはしゃいだ。
「くく……ドリームチームの完成に」
男が盃を掲げる。他のワールドチャンピオンたちも追従した。
そして、たっち・みーの世界は純白に塗り潰された。